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新しい世界

117:聖騎士団の敵

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 マイクが私を背にかばったからか、
グルマンが顔を歪めた。

「そのような偽物をかばうとは
教会を敵に回すつもりかね?」

グルマンが片手を上げると
扉が開き、何人もの剣を持った
聖騎士…のような人たちが入って来た。

「ユウさま。必ずお守り致します」

小声でマイクが言う。

私は黒い聖獣に目を向けた。

黒い聖獣も私を見ている。

ここで戦いになるのだろうか。

正直、私の『力』で戦えるかはわからない。

魔獣を倒すことはできたけれど、
それはたぶん、聖なる力とか、
そういうので倒したんだと思うから。

人間相手に通用するかどうかは
試したことが無いので不明だ。

いっそ、試してみるか。

でも、もし…もしそれで
相手が大けがを負ったり、
死んでしまうかもしれないと思うと
気後れする。

たとえ『祝福』で、元の世界の
エロい倫理感が緩くなっても
誰かを傷つけてはいけない、
誰かを殺してはいけないと言う
倫理感はそのまま健在だ。

と、急に、一人の若い神官が
走って部屋に入って来た。


そしてグルマンに何かを言い、
グルマンは大笑いする。

「それはいい、お通ししろ」

若い神官は頭を下げ、
すぐに部屋を出る。

その後すぐに部屋に入ってきたのは…

懐かしい顔ぶれだった。

「これはこれは、
金聖騎士団の皆さん、
良いところにいらっしゃいました」

ゲルマンが扉の方へ歩いていく。

「今から、愛し子を名乗る偽物を
取り押さえるところだったのです」

「ニセモノ?」

赤みがかった金色の髪をした
背の高い男性が不審そうにグルマンを見る。

金聖騎士団団長の、ヴァレリアンだ。

「その長い黒髪の子が偽物なのかな」

茶色がかった金髪の優しい顔立ちの
男性がそれに続く。

カーティス、だ。
副団長で王子様。

「こんな街に偽物がいたとは。
王宮に連絡はなかったが」

その隣には青い髪に眼鏡をかけた
金聖騎士団の参謀。
スタンリーがいる。

その後ろに、体格が大きくて
はみ出るように見えるのバーナード、
そして、その後ろに金聖騎士団のヒヨコたち。

エルヴィンとケインが見える。

「いえいえ、偽物は
あちらですよ」

グルマンが私とマイクを見た。

「本物の愛し子様はこちらにいらっしゃいます。
見てごらんなさい。
黒き聖獣様を従える本物の愛し子様です」

金聖騎士団の皆の視線が
黒い聖獣に向いた。

「聖獣を従えることができるのは
世界広しと言えど、愛し子様のみ。

どちらが本物の愛し子様かは
一目瞭然でしょう」

グルマンはそう言うと、
黒髪の子どもに命じた。

その声に、子どもが私を指さした。

ぐるる、と黒い聖獣が牙をむく。

「ま、待て」

ヴァレリアンがそれを止める。

だがグルマンはおかしそうに笑った。

「何故止めるのです?
偽物の愛し子を排除するのを
止めるとでも言われるのですか?

聖騎士ともあろう方が、我が教会…いえ
神殿に背くとでも?」

その言葉に、ヴァレリアンが言葉に詰まる。

聖騎士だから、神殿に歯向かえないとかあるのかな?

「あーじゃあ、俺はそっちな」

緊迫した空気の中に、
間が抜けたような声がした。

「ディラン!」

金聖騎士団の皆の後ろから
ディランが出て来た。

「俺は聖騎士でもないし、
この国の人間でもないし。

俺はユウを守るために生きてるから」

言いながらディランは
私をかばうように腰を引き寄せる。

「俺はこの国が滅んでも、
ユウがいれば、それでいいしな」

何て言って、ディランはみんなの前で
私に口づけた。

「あー、やっとユウに会えた。
もう、めちゃくちゃ会いたかった。

こんなとこさっさと出て、
ユウを抱きたい」

って、何を言ってるのか、こんな時に。

「何を言っている」

私の心の声が出たかと思ったら
ヴァレリアンの声だった。

「貴様ごときがユウを抱くだと?」

「なんだ?
ユウを守れねぇやつが、
偉そうな口を利くじゃねぇか」

「ユウさま、こちらへ」

そっとマイクに手を掴まれ、
私はディランの後ろに回る。

ディランの背に隠れると、
「あぁ、じゃあ、俺もこっちかな。
団長たちには申し訳ないけど」
と声がした。

バーナードだ。

「俺は聖騎士だが、
ユウには命を捧げている。

可愛い弟分だし、
俺はそもそも王家や神殿なんて
勢力争いには無関係だからな」

そういってバーナードが私の前に立つ。

「じゃあ、俺も!俺も!」

無邪気な声で、エルヴィンが手を上げる。
可愛い緑の目が楽しそうに笑っていた。

「俺も貴族とか関係ないし、
ユウちゃんを守るって決めてるもんね」

「では、私もだな」

スタンリーもまた、私の前に立つ。

「私はただの宮使えだしな。
父はそれなりの役職だが、私には関係ない」

って、スタンリーは次期宰相さんなんだけどな。
でもいいか。嬉しい。

「じゃあ、俺も同じだ」
ケインが私の傍に来た。

いつも通りの真面目な顔で、
けれど、私と目が合うと、
そっと口元を上げて微笑んだ。

「父や祖父がどうあれ、
俺はユウを守ると決め、
あの時、命と剣を捧げたんだ」

ケインの祖父と父は教皇とか枢機卿なんだけど
いいのかな。

「ちっ、ヒヨコどもに先を越されたが、
俺たちも、ユウ側だよな、カーティス」

ヴァレリアンが横目でカーティスを見る。

「そうだね。
私は王子と言っても役立たずの3番目だし」

「俺は王弟の息子だが、
俺自身は関係ないしな。
そもそも、俺たち金聖騎士団は
王も神殿も、もちろん、教会も関係ない。

俺たちが剣を捧げるのは
女神の愛し子ではなく、ユウだからな」

結局、金聖騎士団の全員が
私の前に立った。

皆の背中を見て…
やっと会えた喜びと、
かばってくれた嬉しさと。

胸がいっぱいになってきた。

胸がいっぱいで、息が苦しい…。
いや、もともと、苦しかったけど。

……苦しい?

ん?

いや、苦しくない…気がする。

ずっと苦しかったのに?

胸がいっぱい…だったけど
違う気がする?

ん?

私…どうした?

皆の愛情を感じて、嬉しかった。

そして…?

私は『器』に意識を向ける。

そして、呆然とした。

今朝までマイクに抱かれて
満タンだった『器』は、物凄く減っていた。

いや、ちがう。
『器』が大きくなったのだ。

私が感じた愛情すべてを取り入れることが
できるように、今までの倍以上の大きさになっていた。

ちょっとまって?
こんなに大きい『器』が満タンになるほど
<愛>を注がれるって…大丈夫?

思わず不安になるほど、
『器』がデカイ。

でも。
目の前でヴァレリアンたちが
グルマンと口論してくれている。

マイクとディランの二人が
私の背中や腰を支えてくれている。

嬉しい。

そう思うたびに『器』が満たされていく。

うん。
大丈夫。

きっと私になら、できると思う。

私はみんなの背中を見つめて
ぎゅっと拳を握った。


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