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愛があるれる世界

347:結婚式だったのに

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 私とパパ先生は、それからずっと
『大聖樹の宮』の私の部屋で生活していた。

パパ先生は忙しそうで、
王宮と『大聖樹の宮』を行ったり来たりしている。

私の部屋から出る時は
必ずケインかエルヴィンが護衛に付いていて、
私はお留守番だ。

バーナードの結婚式は素晴らしかった。

婚約者のジュリさんが着ていたスーツは
薄い生地の布をふんだんに使っていて、
キュロットみたいだ、と言えばいいのだろうか。

裾がスカートみたいに広がって、
近くで見ても、凄く綺麗なドレスに見えた。

バーナードも幸せそうで、
胸にお揃いのコサージュを付けた二人は
幸せそうな顔で微笑みあって。

なのに。
そう、なのに!

私は式の前に二人にお祝いの言葉を言い、
式の様子は見ることはできたのだけれど。

その後の披露宴パーティーには参加できなかったのだ!

その理由は私が、女神の愛し子だから。

王家とも神殿とも距離を置き
かかわらないようにしている私が
バーナードとの付き合いがある家とはいえ
勝手に(?)出会い、親交を深めるのは
遠慮して欲しいとカーティスを通して
王様からお願いされたのだ。

私としては、不満しかなかったけれど
ヴァレリアンたちが
「これ以上、ユウの可愛さを世間に知らせたくない」と
真顔で言ったのと、
私がパーティーに参加すると
警備がとてつもなく大変になると
ケインとエルヴィンに言われたので
仕方なく諦めた。

そして、私は今、絶賛、拗ね拗ね中だ。

バーナードは3日間の結婚休暇中だし、
パパ先生はもちろん、大忙し。

スタンリーは宰相であるお父さんと一緒に
隣国との交渉のために新たに作った部署で
パパ先生と多くの取り決めをしているらしい。

ヴァレリアンとカーティスは
そこで決められた案を
王弟と王様に提案して、
またそこで議論をして……。

と、ものすごーく忙しそうだ。

「私がここにいる意味、あるのかな?」

と『大聖樹の宮』の部屋で呟いてしまうのも
仕方がないと思う。

物凄く、暇だ。

「そんなこと言わないでよ、ユウちゃん」

と、エルヴィンがソファーに座る私の前で
だらしなくテーブルに突っ伏する。

「たるんでるぞ」

とケインが私の前にお茶を置いた。

二人は私の護衛で、なおかつ
私が外出できないため
私同様、暇をもてあましていた。

「ごめんね、二人とも。
私に突き合わせて」

「そんなことないよ!
俺、ユウちゃんと一緒にいれて嬉しいし」

エルヴィンはがばっと顔を上げ
頬を染めて言う。

「それにこれが任務だしな」

ケインもそっけなく言うが、
口元は緩んでいる。

「そうだ!
二人とも、一緒に着せ替え遊びをしよう」

そう提案すると、
二人は少しだけ顔をひきつらせた。

昨日の夜、ジュリさんが作った
クマちゃんのぬいぐるみに
色んな服を着せて遊んだのだけど
二人はあまり楽しくなかったようだ。

服のコーディネートにはあまり興味がないらしく
ジュリさんと遊んだ時みたいに
全然、話に乗ってきてくれなかった。

私の「可愛い談議」が少しも理解されなかったようだ。

そこで私は思いついたのだ。

見るからに可愛いものを見せたら
二人とも「可愛い」を理解してくれるのでは?と。

そこで私は二人をソファーに座らせて
逆に私は立ち上がる。

怪訝な顔をしたけれど、
二人は私を見上げるだけだ。

「窓を開けるね」

と私は二人に言って窓を開ける。

窓の外から不審者が来る……ことは
この『大聖樹の宮』であるはずがないとは思うけれど
そう言った警戒も二人はしているので
一応、声を掛けた。

そして窓の外に向かって私は声を出す。

「ブラウン、ホワイト、遊びに来て」

そう言うと、ぶんっ。と風が吹いた。

ケインとエルヴィンが慌てて
窓のそばに立つ私を守るように
そばに来た、が。

その目は窓の外に向けたまま動きはない。

窓の外には、可愛い白と茶色いうさぎの姿をした
神獣が、大きな羽をパタパタと羽ばたかせながら
宙に浮いていたからだ。

「おいで」
と両手を広げると、
二匹の可愛い羽の生えたうさぎは
嬉しそうに私の胸に飛び込んできた。

と言っても、4,5歳ぐらいの子の
大きさがあるので、思わずよろける。

その背を二人が咄嗟に支えてくれた。

私が二匹を連れてソファーに戻ると
ケインは窓の外を警戒してから
窓を閉める。

エルヴィンはソファーに先回りをして
まだ口を付けていないお茶を
テーブルの上から移動した。

この子たちが暴れるのを懸念したのかもしれない。

「ほら。可愛いでしょ。
茶色い子がブラウン。
白い子がホワイトよ」

この子たちに着せ替えをしよう。

そう言うと、二人は何故か固まった。

「え?待って?
ユウちゃん、その、神獣?
え? 着せ替え?
神獣で遊ぶ?」

エルヴィンが混乱したように言う。

ケインは絶句したまま動かない。

あれ?
ダメだった?

「可愛いよ。
もふもふだし。

ほら、ケインも触ってみて」

とケインに手を伸ばしたら
ケインは飛び上がらんばかりに後ずさった。

「ちょ、ユウちゃん、無理だよ。
特にケインは信仰が深いし、
神獣に触るなんて恐ろしいこと
できるわけがない」

「恐ろしい? 可愛いでしょ?」

「いやいやいや。
恐れ多いというか。

神獣は女神の使徒なんだよ?
俺たち人間が目にすることなど
本来であれば、絶対にないような存在なんだよ?

それを、こうして傍で見るだけでなく
触るなんて……っ」

そう言われるとそうかもしれないけど
それを言うなら私は女神の愛し子なんだけど。

二人が二匹から距離をひたすら取るので
いじめっ子心理で二匹を抱いて
二人を追いかけまわしたくなる。

そんなことを考えていると
扉をノックする音がした。

すぐに二人は我に返り、
ケインが警戒して私の前に立ち
エルヴィンが扉に向かう。

扉を開けると「疲れたよー」と
のんびりとしたパパ先生の声が聞こえた。

「パパ先生、お帰りなさい」

「うん。ただいま……っ!」

パパ先生の目が私の腕の中で止まった。

「悠ちゃん。その、可愛いうさぎは?」

「可愛い、可愛いでしょ?」

私は重たい二匹を抱っこしたまま
パパ先生の所に行く。

パパ先生は恐る恐ると言う様子で
ブラウンを抱っこした。

「うわー。ふわふわで可愛いねー。
癒される~」

パパ先生はブラウンの身体に
顔を押し付けてぐりぐぐりした。

ケインがドン引きしているのが
目の端に見えたけれど
私は気が付かなかったことにする。

「パパ先生、この子たちと遊ぼう」
と誘うと、疲れをにじませていたパパ先生は
大喜びで頷いてくれた。

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