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第10話

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 次の日からプリンはチョコと戦闘訓練。
 俺は錬金術師の男と魔物狩りに行く。

「このペースならば、能力値をオール100にするまでそこまで時間はかからないだろう」
「100になるまで続けるの?」
「嫌か?」

「嫌じゃないよ」
「では続ける」

 俺と錬金術師の男は草原にたどり着いた。

「ねえ、名前は?」
「私の名前などどうでもいい事だ。迷惑をかけて数か月で居なくなるような人間だ」
「何て呼べばいいか分からないからね」
「ではアルケミストと呼んでくれ」

 アルケミスト、錬金術師か。
 この人はため口で話しても大丈夫な感じがする。

「あ、居た」

 俺はステータスを開示したまま7体の跳ねうさぎと闘う。
 手裏剣を投げて残った敵をナイフで倒す。
 落ち着いて対応できる。
 2日目だからか?

 そう言えば、戦場を1回生き延びた者は次生き延びる確率が高くなるらしい。
 昨日より実力を発揮できている!
 簡単に跳ねうさぎを倒す事が出来た。

 跳ねうさぎの血を抜こうとするとアルケミストが言った。

「置いていくのだ。跳ねうさぎの金なら払う」
「え、でももったいない」

「分かった」

 アルケミストは異空間に跳ねうさぎを収納した。

「ストレージ!」
「そうだが?」
「錬金術師なのに!?」
「アキも色々覚えているだろう?」

「ストレージは覚えるのが難しいって聞いた」
「努力の結果だ。誰でもできる……覚えたいか?いや、その前にアキは何を目指しているのだ?」
「冒険者。どこでも生きていけるようになりたい」

「では教えよう。どこでも生きていける……採取も覚える事をお勧めするが、教わりたいか?」
「いいのか!」
「迷惑をかけている自覚はある。そのくらいはしておこう。いる間は教えられるすべてのスキルを教えよう」
「おおおお!!」

 俺はいつの間にかため口で話をしていたが、アルケミストは気にする素振りを見せなかった。

 アルケミストが立ち止まる。

「この木の草が薬草だ。ポーションの材料になる」

 そう言って俺に見せながらナイフで採取する。

「根元ごと抜くことで鮮度を維持できる。売る場合は根元ごと採取するのだストレージに入れて鮮度が良くても根が無いと価格を落とされる場合もあるのだ」

 俺が周りにある薬草を採取する様子をアルケミストは黙って見ていた。

 魔物の気配を感じて走るとまた跳ねうさぎだ。
 跳ねうさぎをナイフで斬る。
 跳ねうさぎが倒れると、後ろからアルケミストが跳ねうさぎを回収する。

 次もその次も跳ねうさぎ。
 あ・き・た!

「飽きたか?」
「うん」
「次は森にするか。ここには跳ねうさぎしかいないのだ」
「そうだね」

 俺とアルケミストは屋敷に帰る。

「アキ、跳ねうさぎを渡しておこう」

 アルケミストが家の前まで歩くと父さんと母さんが出迎える。
 アルケミストがストレージを使った。

 50体近い跳ねうさぎがストレージから出てくる。

「うむ、多くは無いか?」
「多いけど、父さんと母さんに任せるよ」

「まあ、ご近所に配りましょう」
「そうだな、塩を擦り込んで燻製にしよう」

 アルケミストは屋敷に向かって歩いていく。

「あ、後は頼むよ」
 
 俺は走って屋敷に向かった

「今からポーションを作るが、見るか?」
「見る!」

 アルケミストは机の上にあるポーションの蓋をすべて開けて、水と薬草に魔力を込めていく。
 空中で水と薬草が光りながら混ざり、ポーションビンの中に入っていく。

 アルケミストが蓋をして魔力を込めるとポーションを俺に渡した。

「薬草採取の報酬だ」

 ポーションは高価だ。
 でもそんなポーションをお駄賃を渡すように手渡す。

「気にするな。こんなものは誰でも作れる」

 誰でも作れるような物ではない。
 俺は少し食事を摂ってお昼寝をした後またアルケミストと出かける。

「これを渡しておく」

 巨大なバックパックだった。
 でか!
 200リットル分くらいないか?


 
 俺は巨大なバックパックを背負って出かける。
 前には同じバッグを背負ったアルケミストがいた。
 ストレージの取得条件は運搬レベル5だ。

 俺は後ろからアルケミストの運搬スキルをものまねする。

 森に入るとスライムが出てきた。

 ピキー!

「スライムか」
「20体は居る!」

 スライム、1体見つけたら周りに1000体は居ると言われる数の暴力!
 
「問題無く倒せるだろう。アキならな」

 俺はバックパックを地面に置いてスライムを斬りつけた。
 1撃で倒せる。
 でも、数が多い!


 倒しても周りからスライムが集まって来る。
 そこには50以上のスライムがいた。

「囲まれた!」
「うむ、少し数を減らそう」

 アルケミストは拳を構え、殴る瞬間に手の甲に刻んだ紋章が輝き、拳の先が爆発した。

 地面が揺れ、そこにははじけ飛び動かなくなった大量のスライムが倒れる。
 まるで爆弾だ。

「後1発か」

 左手の紋章が輝き、爆発する。
 アルケミストの両手を見ると、ダラダラと血が流れていた。

 錬金術で体に紋章を張り付けている?
 装備に付与する紋章を体に貼っている!?

「後は頼む」

 俺は必死で戦った。
 腕が痺れるまでスライムを斬り、すべてのスライムを倒し終わった。

「はあ、はあ、はあ、はあ、何とか、なった」
「ご苦労だった。手の紋章が気になったか?」
「うん、体にも紋章を張れるんだね」
「錬金術のレベルを上げれば貼れる。だが限界は2つらしい。そして体術レベルを上げねば爆炎効果の付与は手を痛める。改善するには錬金術と体術両方が必要なのだ。だが私は体術を覚えていないのだ」

「そっか。はあ、はあ、はあ、行こう」
「うむ、今日は運搬訓練をやめておこう」
「いや、やろう」

「少し休憩にする」
「はあ、はあ、そう言えば思っていたんだけど、何でものまね士は弱いと思われているのかな?そこまで弱いとは思えない」

「ものまね士はレベルを上げにくく、固有スキルを取得できないと思われている以外にもハンデが大きいのだ」
「ハンデ?」

「ものまね士はレアジョブなのだ。その為周りに先輩にものまね士はほぼいない」
「ものまね士の戦い方を教えて貰えられる先輩があまりいないのか」
「その通りだ。その事によって戦闘スタイルを確立しにくいのだ。そしてものまね士は周りから色々言われる。言われ続ける。ものまねをするだけで寄生していると言われ、パーティーに入ろうとしても寄生していると言われがちだ。そして努力によりものまねレベルを上げたとしても『器用貧乏』『未来が無い』と言われ続け、多くのものまね士が冒険者を辞めるかものまね士が輝けないソロで活動を続ける事になるのだ。結果大成しないのだ」

「俺は周りに恵まれていたのか」
「それもあるが本によれば性格にも理由があるのだ。ものまね士はすぐに飽きる者が大半なのだ」
「俺みたいな人間か」
「アキはまともな方なのだ」

「他のものまね士はもっと飽きやすいのかな?」
「その可能性は高いのだ。アキ、ステータスを見せて貰った際に気づいた」
「なにを?」

「ものまねの説明にも、ものまね士の説明にも固有スキルを覚えられないとは書いていなかったのだ。私は、ものまね士でも固有スキルを覚えられると、そう思っているのだ」
「だといいな。大分疲れが取れた。そろそろ行こうか」
「うむ。固有スキルの話はまた後でするのだ」

 俺とアルケミストは大量のスライムをバックパックに詰めて村に帰る。

 村人がひそひそと話をする。

「かわいそうに、あれじゃ奴隷じゃない」
「あの錬金術師、怖そうな顔をしているわね」

 俺は両手に大きいリングをつけ、更に自分の体より重そうな荷物をパンパンに膨らませて歩いている。
 そして俺の見た目は完全に子供だ。
 アルケミストの後ろを歩く俺の事を色々勘違いしている。
 俺はただ運搬スキルをものまねをしているだけだ。
 アルケミストはその気になればストレージを使える。

 苦労をさせているのは俺の方だ。
 誤解を解こう。

「アキ、必要ない」
「でも、このままじゃアルケミストが誤解される」
「いつもの事だ。ものまねに集中するのだ」

 俺とアルケミストは大量のスライムを屋敷に運んだ。
 
 アルケミストは人づきあいが苦手な科学者のように見えた。
 常識を疑い、疑問に思ったことは人に何を言われてもとにかく試していく。
 その姿は中世ヨーロッパのような異世界では特に異質に映るのかもしれない。

 アルケミストは変わった部分もあるけど、思ったよりまともな人間だ。
 
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