上 下
34 / 98

第34話

しおりを挟む
 
 俺達はモグドラゴンを倒し、また泉に戻って来た。

「ねえ、もう1つの道にいるのって、アースドラゴンなんじゃない?」
「私もそう思います」
「この泉を中心にして縄張りが分かれているのかもな」

 感知と分析スキルが俺に警告を鳴らした。

「やばいやばい!上から今までで一番やばい敵が来る!」

 上を見ると人型の何かが空を歩きながら降りてくる。

「空を歩いている!あれは絶対普通じゃない!」
「大丈夫ですよ。私のお父さんですから」
「グラディウスね」

「ん?グラディウスってこのシルフィ王国の英雄と同じ名前か」

 この国には2人の英雄がいる。
 英雄とはたった1人で戦局を覆す力を持った存在だ。
 冒険者ランクで言えばAランク以上の力を持つ存在。

「短剣の英雄、グラディウス・ダガーは私のお父さんですよ」
「やあ、元気そうで良かったねえ」

 胡散臭そうな話し方をするエルフの男がにやにやしながら近づいてきた。

「君がクラフトのお気に入りか。アキ君だね?」

 グラディウスは娘のチョコより俺に興味を示した。
 チョコが死んでいない事を分かっていたのか?

「クラフト?ですか私は知りません。人違いだと思いますよ」
「ああ、クラフトは本名を言わないからねえ。ま、その事はいいか。感動の再開だけど、サクッと帰ろうか」
「やっと帰れるのね!」

「その前にお願いしたいことがあります!私にスキルを見せて欲しいのです」
「アキ君、今ですか?帰る事が出来るんですよ?」
「英雄に教えてもらえる機会は一生来ないかもしれない。ダメもとで頼むんだ」

「はっはっはっは、おもしろいじゃないかあ。教えられることは短剣と斥候のスキルだけだけどいいかい?」
「よろしくお願いします!」

「ものまねするんだ」

 俺はグラディウスの使うスキルをものまねした。



 ◇



 俺は何度も泉に投げ飛がされた。

「まだまだだねえ。でも、驚くほどものまねの効率がいい。スキルレベルがどんどん上がっているよ。それ!」

 俺は泉から上がってまた泉に投げられた。




【グラディウス視点】

 面白い!
 何度もフェイントをかけて何度投げ飛ばしても立ち上がって来る!
 斥候スキルがすべて上昇している!

 普通のものまね士と同じように考えない方がいい。
 アキはスキルの成長率が異常だ。

「次は短剣のものまねだ。本気で来ていいよお」
「はい!」

 突き出した短剣をミラーで返してくる。

 殺す気で来たか。 
 いや、違うな。
 僕との実力差を明確に把握している。
 どんなに本気を出しても殺せないと分かっているか。

「少し力を押さえるよ。短剣レベル6になれば二刀流が使えるはずだ。僕についてくるんだ」

 お互いに二刀で構えて短剣で斬り合う。
 突き刺し、その後に切り払い、そして斜めに斬りつけるが見事にミラーで返してくる。

 面白い!ずっと斬り合っていられそうだ。

 ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!

 驚くべき速さで成長している!
 そのたびに僕は斬る速さを上げる!
 突き刺す速さを上げる!

 僕はアキが動けなくなるまで訓練を続けた。

「ふう!いい汗を掻いたよ。……いい匂いがするねえ」
「焼肉よ」

「これはこれは、お嬢様の焼肉を堪能できるとは思いませんでした」
「そう言うのいいわよ。私はただの冒険者なんだから」

「お嬢様。お父さんはからかっているんですよ」
「チョコとグラディウスは似ているわね」

「はっはっは、チョコは悪戯ばかりみたいだねえ」
「本当に酷いのよ。いつも恥ずかしがらせてばかり」
「そろそろ焼けてきた」

「アキ君、もう動けるのかい?」
「変態仙人に色々教えて貰いました」
「回復スキルか、それは頼もしいねえ。たっぷり食べて休んだら外に出ようか」
「やっとダンジョンから出られるわ!」

「あと数日グラディウス卿のスキルをお見せいただきたいのです」
「だめだめえ!休んだらすぐ帰らないと!」

「そう、ですか。今日はありがとうございました」
「こういうのうはどうだい?僕が前を走りつつそれを後ろからものまねするんだ」
「よろしくお願いします!」

 急に元気になった。
 分かりやすい。

「まずはたっぷり食べてしっかり眠る所からだよ」
「はい!」

 僕は焼肉を食べて、ゆっくり眠った。




【アキ視点】

 グラディウスさんが先行し、俺はその後をついていく。
 どんどんスキルレベルが上がって行く。

 グラディウスさんはゴブリンキングを雑魚のように倒し、魔物を回収せず先に進む。

「回収はいいんですか?」
「そんなに持ちきれないし、いつでも倒せるから欲しいならあげるよ」

 俺はストレージで後ろから魔物を回収し、そしてグラディウスさんの後をついて行きながらものまねを続ける。

 何日経ったか分からないが、 体感としては数日くらいで外に出られた。

「出られたわ!」

 プリンは飛び上がって喜んだ。
 チョコもほっとした顔をしている。

「じゃあ、ウォーアップの街まで送るよ」
「今日はありがとうございました!それでは失礼します!」

 俺はダンジョンに入って行こうとする。

「「えええええええ!!!!」」

「ちょ、ちょっと待つんだ!」
 
 俺はグラディウスさんに肩を掴まれた。
しおりを挟む

処理中です...