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第44話

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 俺はチョコ、プリンと共に斥候部隊となった。

「グラディウス、質問があるんだけど?」
「何かな?早く出発したいんだけどねえ」
「いや、王女のプリンと公爵令嬢の娘のチョコが参加してるんだけどいいのか?」
「移動しながら話そうか」

 俺は後ろから合流したチョコとプリンを見る。
 俺は斥候に向かいながら話をする。

「そりゃ最初は2人共戦場から遠ざけようとしたよ?でも参加してしまったんだからしょうがないじゃない。もう参加したんだから適材適所で配置するし、2人が強い事はみんな知っているからねえ」

 プリンは行軍途中の夜間訓練で熟練の冒険者を5人抜きで倒した。
 チョコはお尻を触ろうとした熟練兵を投げ飛ばした。
 2人共そこにいるだけで目立つのに更に目立ったのだ。
 結果斥候スキルを持ったエースクラスの格付けとなった。

「そうかー。2人は強いからなあ」
「アキ、2人よりも君は特別な存在だよ。皆からは英雄と思われているし僕もそう思っているんだよねえ」
「俺は、固有スキルを使えないから英雄ではないだろ?」

「アキ君、気づいてないんですか?アキ君のおかげで大量の物資調達が終わったんです。そしてお父さんの訓練についていけたのはアキ君だけです。弓スキルもアーチェリーの訓練で上がりましたよね?弓部隊からも噂になってますよ」

 あれはクラフトの力が大きい。
 俺の錬金術が伸びたのも結局クラフトの力だ

「私はみんなにアキの方が私よりレベルが10高いと言っているわ。アキが私の上にいる事をみんな分かっているのよ」

 プリンが試合で勝った後に『ものまね士アキのレベルは私より10高いわ』を決め台詞にしているらしい。

「この前クラフトと爆炎ナイフの試験をすると言ってゴブリンキングのいる群れに飛び込んで単独で全滅させたじゃないか。あれは良い爆炎だったねえ」
「いや、あれはクラフトの爆炎ナイフが強すぎるんだ」

「まあ聞くんだ。アキのスキルレベルはもう異常だよ。クラフトと同じ錬金術レベルに上昇した後は、僕と同じレベルまで斥候・投てき・短剣スキルを上げて、その後はアーチェリーと同じレベルになるまで弓スキルを上昇しさせた。そして高い回復能力とストレージスキルを持ち、勘が良くて立ち回りもいい。君はもう特別な存在なんだよねえ」

 俺はクラフト・グラディウス、そしてアーチェリーの師事でスキルを上昇させた。
 
「……それはいいとして、斥候の話をしよう」
「あ!ごまかしたわね!」
「ごまかしましたね」

「斥候の話って?」
「俺単独で奥を探索したい」

「危ないわよ」
「いえ、ありですね。敵の虚を突いた方が安全な可能性すらあります」

 そう、単独で敵陣の奥地まで探索するのは一見無謀に見える。
 だからこそ敵は想定していないだろう。
 逆の立場で考えてみれば、敵が1人でひょっこり本陣の前に出てきたら敵だと思われない可能性すらある。敵だと分かってもびっくりするだろう。
 その隙に爆炎ナイフを投げて逃げてくれば逃げ切れる気がする。

「いいけど、危なくなったら花火を上げるんだ」
「分かった。行って来る」

「気を付けてね」
「ああ、大丈夫だ」



【ワッフル視点】

 わたくしは少し後方に下がって水浴びをしていた。
 21名の女性兵士を川に集め、交代で休憩を取る。

「ああ、水が気持ちいいですう」
「ふふ、それは良かったですわ」

「「……」」

 みんながわたくしを見つめる。

「どうしたのです?」

 みんなが一斉に話し出す。

「ワッフル様があまりに綺麗で、羨ましいです」
「胸が立派で、お尻のくびれも凄いです。それにムチムチした太ももがいいです。これなら、異性を選び放題ですね」
「好みの方はいないのですか?」
「前から見ても横から見ても後ろから見ても男を誘う見た目です」

 女性兵士がわたくしの周りをくるくると回りながらじろじろ見る。

「ワッフル様はまさか!魅了のスキルをお持ちでは!」
「そ、そんなスキルはありませんわ!」

 近くにいたセリアが叫ぶ。

「不審者の反応があります!」

 男が姿を現すと同時に上に花火の魔法を使った。
 強い轟音が空中からこだまする。

「何の合図ですの?」
「言うわけがないだろ?」

 わたくしは服を着ずにロングソードを構えた。
 周りの兵士も武器を構える。

「どのような御用ですの?服から察するにシルフィ王国の冒険者、それも斥候のように見えますわね」

 この男は油断が出来ない。
 動きを見ただけで強い事が分かる。
 セバスの次に斥候能力の高いセリアがここまで接近されるまで気づかなかった。
 そして花火の魔法威力があまりにも高い。
 それに質問に一切答えない。
 この男からは恐怖を感じる。

「みんな裸のまま話すのが好きなのか?まさか露出狂!」
「違いますわ!」

 その隙に男は後ろに下がった。
 セバスが走って来る。

「無事ですか!」

 男が走り去る前に小さく言った言葉に私は更なる恐怖を覚えた。

『黒い奴が特にやばい。油断できない』

 セバスを察知した!
 しかもセバスが姿を現す前に!
 あの黒目黒髪の男はセバスを超える斥候能力を持っている。

 セバスが私を見て視線を外した。

「失礼しました」
「いえ、いいのです、助かりましたわ」

 セリアがわたくしに抱きつく。
 その体は震えていた。

「こ、怖かったです」
「大丈夫、着替えて焚火に当たるのですわ」

 震えている原因は寒いからではないが、少しでも体を温めて安心させたい。



 着替えて焚火で体を温めると、セバスが話し出す。

「どのような男だったのですか?」
「人族の男で私が発見した時にはもうナイフを構えていました。花火の魔法が強くて、動きがとても速くて、私達の強さも見抜いているようでした」

「セバスは見ていませんの?」
「私が感知する前に逃げられたのです」
「セバスより斥候能力が高い相手、信じがたい事ではありますが、実際にいるのですわ」
「斥候レベルが高いのであれば、透視・感知・分析・隠密・遠目のレベルはすべて9、もしくは10の可能性もあります。となれば暗視のスキルも高いかと。斥候スキルでない場合は固有スキルの可能性もあります。それと人族との事ですが短剣の英雄が変装する能力を持っている可能性もあります」

「あら、セバスは余裕ですのね。シルフィ王国にもセバスと同じように隠れた英雄がいる可能性があるのですよ?」
「いえ、余裕とまではいきません。斥候対決ではこちらの負けでしょう。こちらの位置は向こうが先に感知する可能性が高いです。すぐに報告が必要です。ですがそれは斥候だけでの話です」

 エルフが王を務めるシルフィ王国では斥候と魔導士の訓練が進んでいる。
 しかしこちらは戦士の訓練が盛んだ。
 
「セバスが楽しそうに見えますわ」

「顔に出てしまいましたか。私は斥候よりも殺す方が得意ですから」

 そう言ってセバスは笑った。

「期待していますよ。セバス、あなたはフレイム王国最強の英雄、影の英雄なのですから」


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