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第53話

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 俺はゲンコツにすべての爆炎ナイフを投げた。
 ゲンコツはその爆炎を躱し、拳で殴り半減させていく。

 そして俺を拳で殴って来る。
 俺は素手で同じ動きを返す。

『体術レベル5→6』

『身体強化レベル5→6』

「中々の衝撃であった」

 打ち負けて俺は後ろに吹き飛んだ。

 俺のナイフをすべて耐えてその上で俺に拳を当てて来た。
 一瞬で数十発を打ち込んできた。
 次元が違う。

「化け物か。何発ナイフを当てれば倒せるんだ?」

 拳の英雄は爆炎を受けてはいるが余裕に見えた。
 驚くほどタフだ。
 何か固有スキルを持っているのかもしれない。

「これが英雄というものだ!戦争の戦局すら変えうる存在、それが英雄!!我は拳の英雄である!!爆炎ごときで我は倒せん!」
「そうか、本気の俺と相手をしないか?」

 俺はストレージでナイフを出そうとするが拳で防がれた。
 ストレージの発動は一瞬ではできない。
 ナイフを出せない!

「ふん!」
 
 俺はゲンコツのパンチをミラーで返すが、数メートル吹き飛ばされた。
 俺は必死でものまねを発動させる。
 速度強化を使う余裕がない!
 必死で体術と身体強化、そして拳の英雄の動きをものまねする。

 攻撃を受けなくても拳の打ち合いで常に押し負ける。

『体術レベル6→7』

『身体強化レベル6→7』


 ゲンコツが放つ蹴りをミラーで返すたびに押し負けて吹き飛ばされる。
 俺は軍から離れて孤立していく。

『体術レベル7→8』

『身体強化レベル7→8』


『ものまねレベル9→10』

 ゲンコツの体術レベルの高さが俺を押し上げる。
 英雄との戦い、その危機感が俺を高みに押し上げていく。
 俺は自身の成長にかけてものまねに集中した。

 身体強化と体術のみを使って戦う。
 速度強化や魔法による強化を使う余裕がない。

「ナイフを出せば本気で戦える」
「笑止、我はそこまで甘くはない!貴様が何かを出せば周りの兵が死ぬのだ!ここは戦場である!!」

 その考えには俺も同意だ。
 もし敵が騎士のような性格なら待つ可能性もあったが無理か。
 ゲンコツの連撃をミラーで返すが、俺は後ろに下がり続けた。

 パンチが重い!

 たまに放つ蹴りが重い!

 そしてすべてが速い!

『体術レベル8→9』

『身体強化レベル8→9』

 不思議と恐怖は感じない。
 だが、勝てる手が見つからない。

 拳の紋章は、だめだ。
 決定打にはならない。
 
 俺は吹き飛ばされるたびにヒールを自分に使い、HPを回復させる。
 拳と足を回復させながら戦う。

 何千、何万と短い時間で打ち合った。
 少ない時間で凝縮されたように無数に打ち合う。

『体術レベル9→10』

『身体強化レベル9→10』

 体術レベルが10になっても押し負ける!
 これでも駄目なのか!

「そうか、貴様、ものまね士だな。だが甘い。ただ打ち合っていれば我に追いつけるとでも思ったか!笑止、我は格闘の攻撃力を常時高める固有スキルを持っている!ものまね士のお前には固有スキルは使えん!それが貴様の限界なのだ!固有スキルは切り札!!それを使えぬ貴様に勝利は無い!貴様には決め手がない!それがものまね士の限界だ!!」

「うおおおおおお!!!」
「くおおおおおお!!!」

 拳の英雄と拳で打ち合う!
 拳と拳で無数に打ち合い、結界同士がぶつかり合うようにお互いの攻撃が通らない。

「身体強化が切れたか?拳の英雄!!」
「それがどうした?貴様が身体強化を使い、我が使えずとも我には勝てん!」

 倒せる手が思いつかない。
 奴の固有スキルが身体強化を使った俺との差を埋める。
 吹き飛ばされなくなっただけで互角のまま打ち合う。
 俺は勝利を模索する。
 戦場の血の匂いと金属の撃ち合う音が無くなり、景色が色を失っていく。

 俺の身体強化が切れれば終わりだ。
 同時に速度強化を使えば、いや、決め手にはならない。
 MPを多く使う結果になり、MPが切れた瞬間に俺は負ける。

 速度強化を使えば逃げ切る事は出来るかもしれない。
 だがそれをやればマッチョも、変態仙人も、チョコもプリンもみんなが死ぬ。
 逃げる事は出来ない。
 走馬灯のように意識が加速する。

 俺はクラフトの言葉を思い出していた。

『親のマネをやめて自分で考えるようになることで自分の色が出るのだ』

『ものまね士は器用貧乏だが、中途半端でも、今出来るすべてを込めてみるのだ』

『ものまねの向こう側はきっとあるのだ』

 ものまねはもう意味がない。

 今できるすべてをやる!

 ものまねの向こう側!

 何かが噛み合っていく感覚を感じた。

『固有スキルを取得しました』

 お互いに蹴りを放ってお互いが弾かれるように下がって着地する。

「はははははははははは、そうか、そう言う事か!だからものまね士は固有スキルが使えなかったのか!!」
「何がおかしい?心が壊れたのであるか?」
「いや、こっちの事だ!」

 そうか、俺は転生する前からそうだった。
 物覚えが早く、何でもそこそこ出来る。
 でも1番は1つも無い。
 いつも器用貧乏だ。

 転生してからも何も変わっていなかった。
 単純な事だ。

 俺のような性格だからものまね士になった。
 すぐ飽きて最後までやり通さない。
 1つの事を極めずに抜け道を探して楽をしようとしてきた。
 だから固有スキルを覚えられなかった!
 これは俺の強さであり、弱さでもあったんだ。

 でも、今は違う!
 絶対に引かない、逃げる事は出来ない!
 すべてをこの力に込める!

 俺の体が輝く!
 
 俺は、自ら前に踏み出した。




【ゲンコツ視点】

 アキの威圧感が増した!
 最初は大したことが無いと思っていた。
 身体強化も体術もたかが熟練レベルにすぎん。

 だが追い詰めれば追い詰めるほど奴は成長していく。
 ものまね士でもありえないほどの成長率で我に迫って来る!
 身体強化も体術も、もう我と遜色がない。
 不遇ジョブでありながら奴は天才なのだ!


 ものまね士で固有スキルを使ぬはずの奴が固有スキルを覚えたのか!

 あの輝きは何だ?
 固有スキルにもみえるが、戦士の輝きでも、斥候でも、魔導士でも、錬金術師でもない。
 まるですべてを合わせたような輝きを感じる。
 固有スキルを使えぬはずのものまね士が固有スキルを覚えたというのか!

 奴の魔力は質が掴めぬ!
 何をするか分からん恐ろしさがある。
 不気味にまとわりつく違和感を消せぬ!

 恐ろしさ?
 我は恐れているのか?
 奴が大きく感じる。
 度重なる戦いの勘が警告を鳴らす!

 我の中にある恐怖が強まっていく。
 恐るべき早さで成長するアキに多少の威圧感を感じてはいた。
 だが、さらに何かを掴んだか?
 威圧感が増した!
 戦場で何かを掴んだのだ!
 それが我に恐怖をもたらしているのか!

「たとえ固有スキルを覚えたとしても貴様はすべてが中途半端に終わる!戦士のように身体強化を超強化した固有スキルは使えん!斥候の速度強化も斥候のように強化出来ん!魔導士のような強力な魔法も使えん!どんなにスキルレベルを上げても固有スキルは本職ほどの力は出せん!必ず差が生まれる!ものまね士は魔力の質自体が器用貧乏なのだ!ものまね士は固有スキルも器用貧乏で終わる!!決め手である固有スキルに差が出る!生まれ持った魔力の質を変える事は出来ん!!!」

 我が饒舌になっている。
 恐怖よ、消えろ!

「喝!!!」


 奴が拳の英雄である我に拳を構えて飛び込んできた!
 動きが速い!
 今までとは動きが違う!

 我は即座に判断した。
 我も固有スキルを残してあるのだ!
 ナックルフィニッシュを1発だけ使える。
 その為のMPは温存してある。
 使うのは今しかない!

 我は修羅に徹する!
 時間が遅く流れていく。

「ナックルフィニッシュ!」
「ダブルナックル!」

 我の右拳と奴の左拳がぶつかり相殺された!
 違う、我の右腕が後ろに弾き飛ばされた!
 押し負けたのだ!
 我の拳が痺れる。
 ギリギリであった、あとわずかに押し負けていれば我は攻撃をもろに食らっていた。
 お互いに弾く力で我とものまね士はお互いに後ろに吹き飛ばされるだろう。
 その隙に立て直す!

 否、奴は何と言った?ダブルナックル、ダブルだと!
 奴は吹き飛ばされそうになり体勢を崩しそうになる体で無理やり反対側の拳を突き出す!
 ダブルナックル、あれを2発繰り出す!それが奴の固有スキルか!

 我の腹にダブルナックルが直撃した。
 お互いが弾かれるように吹き飛んだ。
 腹を固めても内臓まで衝撃が届く。
 体が痺れる!
 だが!

 耐えきった!

 ダブルナックルの正体が分かった。
 戦士の身体強化、斥候の速度強化、魔導士の風魔法ですべてを強化した正拳突き!!
 その2連撃、その上で更に衝撃の刹那、両拳に仕込んだ爆炎の紋章を錬金術で極限まで凝縮して叩き込む技!

 戦士・斥候・魔導士・錬金術師すべてを一瞬だけ強化して叩きこむ、それがダブルナックルなのだ。

 だが、我は倒れん!
 耐えきった!
 もう奴は両拳の紋章を使い切った!
 もう奴はダブルナックルを使えん!

 奴が走って来るが、我の、勝ちだ!
 通常攻撃では我は倒しきれん。
 その前に我の痺れが消え、逆転できる!

 攻撃を凌ぎ、そして耐えきり、倒す!


 その瞬間奴の体が輝く!
 まさか!

「ダブルナックル!」

 錬金術の欠けた状態で、欠けたままのダブルナックルを放ったか!

「ごはああ!」

 我はダブルナックルの攻撃をもろに受けた。
 我は動けず吹き飛ばされる。
 奴はそれでも止まらずに我を追いかけ、拳を繰り出し続ける。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 奴は身体強化と速度強化を使いつつ風魔法で動きを強化しながら我を何度も殴る。
 速度強化を隠していた!
 いや、温存していたのだ!

 常に我の予測を超えてくる!
 今この瞬間も成長し続けている!

 身体強化と速度強化が切れても風魔法の強化が切れても我を殴り続ける。

 体が、動かん!

 最初は我が有利だった。
 奴の体術が低い内は奴を弱らせていたはずだ。
 奴は弱っている、弱っていてそれでもなおこの威力か!
 勝てぬ、我は、英雄を生み出した。

 拳の英雄である我が、拳で、敗れる。

 これが、死か。




【アキ視点】

『レベル49→50』

「はあ、はあ、はあ、はあ、終わった。倒した」

 俺は力を抜いたように走って軍に合流した。
 1分だけでいい、呼吸を整えたかったからだ。
 数秒の静寂、その後指揮官が駆け寄り俺の手を取った。

「ものまね士の英雄アキが拳の英雄を討ち取ったあああああ!!!」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」

「敵左翼は敗走した!総員敵本陣を攻撃せよ!」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」




 アキが拳の英雄を討ち取った事で流れが変わった。
 右翼が敵本陣に攻撃を仕掛けた事で味方本陣は危機を脱し、敵左翼は敗走した。
 その後俺達は敵本陣の横を突くように攻撃した。

 そしてこの日、アキは真の英雄となった。



 アキ 人族 男
 レベル        50【+1】
 HP       545/600【+10】
 MP          6/600【+10】
 攻撃                  600【+10】   
 防御             600【+10】      
 魔法攻撃           600【+10】 
 魔法防御           600【+10】
 敏捷             600【+10】  
 ジョブ ものまね士   
 スキル『ダブルナックル★【NEW!】』『ものまねレベル【9→10】』『短剣レベル10』『刀レベル5』『剣レベル5』『槍レベル5』『斧レベル5』『体術レベル【5→10】』『弓レベル10』『投てきレベル10』『炎魔法レベル4』『水魔法レベル4』『風魔法レベル5』『土魔法レベル4』『光魔法レベル3』『闇魔法レベル2』『錬金術レベル10』『HP自動回復レベル10』『スタミナ自動回復レベル10』『瞑想レベル10』『訓練効果アップレベル5』『身体強化レベル【5→10】』『速度強化レベル10』『隠密レベル10』『感知レベル10』『分析レベル10』『暗視レベル10』『遠目レベル10』『透視レベル10』『採取レベル5』『運搬レベル5』『ストレージレベル5』『騎乗レベル6』
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