1 / 9
一話「今朝」
しおりを挟む
「おはようございます。朝ですよ」
そう言う女の声で、渚は目を覚ました。女は渚のベッドの傍で立っており、姿勢正しく、渚の起床を待っていた。
「おはよう苺」
渚も挨拶をする。渚は寝起きのいいほうなので、パッと起きると着替えに行動を移す。
渚は脱いだパジャマを苺に渡すと、苺はそれを抱えて部屋を出た。洗濯しに行ったのだ。それを見届けた渚は私服を手にとって身につけるのだった。
その後、渚はリビングに向かう。すると、既に朝食は出来上がっており、朝の支度が渚を迎えた。
渚はこの朝食を支度した苺を褒めたかったが、苺はこの時間、いつも洗濯に行ったりしていなかったりするので、今回も、謝辞は後になるのだと渚は思った。いつものことなので、特別に、苺がいなくてがっかりするなんてこともないが、いなければいないで孤独を感じるのも確かであった。
朝食に手をつけると、ながらでテレビを見る。今日もいつもと変わらないニュースが報じられている。いつもとかわらない。なんなら、昨日と内容が同じだとも言っていい。
日常は移り変わるが、常日頃変わるわけではない。
退屈なニュースに目を通しつつの食事。食事の内容はベターな物だ。渚の人間性にとってはちょうどいい。高級すぎるもなし、貧相すぎるもなし。
「どうですか? お味の方は」
苺が洗濯物を干して帰ってきた。
「うんおいしいよ。きみもどうだい?」
「いえ、私は」
遠慮する苺に、
「そりゃそうか」
と、渚。
「なんたって君は人造人間だからね。食事はエネルギーにならない」
苺は頷く。彼女は人間ではなかった。渚の生活の手伝いをする人造人間として活躍する非人間なのであった。
ロボットではないし、人間に近い何か。
生き物ではないし、死んでいない何か。
感情はないし、人とコミュニケーションが取れる何か。
そう言った何かが、苺である。
人造人間一号機、苺。
それが彼女である。
「それに、朝のエナジードリンクはいただきました」
苺は言う。人間の食事がエネルギーにならないとなると、苺のエネルギー問題はどうなっているのかというと、渚特製のエナジードリンクになっていた。
「よかった。あれは3日体力が持つようになっているから毎日は飲まなくていいけれど、念には念を、ね」
毎朝飲ませている。エネルギー過多で苺が暴発しないように、エネルギー消費の激しいある仕事を請け負っているため、何の問題もない。
渚は食事を終えると、ティッシュペーパーで口を拭い、席を立つ。
「後の家事とか頼むよ。僕は研究に勤しむから。家事が終わって暇になったら研究室に来てくれ」
と、毎朝苺に言う定型文を発し、苺に命を下す。
「わかりました」
と、苺が頭を下げるので、渚はその場を退出した。
渚。
青鷺渚。
人造人間、あるいは改造人間を主に研究している科学者で、現在は医療機器メーカーに所属し、人の命を救う人造人間を作っている。そして、人を存命させるために、人体の改造を施している。それが法で許されるようになったのは百四十年も昔で、既に渚の仕事は一般化しているし、だからと言って誰でもなれるわけではないのが科学者であった。
現在は、人造人間三号、『ゆかり』を製作しているところであった。苺は一号機、つまりは試験的な意味での活躍を期待しての製作だった。
渚は科学者になりたてではないが、結果として、まだまだ若い。
科学者になり苺を製作。二号機の『神秘』を製作。ただいま三号機を開発中で、たまに要請があれば、手術のために会社へ出向く。
それが今の渚の実績であり、生活の仕方だった。
(最近は手術の仕事がないな……)
なんて思う渚であったが、人の病気を治すために改造手術をする渚にとって、それが渚にとって悪いことか良いことかは不明だった。
手術が必要ないと言うことは、皆健康であると言うことだ。
だが渚に仕事がなければ、生活に困るのは渚であった。まあ、生活に困る心配は、今の所渚にはないのだが。
この世界は、法で許されたのが昔だからと言って、人造人間が闊歩する世界ではない。まだ。
時間がかかり、手間暇かけ、やっと完成するのが人造人間だ。
人造人間二号機、『神秘』を作り上げた時点で、渚は企業から、一生遊んでも貯金できる程度の給料を頂いている。ので、改造手術はあってもなくても渚にはなんの影響も関係もなかった。
ただ、お金なんてものは使い道によって減る速度も違う。日本中のマンションを買い占めるような行動をとれば、たちまち渚の給料は消え去るだろう。
(まあ今は、そんなに贅沢して暮らしているわけではないし、苺と幸せに暮らしてるだけだし、やっぱり手術はないほうがいいのかな)
人が健康である証だ。
必要なければないほうがいい。
そんなふうに考えながら、『ゆかり』を製作中の渚だった。
そう言う女の声で、渚は目を覚ました。女は渚のベッドの傍で立っており、姿勢正しく、渚の起床を待っていた。
「おはよう苺」
渚も挨拶をする。渚は寝起きのいいほうなので、パッと起きると着替えに行動を移す。
渚は脱いだパジャマを苺に渡すと、苺はそれを抱えて部屋を出た。洗濯しに行ったのだ。それを見届けた渚は私服を手にとって身につけるのだった。
その後、渚はリビングに向かう。すると、既に朝食は出来上がっており、朝の支度が渚を迎えた。
渚はこの朝食を支度した苺を褒めたかったが、苺はこの時間、いつも洗濯に行ったりしていなかったりするので、今回も、謝辞は後になるのだと渚は思った。いつものことなので、特別に、苺がいなくてがっかりするなんてこともないが、いなければいないで孤独を感じるのも確かであった。
朝食に手をつけると、ながらでテレビを見る。今日もいつもと変わらないニュースが報じられている。いつもとかわらない。なんなら、昨日と内容が同じだとも言っていい。
日常は移り変わるが、常日頃変わるわけではない。
退屈なニュースに目を通しつつの食事。食事の内容はベターな物だ。渚の人間性にとってはちょうどいい。高級すぎるもなし、貧相すぎるもなし。
「どうですか? お味の方は」
苺が洗濯物を干して帰ってきた。
「うんおいしいよ。きみもどうだい?」
「いえ、私は」
遠慮する苺に、
「そりゃそうか」
と、渚。
「なんたって君は人造人間だからね。食事はエネルギーにならない」
苺は頷く。彼女は人間ではなかった。渚の生活の手伝いをする人造人間として活躍する非人間なのであった。
ロボットではないし、人間に近い何か。
生き物ではないし、死んでいない何か。
感情はないし、人とコミュニケーションが取れる何か。
そう言った何かが、苺である。
人造人間一号機、苺。
それが彼女である。
「それに、朝のエナジードリンクはいただきました」
苺は言う。人間の食事がエネルギーにならないとなると、苺のエネルギー問題はどうなっているのかというと、渚特製のエナジードリンクになっていた。
「よかった。あれは3日体力が持つようになっているから毎日は飲まなくていいけれど、念には念を、ね」
毎朝飲ませている。エネルギー過多で苺が暴発しないように、エネルギー消費の激しいある仕事を請け負っているため、何の問題もない。
渚は食事を終えると、ティッシュペーパーで口を拭い、席を立つ。
「後の家事とか頼むよ。僕は研究に勤しむから。家事が終わって暇になったら研究室に来てくれ」
と、毎朝苺に言う定型文を発し、苺に命を下す。
「わかりました」
と、苺が頭を下げるので、渚はその場を退出した。
渚。
青鷺渚。
人造人間、あるいは改造人間を主に研究している科学者で、現在は医療機器メーカーに所属し、人の命を救う人造人間を作っている。そして、人を存命させるために、人体の改造を施している。それが法で許されるようになったのは百四十年も昔で、既に渚の仕事は一般化しているし、だからと言って誰でもなれるわけではないのが科学者であった。
現在は、人造人間三号、『ゆかり』を製作しているところであった。苺は一号機、つまりは試験的な意味での活躍を期待しての製作だった。
渚は科学者になりたてではないが、結果として、まだまだ若い。
科学者になり苺を製作。二号機の『神秘』を製作。ただいま三号機を開発中で、たまに要請があれば、手術のために会社へ出向く。
それが今の渚の実績であり、生活の仕方だった。
(最近は手術の仕事がないな……)
なんて思う渚であったが、人の病気を治すために改造手術をする渚にとって、それが渚にとって悪いことか良いことかは不明だった。
手術が必要ないと言うことは、皆健康であると言うことだ。
だが渚に仕事がなければ、生活に困るのは渚であった。まあ、生活に困る心配は、今の所渚にはないのだが。
この世界は、法で許されたのが昔だからと言って、人造人間が闊歩する世界ではない。まだ。
時間がかかり、手間暇かけ、やっと完成するのが人造人間だ。
人造人間二号機、『神秘』を作り上げた時点で、渚は企業から、一生遊んでも貯金できる程度の給料を頂いている。ので、改造手術はあってもなくても渚にはなんの影響も関係もなかった。
ただ、お金なんてものは使い道によって減る速度も違う。日本中のマンションを買い占めるような行動をとれば、たちまち渚の給料は消え去るだろう。
(まあ今は、そんなに贅沢して暮らしているわけではないし、苺と幸せに暮らしてるだけだし、やっぱり手術はないほうがいいのかな)
人が健康である証だ。
必要なければないほうがいい。
そんなふうに考えながら、『ゆかり』を製作中の渚だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる