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プロローグ
しおりを挟むあ。
と思った時にはもう、お互いの鼻と鼻のてっぺんがちょっと擦れ合って。瞬きなんかしている間もなく、ヤツの唇がわたしの唇に押しつけられていた。
柔らかいとか温かいとか何この甘いニオイとかいう感触やら感想やらが、ギュッとプレスされて一つになる。ミニチュアのボーガンの矢に姿を変えたソレが、眉間から後頭部を突き抜けていった瞬間には、目の前で火花がスパークして、世界はホワイトアウトした。
密着したままの唇をよりによってヤツが開いて、ショートした意識に追い打ちをかける。生温かくぬめっとした舌が、わたしの中にぐいっと侵入。とっさに右足が出て、ヤツのお腹に渾身の蹴りをぶちかましていた。
キャスター付きの椅子に座っていたヤツは、ひとたまりもない。火事場の馬鹿力キックの勢いで、後ろの壁へまっしぐら。背中からクラッシュ。
――――したかどうかはわからない。
見届ける余裕なんかなかったわたしは、それより先に、泣きながらその狭い部屋を飛び出していってしまったから。
ワァワァと大泣きで、患者さんで溢れた待合室を駆け抜けていくわたし。ポカンと口を開けて見送る、受付のお姉さん。
プレイバック。プレイバック。
始まりは、それから遡ること、四時間前。
季節は、そろそろ紫外線厳しい五月。キッパリとした青空の木曜日。
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