運命のひとーSADAME NO HITOー

朋藤チルヲ

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「わぁ……きれい」

 人が意識せずに口から言葉を漏らす時、ほとんどの場合で感動している。
 わたしはそう思う。身体の中で興奮が高波のように盛り上がって、その波の切れ端が、ちゃぷんと口から飛び出すのだ。

「きれい? 優愛ゆあ、本当?」

 すぐに姉が、大きな姿見越しにはにかんで訊いてきた。
 トイレの場所わかった? と心配性を覗かせるよりも早いところを見ると、わたしの反応がよほど嬉しかったようだ。

「うん、すっごくきれい!」

 真っ白なドレスは、うなじから背中までが大胆に開いていた。童話のお姫様のように、裾が長く伸びている。マーメイドラインというらしい。

 本物のウェディングドレスを見るのは、生まれて初めて。だけど、お腹の底から湧き上がるこの感動は、女性の憧れが具現化されたものが、すぐ目の前にあることへのものだけとは、絶対に違う。
 もちろん、自ら発光しているかのようなドレスの美しさには、ため息が出る。
 そのドレスに選ばれし者のように、大好きな姉もまた、内側から光り輝いて見えることへの感動だった。
 待ちに待った恋人との結婚への喜びが、抑えきれずに溢れ出しているからに他ならない。そう思うと、なんだか泣きそうになった。

「そのドレスがいいよ。お姉ちゃんにすごく似合ってる。ね、ママ」
「そうね」

 興奮するわたしと違って、姉の横にブライダルスタッフと並んで立つママは、あっさりとしたものだ。

「背中が開きすぎているデザインは、希美のぞみにはどうかなと思ったけど。女性らしい色気に勝ち気が打ち消されて、ちょうどいいわね」
「後半は余計よ」

 鏡の中の姉が唇を曲げる。
 わたしは噴き出さずにいられなかったけど、スタッフはすかさずフォローを入れた。

「背中は最も女性の魅力が現れますから。ご新婦様は背中のラインがとてもお美しく、このドレスのメリットを存分に引き出しておられます」

 その俊敏さと正確さは、ネット際へと滑り込んでレシーブを返す、バレーボールのプロ選手並みだ。欲しいところにパスが上がり、姉もまんざらではない表情。

「確かに、これだけがっつり開いていても、いやらしさはないわね」
「世のご新婦様の清廉さを引き立たせられるよう、計算され尽くしたデザインになっております」

 攻撃的にも思えるママの言葉にも丁寧に応対する、スタッフの姿勢と話術に感心しつつ、わたしはポシェットからスマホを取り出す。カメラを起動させて構えた。

遣史けんしくん、来られないなんて残念。せめて写真だけでも送ってあげよ」
「急な出張はいつものことよ。てか優愛、待って写真!」

 姉がぎょっと目を見開いた。急いでこちらを振り返り、手を後ろ、つまり、わたしのいる方向へと伸ばすけど、その動作がぎこちない。ドレスを着ていると動きづらいのか、それとも、高価な物だし、下手に動いて傷つけてしまうことを恐れてなのか。
 後者かな、と目星をつける。
 いつだったか、遣史くんとの旅行で憧れの和装をレンタルしたものの、汚してはいけない緊張感から、小一時間ほど街を歩いただけで全身が筋肉痛になった、とぼやいた姉を思い出した。

「撮ったらだめなの?」
「撮るのはかまわない。パパにも見せたいし。でも、遣史に送るのはだめ。て、何笑ってるのよ」
「ごめん、思い出し笑い。でも、婚約者なのに。遣史くんだって見たいと思うよ」
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