3 / 60
【1】
2
しおりを挟む
「わぁ……きれい」
人が意識せずに口から言葉を漏らす時、ほとんどの場合で感動している。
わたしはそう思う。身体の中で興奮が高波のように盛り上がって、その波の切れ端が、ちゃぷんと口から飛び出すのだ。
「きれい? 優愛、本当?」
すぐに姉が、大きな姿見越しにはにかんで訊いてきた。
トイレの場所わかった? と心配性を覗かせるよりも早いところを見ると、わたしの反応がよほど嬉しかったようだ。
「うん、すっごくきれい!」
真っ白なドレスは、うなじから背中までが大胆に開いていた。童話のお姫様のように、裾が長く伸びている。マーメイドラインというらしい。
本物のウェディングドレスを見るのは、生まれて初めて。だけど、お腹の底から湧き上がるこの感動は、女性の憧れが具現化されたものが、すぐ目の前にあることへのものだけとは、絶対に違う。
もちろん、自ら発光しているかのようなドレスの美しさには、ため息が出る。
そのドレスに選ばれし者のように、大好きな姉もまた、内側から光り輝いて見えることへの感動だった。
待ちに待った恋人との結婚への喜びが、抑えきれずに溢れ出しているからに他ならない。そう思うと、なんだか泣きそうになった。
「そのドレスがいいよ。お姉ちゃんにすごく似合ってる。ね、ママ」
「そうね」
興奮するわたしと違って、姉の横にブライダルスタッフと並んで立つママは、あっさりとしたものだ。
「背中が開きすぎているデザインは、希美にはどうかなと思ったけど。女性らしい色気に勝ち気が打ち消されて、ちょうどいいわね」
「後半は余計よ」
鏡の中の姉が唇を曲げる。
わたしは噴き出さずにいられなかったけど、スタッフはすかさずフォローを入れた。
「背中は最も女性の魅力が現れますから。ご新婦様は背中のラインがとてもお美しく、このドレスのメリットを存分に引き出しておられます」
その俊敏さと正確さは、ネット際へと滑り込んでレシーブを返す、バレーボールのプロ選手並みだ。欲しいところにパスが上がり、姉もまんざらではない表情。
「確かに、これだけがっつり開いていても、いやらしさはないわね」
「世のご新婦様の清廉さを引き立たせられるよう、計算され尽くしたデザインになっております」
攻撃的にも思えるママの言葉にも丁寧に応対する、スタッフの姿勢と話術に感心しつつ、わたしはポシェットからスマホを取り出す。カメラを起動させて構えた。
「遣史くん、来られないなんて残念。せめて写真だけでも送ってあげよ」
「急な出張はいつものことよ。てか優愛、待って写真!」
姉がぎょっと目を見開いた。急いでこちらを振り返り、手を後ろ、つまり、わたしのいる方向へと伸ばすけど、その動作がぎこちない。ドレスを着ていると動きづらいのか、それとも、高価な物だし、下手に動いて傷つけてしまうことを恐れてなのか。
後者かな、と目星をつける。
いつだったか、遣史くんとの旅行で憧れの和装をレンタルしたものの、汚してはいけない緊張感から、小一時間ほど街を歩いただけで全身が筋肉痛になった、とぼやいた姉を思い出した。
「撮ったらだめなの?」
「撮るのはかまわない。パパにも見せたいし。でも、遣史に送るのはだめ。て、何笑ってるのよ」
「ごめん、思い出し笑い。でも、婚約者なのに。遣史くんだって見たいと思うよ」
人が意識せずに口から言葉を漏らす時、ほとんどの場合で感動している。
わたしはそう思う。身体の中で興奮が高波のように盛り上がって、その波の切れ端が、ちゃぷんと口から飛び出すのだ。
「きれい? 優愛、本当?」
すぐに姉が、大きな姿見越しにはにかんで訊いてきた。
トイレの場所わかった? と心配性を覗かせるよりも早いところを見ると、わたしの反応がよほど嬉しかったようだ。
「うん、すっごくきれい!」
真っ白なドレスは、うなじから背中までが大胆に開いていた。童話のお姫様のように、裾が長く伸びている。マーメイドラインというらしい。
本物のウェディングドレスを見るのは、生まれて初めて。だけど、お腹の底から湧き上がるこの感動は、女性の憧れが具現化されたものが、すぐ目の前にあることへのものだけとは、絶対に違う。
もちろん、自ら発光しているかのようなドレスの美しさには、ため息が出る。
そのドレスに選ばれし者のように、大好きな姉もまた、内側から光り輝いて見えることへの感動だった。
待ちに待った恋人との結婚への喜びが、抑えきれずに溢れ出しているからに他ならない。そう思うと、なんだか泣きそうになった。
「そのドレスがいいよ。お姉ちゃんにすごく似合ってる。ね、ママ」
「そうね」
興奮するわたしと違って、姉の横にブライダルスタッフと並んで立つママは、あっさりとしたものだ。
「背中が開きすぎているデザインは、希美にはどうかなと思ったけど。女性らしい色気に勝ち気が打ち消されて、ちょうどいいわね」
「後半は余計よ」
鏡の中の姉が唇を曲げる。
わたしは噴き出さずにいられなかったけど、スタッフはすかさずフォローを入れた。
「背中は最も女性の魅力が現れますから。ご新婦様は背中のラインがとてもお美しく、このドレスのメリットを存分に引き出しておられます」
その俊敏さと正確さは、ネット際へと滑り込んでレシーブを返す、バレーボールのプロ選手並みだ。欲しいところにパスが上がり、姉もまんざらではない表情。
「確かに、これだけがっつり開いていても、いやらしさはないわね」
「世のご新婦様の清廉さを引き立たせられるよう、計算され尽くしたデザインになっております」
攻撃的にも思えるママの言葉にも丁寧に応対する、スタッフの姿勢と話術に感心しつつ、わたしはポシェットからスマホを取り出す。カメラを起動させて構えた。
「遣史くん、来られないなんて残念。せめて写真だけでも送ってあげよ」
「急な出張はいつものことよ。てか優愛、待って写真!」
姉がぎょっと目を見開いた。急いでこちらを振り返り、手を後ろ、つまり、わたしのいる方向へと伸ばすけど、その動作がぎこちない。ドレスを着ていると動きづらいのか、それとも、高価な物だし、下手に動いて傷つけてしまうことを恐れてなのか。
後者かな、と目星をつける。
いつだったか、遣史くんとの旅行で憧れの和装をレンタルしたものの、汚してはいけない緊張感から、小一時間ほど街を歩いただけで全身が筋肉痛になった、とぼやいた姉を思い出した。
「撮ったらだめなの?」
「撮るのはかまわない。パパにも見せたいし。でも、遣史に送るのはだめ。て、何笑ってるのよ」
「ごめん、思い出し笑い。でも、婚約者なのに。遣史くんだって見たいと思うよ」
0
あなたにおすすめの小説
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳
大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。
でも、これはただのお見合いではないらしい。
初出はエブリスタ様にて。
また番外編を追加する予定です。
シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。
表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
神楽坂gimmick
涼寺みすゞ
恋愛
明治26年、欧州視察を終え帰国した司法官僚 近衛惟前の耳に飛び込んできたのは、学友でもあり親戚にあたる久我侯爵家の跡取り 久我光雅負傷の連絡。
侯爵家のスキャンダルを収めるべく、奔走する羽目になり……
若者が広げた夢の大風呂敷と、初恋の行方は?
『愛が切なくて』- すれ違うほど哀しくて
設楽理沙
恋愛
砂央里と斎藤、こじれてしまった糸(すれ違い)がほどけていく様子を描いています。
◆都合上、[言う、云う]混合しています。うっかりミスではありません。
ご了承ください。
斉藤准一 税理士事務所勤務35才
斎藤紀子 娘 7才
毒妻: 斉藤淳子 専業主婦 33才 金遣いが荒い
高橋砂央里 会社員 27才
山本隆行 オートバックス社員 25才
西野秀行 薬剤師 22才
岡田とま子 主婦 54才
深田睦子 見合い相手 22才
―――――――――――――――――――――――
❧イラストはAI生成画像自作
2025.3.3 再☑済み😇
【完結】お嬢様だけがそれを知らない
春風由実
恋愛
公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者でもあるお嬢様には秘密があった。
しかしそれはあっという間に公然の秘密となっていて?
それを知らないお嬢様は、日々あれこれと悩んでいる模様。
「この子たちと離れるくらいなら。いっそこの子たちを連れて国外に逃げ──」
王太子殿下、サプライズとか言っている場合ではなくなりました!
今すぐ、対応してください!今すぐです!
※ゆるゆると不定期更新予定です。
※2022.2.22のスペシャルな猫の日にどうしても投稿したかっただけ。
※カクヨムにも投稿しています。
世界中の猫が幸せでありますように。
にゃん。にゃんにゃん。にゃん。にゃんにゃん。にゃ~。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる