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休憩室で待っていろと言われたけど、世話を焼いてもらう身としては、とてもそんなのんびりと構えていられない。相手は上司で、部長で、福永さんなのだ。
売り場の商品を整頓しながら、正面の自動ドアから駐車場を見ていた。
うっすらと夕闇が下りた敷地内に、白っぽいセダンが侵入してくるたび、ドキドキしながら側面の社名ロゴの有無を確認する。そうやって心臓を忙しなくさせ続けていたせいか、いざ社用車が入ってきた際にひときわ強く跳ねて、止まってしまう、ととっさに目をつむった。
「休憩室にいなさいと言ったはずだ」
ハンドルを握る福永さんは、あいかわらず不機嫌な口調。
「すみません」
車まで走ってきたわたしは、はぁはぁ、と息を切らしている。
「まさかタイムカードは切っていないだろうな」
「はい。だからと言うか、あの、動いていないと落ち着かなくて」
「真面目すぎるのも考えものだ」
「え」
「まぁいい。乗りなさい」
やってきた方角とは逆方向に駐車場を出てから、福永さんは言った。
「戻ったら、休憩室の内線を鳴らすつもりだった」
「内線ですか?」
休憩室には固定電話が備え付けられている。売り場でトラブルが起きた時、レジカウンター内の電話や社用スマホから電話をかければ、社員が休憩中でも連絡が取れる。指示を仰いだり、場合によっては呼びつけたりができる。
「それなら、誰から呼び出されたか、周りにはわからない」
「はぁ」
「近所のコンビニまで車で移動してもらい、そこで落ち合えばいいと考えていたんだ。タイムカードは、自分が帰社した時に操作すればいい」
どうしてそんな面倒なことを、と首をかしげた。
「自分と外出することを、他の社員に悟られないほうがいいだろうと思った」
「え?」
福永さんは、ちらりとだけ黒目をこちらに寄越した。
「鼻にかけないのは良いことだが、君はもう少し自分の立場を自覚したほうがいい。自分のような非難されやすい人間と、おおっぴらに行動するべきではない」
「あ」
そうか。福永さんは、周りから良く思われていない自分と一緒に行動することで、わたしの格を下げるかもしれないと心配してくれたのだ。
「すみません……」
「もう済んだことだ」
冷たく突き放す声にうなだれる。
それならやっぱり、自分が道案内の役目を引き受けなければよかったのに。
でも、きっとそれだけ責任感が強いということだ。
本店から応援に向かう人間のことなど、他の誰も気にも留めていないことにも、福永さんはちゃんと気がついている。だからって、責めることも人任せにもしない。自分が気づいたのだから、自分で対応すればいいと思っている。
お昼休憩の時のこともそうだ。わたしが困っていることにすぐに察して、仕事を頼んだなんて嘘をついて助けてくれた。
そんなふうに、福永さんはいつでも先回りして、誰も気づかないくらいのさりげなさで、気を配っているのではないだろうか。そこを、パパも他の部署の上司たちも評価しているのかもしれない。
車は店舗前の大通りを、高速道路のインターへ向けて進む。
福永さんの運転は、意外にも穏やかだ。だけど、わたしは身体の強張りをほどけない。この社用車は福永さんが独占しているのだろう、車内は福永さんの香りが満ちている。澄んだ甘さの、青い海を思わせる香り。わたしをやたらと緊張させた。
「一時間てところだ」
「え?」
「問題のジャンクションまで。往復で二時間。ぎりぎり夕飯までには帰してやれるだろう」
「あ、はい」
何て返すのが正解なのか、わからなかった。
売り場の商品を整頓しながら、正面の自動ドアから駐車場を見ていた。
うっすらと夕闇が下りた敷地内に、白っぽいセダンが侵入してくるたび、ドキドキしながら側面の社名ロゴの有無を確認する。そうやって心臓を忙しなくさせ続けていたせいか、いざ社用車が入ってきた際にひときわ強く跳ねて、止まってしまう、ととっさに目をつむった。
「休憩室にいなさいと言ったはずだ」
ハンドルを握る福永さんは、あいかわらず不機嫌な口調。
「すみません」
車まで走ってきたわたしは、はぁはぁ、と息を切らしている。
「まさかタイムカードは切っていないだろうな」
「はい。だからと言うか、あの、動いていないと落ち着かなくて」
「真面目すぎるのも考えものだ」
「え」
「まぁいい。乗りなさい」
やってきた方角とは逆方向に駐車場を出てから、福永さんは言った。
「戻ったら、休憩室の内線を鳴らすつもりだった」
「内線ですか?」
休憩室には固定電話が備え付けられている。売り場でトラブルが起きた時、レジカウンター内の電話や社用スマホから電話をかければ、社員が休憩中でも連絡が取れる。指示を仰いだり、場合によっては呼びつけたりができる。
「それなら、誰から呼び出されたか、周りにはわからない」
「はぁ」
「近所のコンビニまで車で移動してもらい、そこで落ち合えばいいと考えていたんだ。タイムカードは、自分が帰社した時に操作すればいい」
どうしてそんな面倒なことを、と首をかしげた。
「自分と外出することを、他の社員に悟られないほうがいいだろうと思った」
「え?」
福永さんは、ちらりとだけ黒目をこちらに寄越した。
「鼻にかけないのは良いことだが、君はもう少し自分の立場を自覚したほうがいい。自分のような非難されやすい人間と、おおっぴらに行動するべきではない」
「あ」
そうか。福永さんは、周りから良く思われていない自分と一緒に行動することで、わたしの格を下げるかもしれないと心配してくれたのだ。
「すみません……」
「もう済んだことだ」
冷たく突き放す声にうなだれる。
それならやっぱり、自分が道案内の役目を引き受けなければよかったのに。
でも、きっとそれだけ責任感が強いということだ。
本店から応援に向かう人間のことなど、他の誰も気にも留めていないことにも、福永さんはちゃんと気がついている。だからって、責めることも人任せにもしない。自分が気づいたのだから、自分で対応すればいいと思っている。
お昼休憩の時のこともそうだ。わたしが困っていることにすぐに察して、仕事を頼んだなんて嘘をついて助けてくれた。
そんなふうに、福永さんはいつでも先回りして、誰も気づかないくらいのさりげなさで、気を配っているのではないだろうか。そこを、パパも他の部署の上司たちも評価しているのかもしれない。
車は店舗前の大通りを、高速道路のインターへ向けて進む。
福永さんの運転は、意外にも穏やかだ。だけど、わたしは身体の強張りをほどけない。この社用車は福永さんが独占しているのだろう、車内は福永さんの香りが満ちている。澄んだ甘さの、青い海を思わせる香り。わたしをやたらと緊張させた。
「一時間てところだ」
「え?」
「問題のジャンクションまで。往復で二時間。ぎりぎり夕飯までには帰してやれるだろう」
「あ、はい」
何て返すのが正解なのか、わからなかった。
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