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トークアプリに新しいメッセージが到着したことを受けて、スマートフォンが軽やかな電子音を鳴らした。
「何してる?」
彼の挨拶は、朝だって夜だって同じ。いつも決まっている。
「仕事の合間に、休憩でコーヒー淹れたとこ」
適当に流しておけばいいものを、無視できずに、律儀に返さないといられないのは、わたしの性格の良いところであり、厄介なところでもある。
「暇か」
「今は」
単発で送られてくる、彼からのメッセージ。絵文字もない。可愛らしいスタンプなんて、なおさら貼られているわけがない。これも、いつものことだ。
「じゃあ会おう。ホテル行こう」
「嫌です」
「なんで」
「仕事がある」
「フリーランスのくせに。自由だ」
このやり取りにもいいかげん辟易して、さすがに面倒になって、返事するのをやめた。既読スルーだ。わたしに執着しているわけでもない彼は、それきり新しいメッセージを送ってこない。それも、恒例と言っていい。
わたしはマグカップを取り、熱いコーヒーを一口すする。パソコンの画面には、今打ち込んだばかりの、紅葉の名所を熱く紹介する文章が並んでいた。
このまま、精神的にも肉体的にも女性としていちばん良い時期を、だらだらと垂れ流すようにして過ごしていくのかもしれない。
そう考えたら、どうにも怖くなり、生まれて初めてマッチングサイトなるものを利用してみようと決めた。三十代もなかばを過ぎた頃。
悪い噂も聞いていたけれど、危ないなと感じたら、直接会わなければ済む話。軽い気持ちで、でも、かなりドキドキしながら、自分のプロフィールを入力した。
他はどうなのか知らないけれど、そのサイトは女性が優先権を持ち、男性側が送ってきたメッセージを女性側が承認しなければ、その後のやり取りができないシステムになっていた。
いろいろな意味で成熟を迎えつつある年齢とはいえ、結婚相手として見た場合、自分はすでに旬を過ぎている。登録したところで、誰からも興味を持ってもらえないのではないだろうか。
そう思っていたのに、蓋を開けてみれば、登録直後から、男性からのメッセージは何通も送られてきた。
彼はその中の一人で、ひときわ顔が良かった。
好みの顔立ちかと問われたら、そうでもない。わたしは女性的な顔つきの男性に心惹かれるタイプなのだが、彼は完全なる男顔。だけど、凛々しい印象で服装の趣味も悪くない。女性には苦労しないように見えた。
気がついたら、わたしは彼のメッセージを承認していた。焦っていたのもあるし、正直舞い上がっていた。そして、寂しかった。
「何してる?」
彼の挨拶は、朝だって夜だって同じ。いつも決まっている。
「仕事の合間に、休憩でコーヒー淹れたとこ」
適当に流しておけばいいものを、無視できずに、律儀に返さないといられないのは、わたしの性格の良いところであり、厄介なところでもある。
「暇か」
「今は」
単発で送られてくる、彼からのメッセージ。絵文字もない。可愛らしいスタンプなんて、なおさら貼られているわけがない。これも、いつものことだ。
「じゃあ会おう。ホテル行こう」
「嫌です」
「なんで」
「仕事がある」
「フリーランスのくせに。自由だ」
このやり取りにもいいかげん辟易して、さすがに面倒になって、返事するのをやめた。既読スルーだ。わたしに執着しているわけでもない彼は、それきり新しいメッセージを送ってこない。それも、恒例と言っていい。
わたしはマグカップを取り、熱いコーヒーを一口すする。パソコンの画面には、今打ち込んだばかりの、紅葉の名所を熱く紹介する文章が並んでいた。
このまま、精神的にも肉体的にも女性としていちばん良い時期を、だらだらと垂れ流すようにして過ごしていくのかもしれない。
そう考えたら、どうにも怖くなり、生まれて初めてマッチングサイトなるものを利用してみようと決めた。三十代もなかばを過ぎた頃。
悪い噂も聞いていたけれど、危ないなと感じたら、直接会わなければ済む話。軽い気持ちで、でも、かなりドキドキしながら、自分のプロフィールを入力した。
他はどうなのか知らないけれど、そのサイトは女性が優先権を持ち、男性側が送ってきたメッセージを女性側が承認しなければ、その後のやり取りができないシステムになっていた。
いろいろな意味で成熟を迎えつつある年齢とはいえ、結婚相手として見た場合、自分はすでに旬を過ぎている。登録したところで、誰からも興味を持ってもらえないのではないだろうか。
そう思っていたのに、蓋を開けてみれば、登録直後から、男性からのメッセージは何通も送られてきた。
彼はその中の一人で、ひときわ顔が良かった。
好みの顔立ちかと問われたら、そうでもない。わたしは女性的な顔つきの男性に心惹かれるタイプなのだが、彼は完全なる男顔。だけど、凛々しい印象で服装の趣味も悪くない。女性には苦労しないように見えた。
気がついたら、わたしは彼のメッセージを承認していた。焦っていたのもあるし、正直舞い上がっていた。そして、寂しかった。
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