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【人間界7】

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「わたくしですか?」
「後悔しているんだろ? 前に、魂を運びそこなったことをさ」

 面食らう。まさか、人間が、ウリエルとそっくり同じ言葉をかけてくるとは。

「でも、その経験があったからこそだって思うんだよ。今度は絶対に連れていかせないって、あんたが強く心に決めたのはさ」
「そうですね……確かに」
「ほら、糧になってるじゃんか。だから、もう許してやったらいいんだって」

 男は明るく笑う。

 まったく。
 本来ならとっくに作業を終えて、社員食堂の日替わり定食で腹を満たし、今頃は中庭のベンチでうとうとしていたことだろう。厄介な魂を二つも抱えるはめになって、残業の一言では片づけられないほどの作業に、辟易としていていいはずなのに。
 むしろ、これでよかったかもしれない、なんて思っている。

「ええ」

 やはり、ギリギリのところで、運に見放されていないらしい。

「そうします」
「よし!」

 自分の身体にまさしく鞭打つようにして、男は再び足を踏み出しはじめた。

「まあ、そう言いつつ、俺はこの花束を奥さんに届けられないことは、許せないわけだけどな」
「じかに渡すことはできませんよ」
「わかってるって。何度も言うな」
「今日は、お二人の結婚記念日なのですか?」
「いいや」
「では、奥様のお誕生日?」
「いいじゃねぇか、なんでも」

 そこを濁す理由は、よくわからない。

「そんなことより、急ぐぜ。せめて三時までには、あんたを職場に帰してやりたいからな」
「ありがたいですが、なぜ三時?」
「三時って言ったら、おやつの時間だろうが。昼前からこっちにいるんだろ? さすがに腹減っただろうと思ってさ。俺はもう空腹なんて感じねぇけど」
「鰹は持っていますが」

 ポケットに手を突っこもうとすると、男が止めた。

「やめとけって言っただろ。マジで腹壊すぞ」
「食べませんよ」
「なあ」

 塀に向かってよろよろと進みながら、男が言う。

「なんでしょう?」
「天使が、生まれ変わり先を決めてくれるんだろう?」
「ええ、そうです」
「次の人生はさ」
「はい」
「とりあえず、飲酒運転にものっくそ厳罰がくだる世界になってるといいよなあ」

 笑う男の身体が、視界から崩れ落ちた。
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