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禁じられた恋
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しおりを挟む拓海を乗せた車が立ち去っても、光莉は駐車場から離れられないでいた。
ただ、警察に行って話をしてくるだけだ。記憶のない彼に話せることなんてごくわずかで、すぐに帰されるだろう。そう思っていても、光莉の任意同行をあきらめた若村が、簡単に彼を帰すわけがないような気がして、胸騒ぎはおさまらない。
「あれ、……ひかり? もしかして、光莉?」
突然目の前に回り込んできた女の人が、好奇心をむき出しにして不躾に眺めてくる。驚いた光莉も、思わずまじまじと見返す。
細身のデニムの彼女は、背が高くてスタイルがいい。腰まで伸びた黒髪は艶やかで、ピアスやバッグの小物もさりげなくおしゃれ。雑誌に載っていてもふしぎじゃないほどの、かなり垢抜けた美女だ。
そして、光莉は彼女を知っていた。ずっと会っていなかったけれど、彼女の性格が透けて見える素直で明るい瞳は何も変わってない。
「美帆……だよね?」
「うん、そう! ほんとに光莉なんだ? 久しぶり。月島くんに会いに来たら、光莉がいるんだもん。びっくりしちゃった」
そう言って、うれしげにぴょんと飛び跳ねたのは、高校時代、光莉の大親友だった田沢美帆だ。
「拓海に会いに来たの?」
拓海から美帆に会ったという話を聞いたことはないが、交流があったのだろうか。尋ねると、彼女は面倒くさがる様子もなく話してくれる。
「この間、警察がうちに来たからびっくりしちゃって。月島くんとは就職してから会ってなかったんだけど、何か知ってるかなって話を聞きに来たわけ」
「警察が美帆のところにも?」
「なんて名前の刑事さんだったかなー。イケメンだけど、蛇みたいにしつこそうな感じの人でさー。高校時代の松村理乃の話を聞かせてくれって」
蛇みたいって……、ちょっとおかしくなってしまうが、きっと若村だろう。彼は高校時代の同級生に理乃の話を聞いて回ったのだろう。
「じゃあ、理乃のこと知ってるんだ?」
そう言うと、途端に美帆はハッとして、深刻そうに眉を寄せる。
「大きなニュースになってるよね。松村さんって、光莉の身内なんだよね。刑事さんからそう聞いた。高校時代、光莉と松村さんの間にもめごとはなかったか? って聞かれたけど、そんなのあるわけないって言っておいたから」
「聞かれたのは、私と理乃の関係だけ?」
「あ、ううん。光莉と今は交流ないのか? とか、光莉や松村さんと仲良くしてた人を知らないか? とか、聞かれたかな」
美帆は思い出すように斜め上を見ながら話す。何か隠してる様子はない。全部正直に話してくれているだろう。
「理乃、特別に親しくしてた子とかいた?」
「いないよー。ちょっと変わった子だったじゃない? 光莉の身内だなんて当時は知らなかったしさ、卒業までずっと一人だったよ。一人って言っても、全然周りと話さないわけじゃないし、あたりさわりなく過ごしてた感じ」
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