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禁じられた恋

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 いつだったか、誰もいない教室で理乃とふたりきりになることがあった。気まずくて、あわてて教室を出ようとする光莉に、彼女は言ったんだった。

『光莉が大切にしてるもの全部、傷つけてやるから』

 って。あのとき、拓海や美帆の顔が浮かんで、光莉は震え上がるほどの恐怖を覚えた。

 小学時代の経験が蘇った。理乃は先生に評判のいい優等生を演じるだろう。現に、クラスへの馴染み方はさすがといえるスピードだった。光莉が何を言っても、『松村さんがそんなことするわけない』と、誰もが口にするだろう土壌を彼女は作っていた。ふたたび、理乃によって孤立させられる。そう確信したから、逃げるしかなかった。

 しかし、逃げたら、また同じことが繰り返されるんじゃないかと怖かった。理乃がアメリカまで追いかけて来るんじゃないかって。実際はそんなことはなくて、この十年、彼女に影響されることなく生きてこれた。

 逃げてもいいんだ。母の言葉が正しかったと証明されるような生活を送ってこれた。だけど、どうだろう。逃げることすらできない拓海と美帆は、どんな高校時代を過ごしてきたのだろう。

「光莉が転校してからも、松村さんは私に仲良くしようって言ってきたよ」
「そうなんだ……」
「でも、仲良くしてない。なんだか、不気味な子だったから」

 美帆はわずかに申し訳なさそうな表情をした。理乃を悪く言うことで、身内である光莉を傷つけると思ったのだろう。

「うん、わかるよ。理乃って、そういう子だったから」

 知ってたんだって、ちょっと失望したように美帆は肩を落とす。

「だから、連絡先、教えてくれなかったの?」
「……ごめんね。教えたら、理乃が美帆に嫌がらせして、私の連絡先を聞き出そうとするんじゃないかって思ってた」
「そんなに怖い子だった?」
「私には」

 自分がいなければ、理乃は周囲とうまくやっていく。当時はそう思っていた。しかし、今となっては、その考えが間違っていたのかもしれないと思う。

 赤村と不倫した上、彼の家庭を壊そうとし、挙句には誰かによって殺された。光莉がいなくても、理乃の不器用な生き方は変わっていなかった。

「そっか。そういうの、月島くんは感じてたのかな」
「拓海が?」
「うん。杉谷くんが、どうにかして光莉の引越し先を調べようって言ったんだけど、月島くんは『やめろよ』ってすごく怒ったんだよ。あのときの彼、松村さんの視線をすごく気にしてた」
「そうだったんだ」

 意外だ。拓海は誰とでも円満に過ごそうとするタイプの人間だったのに。
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