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第2話 海と老婆01/02。
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風の噂で、父が死に、兄が家督を受け継ぎ当主となった事を、サンスリーは知った。
屋敷の外は思いの外酷い場所で、サンスリーは路銀として渡された金があれば、一生働かなくても良いほどだった事を知った。
だが最後の命令は、見て行動を起こす事。
ゲイザーと名乗って、諸国を巡る事だった。
住んでいた領土を離れ3ヶ月、街が見えたサンスリーは当てもなく立ち寄る事にした。
街にいるのなら宿を探そうと思い歩いていると、窓辺に老婆がいて、サンスリーに微笑んでくる。
サンスリーが会釈をすると、老婆は手招きをしてくる。
物乞いの類を疑ったが、サンスリーなら別に老婆の1人くらいどうとでもなる。
仮に殺して罪に問われても、父が最後に持たせた【自由行使権】がある。この紙一枚で無罪になる。
【自由行使権】は魔法が施されていて焼けることも何も叶わない紙。サンスリーの死が破壊条件の紙は、それこそ金がなくなって追い剥ぎをしても許されるモノだった。
サンスリーが近付くと、老婆は「ごきげんよう」と挨拶をしてきた。
サンスリーが「ああ」と返すと、「旅の方?」と聞かれる。
「ああ」
「あら、今日の宿は?」
「まだない。探している」
「ふふ。ならその先の通りに一軒ありますよ」
「助かる」と返したサンスリーに、老婆が「少し話し相手になってくださらない?」と言ってサンスリーを家に招こうとする。
再度、「お茶くらい出せますよ」と言ってくる老婆に、「なんの目的が…」と聞き返すサンスリー。
老婆は「お話を聞きたいの。別の街の話が聞きたいの」と言って微笑んでくる。サンスリーは老婆に少しだけ興味を持って家に入ると、老婆には膝から先の足がなく、椅子の上で置物のように座っていた。
視線を感じて、「ああ、足?ご主人様が欲されたのよ」と明るく笑う老婆。
この街を治めている権力者の元で働きに出た15歳の少女。
もう40年も前の事だと言う。
突き上げに遭い、虐められる少女に興味を持った権力者は、膝から先の足をくれれば、街に家を用意し、使用人を付ける事と、生活の保障を約束してきた。
勿論そこには家族達も住まわせて構わない。家族の面倒も見ようと権力者は言った。
少女は家族が幸せになるのならと言い、足を差し出してこの日々を手に入れた。
「ふふ。もう40年。この窓から見える世界だけが私の世界。ご主人様のご要望は、この家から出ない事。お医者様も何もかも全部手配してくださるの。だから本当に40年もこの家の中で暮らしているのよ」
老婆はなんのこともなく話す。
この世界ではそれが普通。
もっと酷い話なんていくらでもある。
足を失ってから約束を反故にして絶望をさせて高笑いをする権力者もいる。
だが、ここの権力者はまだマシで、40年も老婆を養っている。
死ぬまで食事を摂り続ける事を強要される貧困層の子供なんて珍しくない。
初めは喜んでいても、徐々に苦痛に塗れた顔をして、最後には無理矢理腹が裂けるまで食べ物を詰め込まれてしまう。
サンスリーは「あなたはどこから来たの?」と聞かれて、自身が住んでいた街の話をすると、老婆は少しガッカリした顔をした。
「どうした?」
「いいえ、海が見たかったの。話を聞いて一度行ってみたかったの。でもこの身体だから行けないでしょ?だから別の方から話を聞いてみたかったのよ」
「行けばいい」
「無理よ。私がここを出たら家族の保障が終わるのよ。私もこんな身体では1人で生きていけない」
「その家族に養ってもらえばいい。何年も家族に尽くしたのだろう?」
「ふふ。両親は泣いて謝って感謝をしてくれたけど、弟達やその子供達には感謝の心なんてなかったわね。今生きているのはその子達よ。感謝なんてないわ」
サンスリーが呆れてしまうと、老婆は「それにもう長くないのよ。この前お医者様に言われたの。足がない分だけ、心臓が弱っているんですって。魔法使いに何か心臓の力を強める道具を頼んでも良いけど、そうまでする気もない。ご主人様ももう老齢で、亡くなられたら後は大変だから、その前に終わりたいのよ」と言って窓の外を眺める。
眺めた先は窓の外ではなく、見たこともない海を見ていたのかもしれない。
権力者は本当に無責任極まりない。
足を捨てれば一生の面倒を見てやると言った。
自身の父も似た事を散々してきた。
父はまだ欠損を強要しなかったが、戦闘用の人間が戦闘中の怪我で手足を失っても戦わせ続けた。
それこそ死ぬまで戦わせ続けた。
死ねればいいが、手足を失って産廃扱いされて野に放たれれば、どのみち死ぬ。
産廃を考えた時、サンスリーの脳裏に1人の少女の姿が浮かんでくる。サンスリーは首を横に振って忘れようと努力すると、頭痛と共に少女の姿は消えていた。
「大丈夫?」と聞く老婆に、サンスリーは「また来る」と言って宿に向かい、長期滞在をする事にした。
老婆はサンスリーがまた来た事に喜ぶと、「あなたのご主人様は亡くなられたの?それで旅をしているの?」と聞いてくる。
「いや、最後の仕事だ」
「あら、ごめんなさい。なんの仕事をしているの?」
「見てくる事。世界を見て、自分の好きに行動する事を求められた」
老婆はそれを聞いて目を丸くすると、「それなら海も見れるわね」と言った後で、「好きにしていいって怖い言葉ね。私は好きにしていいと言われても、足があってもここしか知らないから、ここから離れられないわ」と言った。
サンスリーは毎日昼下がりから夕方まで老婆の所にいく。
それ以外は街の周りの害獣駆除や、魔物の討伐を請け負って、路銀の足しや体が鈍らないようにしたり、図書館に顔を出して書物を読み漁る。
何のためにと問われれば、それこそが自身が父親にやらされた事だったから、子供の頃から全てをやらされてきた。その中でも勉強だけは、遠征等で不可能な日以外は、1日たりとも休む事を許されなかった。
本は物語でも参考書でもなんでも読んできた。
そしてそれを試すように魔物を討伐したり、闘犬用の部屋で訓練をしてきた。
屋敷の外は思いの外酷い場所で、サンスリーは路銀として渡された金があれば、一生働かなくても良いほどだった事を知った。
だが最後の命令は、見て行動を起こす事。
ゲイザーと名乗って、諸国を巡る事だった。
住んでいた領土を離れ3ヶ月、街が見えたサンスリーは当てもなく立ち寄る事にした。
街にいるのなら宿を探そうと思い歩いていると、窓辺に老婆がいて、サンスリーに微笑んでくる。
サンスリーが会釈をすると、老婆は手招きをしてくる。
物乞いの類を疑ったが、サンスリーなら別に老婆の1人くらいどうとでもなる。
仮に殺して罪に問われても、父が最後に持たせた【自由行使権】がある。この紙一枚で無罪になる。
【自由行使権】は魔法が施されていて焼けることも何も叶わない紙。サンスリーの死が破壊条件の紙は、それこそ金がなくなって追い剥ぎをしても許されるモノだった。
サンスリーが近付くと、老婆は「ごきげんよう」と挨拶をしてきた。
サンスリーが「ああ」と返すと、「旅の方?」と聞かれる。
「ああ」
「あら、今日の宿は?」
「まだない。探している」
「ふふ。ならその先の通りに一軒ありますよ」
「助かる」と返したサンスリーに、老婆が「少し話し相手になってくださらない?」と言ってサンスリーを家に招こうとする。
再度、「お茶くらい出せますよ」と言ってくる老婆に、「なんの目的が…」と聞き返すサンスリー。
老婆は「お話を聞きたいの。別の街の話が聞きたいの」と言って微笑んでくる。サンスリーは老婆に少しだけ興味を持って家に入ると、老婆には膝から先の足がなく、椅子の上で置物のように座っていた。
視線を感じて、「ああ、足?ご主人様が欲されたのよ」と明るく笑う老婆。
この街を治めている権力者の元で働きに出た15歳の少女。
もう40年も前の事だと言う。
突き上げに遭い、虐められる少女に興味を持った権力者は、膝から先の足をくれれば、街に家を用意し、使用人を付ける事と、生活の保障を約束してきた。
勿論そこには家族達も住まわせて構わない。家族の面倒も見ようと権力者は言った。
少女は家族が幸せになるのならと言い、足を差し出してこの日々を手に入れた。
「ふふ。もう40年。この窓から見える世界だけが私の世界。ご主人様のご要望は、この家から出ない事。お医者様も何もかも全部手配してくださるの。だから本当に40年もこの家の中で暮らしているのよ」
老婆はなんのこともなく話す。
この世界ではそれが普通。
もっと酷い話なんていくらでもある。
足を失ってから約束を反故にして絶望をさせて高笑いをする権力者もいる。
だが、ここの権力者はまだマシで、40年も老婆を養っている。
死ぬまで食事を摂り続ける事を強要される貧困層の子供なんて珍しくない。
初めは喜んでいても、徐々に苦痛に塗れた顔をして、最後には無理矢理腹が裂けるまで食べ物を詰め込まれてしまう。
サンスリーは「あなたはどこから来たの?」と聞かれて、自身が住んでいた街の話をすると、老婆は少しガッカリした顔をした。
「どうした?」
「いいえ、海が見たかったの。話を聞いて一度行ってみたかったの。でもこの身体だから行けないでしょ?だから別の方から話を聞いてみたかったのよ」
「行けばいい」
「無理よ。私がここを出たら家族の保障が終わるのよ。私もこんな身体では1人で生きていけない」
「その家族に養ってもらえばいい。何年も家族に尽くしたのだろう?」
「ふふ。両親は泣いて謝って感謝をしてくれたけど、弟達やその子供達には感謝の心なんてなかったわね。今生きているのはその子達よ。感謝なんてないわ」
サンスリーが呆れてしまうと、老婆は「それにもう長くないのよ。この前お医者様に言われたの。足がない分だけ、心臓が弱っているんですって。魔法使いに何か心臓の力を強める道具を頼んでも良いけど、そうまでする気もない。ご主人様ももう老齢で、亡くなられたら後は大変だから、その前に終わりたいのよ」と言って窓の外を眺める。
眺めた先は窓の外ではなく、見たこともない海を見ていたのかもしれない。
権力者は本当に無責任極まりない。
足を捨てれば一生の面倒を見てやると言った。
自身の父も似た事を散々してきた。
父はまだ欠損を強要しなかったが、戦闘用の人間が戦闘中の怪我で手足を失っても戦わせ続けた。
それこそ死ぬまで戦わせ続けた。
死ねればいいが、手足を失って産廃扱いされて野に放たれれば、どのみち死ぬ。
産廃を考えた時、サンスリーの脳裏に1人の少女の姿が浮かんでくる。サンスリーは首を横に振って忘れようと努力すると、頭痛と共に少女の姿は消えていた。
「大丈夫?」と聞く老婆に、サンスリーは「また来る」と言って宿に向かい、長期滞在をする事にした。
老婆はサンスリーがまた来た事に喜ぶと、「あなたのご主人様は亡くなられたの?それで旅をしているの?」と聞いてくる。
「いや、最後の仕事だ」
「あら、ごめんなさい。なんの仕事をしているの?」
「見てくる事。世界を見て、自分の好きに行動する事を求められた」
老婆はそれを聞いて目を丸くすると、「それなら海も見れるわね」と言った後で、「好きにしていいって怖い言葉ね。私は好きにしていいと言われても、足があってもここしか知らないから、ここから離れられないわ」と言った。
サンスリーは毎日昼下がりから夕方まで老婆の所にいく。
それ以外は街の周りの害獣駆除や、魔物の討伐を請け負って、路銀の足しや体が鈍らないようにしたり、図書館に顔を出して書物を読み漁る。
何のためにと問われれば、それこそが自身が父親にやらされた事だったから、子供の頃から全てをやらされてきた。その中でも勉強だけは、遠征等で不可能な日以外は、1日たりとも休む事を許されなかった。
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