婚約破棄された伯爵令嬢は追放先の辺境で聖獣と騎士団長に愛されながら国を救う~ブラッディ・リディア戦記

ぐりとぐる

文字の大きさ
4 / 14

聖獣との絆

しおりを挟む
ミルファーレ村に来てから数日が経った。
リディアは毎朝、畑の手伝いや家畜の世話をこなし、村人との交流を深めていた。
その姿をいつも隣で見守っているのが、あのとき道中で助けた聖獣の子ども――銀色の体毛に翡翠の瞳を持つ小さな獣、「ルナ」と名付けられた存在だった。

ルナは当たり前のようにリディアの家に住み着き、いつもリディアの後をついて歩いた。
リディアが畑に行けば畑へ、炊事場に行けばそこへ、まるで親に甘える子のように。

「ルナ、今日も元気ね。村のニワトリを追いかけちゃだめよ」

そう声をかけながらリディアが笑うと、ルナはしっぽを振りながら彼女の膝に頭をすり寄せた。
その仕草に村の子どもたちも笑い声を上げる。

「ルナちゃん、リディアお姉ちゃんのこと本当に好きなんだね!」
「うん、まるで心が通じ合ってるみたい!」

リディアはそれを聞いて微笑むが、実際、ルナとの間には言葉を越えた感覚的なつながりがあるのを彼女自身感じていた。
ルナが悲しんでいると、その気持ちが胸に流れ込むようにわかる。
嬉しいときには、胸の奥がぽっと温かくなる。

ある日の夕暮れ、リディアはルナを連れて村はずれの小さな丘に登った。
そこには古びた祠があり、辺境に棲む精霊たちを祀っていると村人に聞いていた。
自分も村人の一員として、祠に参るべきだと思ったのだ。

風が優しく吹くなか、ルナが突然、小さく鳴いて祠の前に座った。

「どうしたの?」

問いかけた瞬間、リディアの胸にずしんとした重い感覚が走った。
まるで誰かが助けを求めているような、寂しさと痛みが入り混じったような気配……捨てられたものの悲哀。
それはルナから発せられているものだとすぐにわかった。

「……あなた、孤独だったのね。私と同じ」

彼女はそっとルナの小さな身体を抱きしめた。
その瞬間、風が止まり、祠の周囲にふわりと光が揺らめいた。

リディアの額がわずかに光り、彼女の目の前に淡く透き通った紋様が浮かび上がる。
それはもちろんリディアの目にも映っていないが、、リディアの内側に響いていた。

「これ……何?」

不思議と恐怖はなかった。
ただ、心が満たされるような感覚と、どこか懐かしい安心感が胸を包んだ。
ルナは穏やかに目を閉じて、リディアの腕の中で眠り始めた。

村に戻ったリディアは、長老のセリナにその出来事を話した。
セリナは驚いたように眉をひそめた。

「祠の前で光が……?そして紋様が?それは……まさか」

「まさか?」

「あんたは、もしかして“聖獣の心を受け取る者”かもしれない。
この地では稀に、聖獣と心を通わせた人間がその守護を得ると伝えられている。
けれど、それは数百年に一度のことで、私も伝承でしか知らない」

「聖獣の守護……それはルナが望んだものなのでしょうか」

「それはわからない。でも、聖獣があなたを選んだこと、それは確かだね」

その夜、リディアは眠れなかった。
静かな寝室で目を閉じると、胸の奥にルナの感情と自分の感覚が交差するように広がっていた。
かすかに聞こえる、遠い誰かの声。
まだ言葉にはならないそれを、彼女は心で聞き取ろうとした。

そして確かに思った。

――ルナはどんな力を宿しているのだろう。でも、その力のせいでルナが傷つくようなことにはなって欲しくない。

リディアの中には、自分を陥れた人間や自分を信じてくれなかった人たちに対する怒りの気持ちはある。
だが、その復讐にルナを利用したくはない。
この子は、心優しい聖獣なんだ。

――マクレイン家の娘である私は、このままでは終われない。でも……

小さな村で始まった、新たな出会いと不思議な力。その兆しはまだ淡く、けれど確かに光を宿していた。

***

エリザベート・ド・セルヴァの侍女マリアンヌは、主人の装いを整えながら言った。

「あの伯爵の娘がいなくなった今、つぎの王太子妃はエリザベート様ですね」

「……それがセルヴァ家のため、なのですわね」

レオンの妻か……そう思いながら、エリザベートは薄く笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)

星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。 団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。 副団長「彼女のご飯は軍事物資です」 私「えっ重い」 胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!? ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。 (月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)

元婚約者だったお兄様が後悔したと私に言ってくるのですが…

クロユキ
恋愛
親同士が親友だったと将来お互い結婚をして子供が生まれたら婚約を結ぶ約束をした。 お互い家庭を持ち子供が生まれたが一家族の子供は遅い出産だったが歳が離れていても関係ないとお互いの家族は息子と娘に婚約を結ばせた。 ジョルジュ十歳、オリビア0歳で親同士が決めた婚約をした。 誤字脱字があります。 更新が不定期ですがよろしくお願いします。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

公爵家の次女ですが、静かに学園生活を送るつもりでした

佐伯かなた
恋愛
王国でも屈指の名門、公爵アルヴィス家。 その家には、誰もが称賛する完璧な令嬢がいた。 長女ソフィア。 美貌、知性、礼儀、すべてを備えた理想の公爵令嬢。 そして──もう一人。 妹、レーネ・アルヴィス。 社交界ではほとんど名前も出ない、影の薄い次女。 姉ほど目立つわけでもなく、社交の中心にいるわけでもない。 だが彼女は知っている。 貴族社会では、 誰が本当に優れているのかは、静かな場面でこそ分かるということを。 王立学園に入学したレーネは、 礼儀作法、社交、そして人間関係の中で、静かに周囲を観察していく。 やがて── 軽んじていた者たちは気づく。 「公爵家の妹」が、本当はどんな令嬢だったのかを。 これは、 静かな公爵令嬢が学園と貴族社会で評価を覆していく物語。

追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)
恋愛
 婚約者である王太子からの突然の断罪!  それは自分の婚約者を奪おうとする義妹に嫉妬してイジメをしていたエステルを糾弾するものだった。  しかしこれは義妹に仕組まれた罠であったのだ。  味方のいないエステルは理不尽にも王城の敷地の端にある粗末な離れへと幽閉される。 「あぁ……。私は一生涯ここから出ることは叶わず、この場所で独り朽ち果ててしまうのね」  エステルは絶望の中で高い塀からのぞく狭い空を見上げた。  そこでの生活も数ヵ月が経って落ち着いてきた頃に突然の来訪者が。 「お姉様。ここから出してさし上げましょうか? そのかわり……」  義妹はエステルに悪魔の様な契約を押し付けようとしてくるのであった。

『奢侈禁止令の鉄槌 ―偽の公爵令嬢が紡ぐ、着られぬ絹の鎖―』

鷹 綾
恋愛
亡き母の死後、公爵家の正統な継承者であるはずの少女は、屋敷の片隅で静かに暮らしていた。 実権を握っているのは、入り婿の父とその後妻、そして社交界で「公爵令嬢」として振る舞う義妹。 誰も疑わない。 誰も止めない。 偽りの公爵令嬢は、華やかな社交界で輝き続けていた。 だが、本来の継承者である彼女は何も言わない。 怒りも、反論も、争いも起こさない。 ただ静かに、書類を整えながら時を待っていた。 やがて王宮で大舞踏会が開かれる。 義妹は誇らしげに、亡き公爵夫人の形見である豪華な絹のドレスを身に纏って現れる。 それは誰もが息を呑むほど美しい衣装だった。 けれど―― そのドレスには、誰もが知らない「禁忌」があった。 舞踏会の夜。 華やかな音楽が流れる王宮で、ある出来事をきっかけに空気が一変する。 そして静かに現れる、本当の継承者。 その瞬間、 偽りの身分で築かれた栄光は、音もなく崩れ始める。 これは、 静かに時を待ち続けた一人の少女が、 奪われたものを正しい場所へ戻していく物語。 そして―― 偽りの公爵令嬢が辿る、あまりにも残酷な結末の物語でもある。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

処理中です...