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第三夜
二
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「嫌、離して!!」
アーウィンは腕を掴み、居間へと引きずっていった。掴まれた腕が痛い。踏ん張ってみても、私の力じゃ敵うはずもなく床に引きづられていく。でも、彼は助け起こすことも離すこともしてくれない。そのまま、引っ張っていく。こんなの嘘!
アーウィンは厳しいところもあったが、基本的に過保護と言っていいくらい甘かった。こんな乱暴な扱いは、今まで一度だってされたことがない。何が起きているの?一体どうしちゃったの!?分からない!分かるのは、地下室へ近づいているということだけ。
「嫌!行きたくない!!私、そっちは嫌だ!!」
夢中でつかんだ電話台が倒れた。電話や花瓶がぶちまけられて、大きな音を立てる。
「静かになさい」
「何で!?アーウィン、一体どうしちゃったの!?」
私の質問には答えず、物置のドアを開けた。
「さあ、中へ」
「嫌!!お願い、離して!!」
必死に抵抗する私を彼は軽々と抱き上げると、地下道の扉を開く。湿った風と、微かに混じる血の臭い。ーー死の匂い。
パニックになって、アーウィンの肩にしがみついた。
「お願い!!私、もっと言うこと聞くから!!いい子でいるからやめて!!」
暴れる私の耳にそっと囁く。
「レナ。リズは一人でさぞかし心細いでしょうね?」
心臓が凍りついたかと思った。
「やっ……ぱり……」
声がガサガサと掠れる。
「やっぱり……夢じゃないのね!?リズはあそこに!!」
「自分で確かめなさい」
冷たく言って、私を地下へ突き落とした。短い階段を転げ落ちて、肩を強く打ち付ける。その痛みに追い打ちをかけるが如く、扉の閉じる音が響いた。
「!!」
駆け上がって、閉じた扉に縋り付く。
「アーウィン、開けて!お願い、開けて!!」
拳を打ちつけて叫んだ。
「お願い、開けて!!」
アーウィンが応えてくれることは無かった。扉は固く閉ざされたまま。
「どうして……?」
ドアにしがみついたまま、しゃっくりをあげる。
「どうしてアーウィンがこんなことするの?」
答える声はない。代わりにあの声が蘇った。
『リズは一人でさぞかし心細いでしょうね?』
「そうだ……リズ……」
ぐすっと鼻を啜り上げる。
「リズ……捜しに……行かなきゃ……」
リズは、私よりずっと怖い思いをしているはず。足だって怪我してる……。
ようやくドアから離れ、立ち上がった。固く閉ざされたドアを見上げた。どうしてアーウィンがこんなことを?一体どうしちゃったの?何が起こっているの……。
「…………」
ううん。今はそれより、リズのことを考えなくちゃ。きっと寂しい思いをしている。急いで捜さなきゃ……。
地下道が続いている。緩く下る坂道は、闇へ闇へと手招いているようだ……。そんな必要はないのに、なぜか息を潜めてしまう。
奥に進むと、死人門がある。どうしてだろう。恐ろしいのに、時折神々しいものにも見える。跨ぐと、この辺りは急に腐臭が濃くなった。だいぶ慣れたが、それでもやっぱり少し吐き気がする。地下道は緩やかに登り、井戸へ続いている。
井戸の底まできた。地上へのハシゴがあるので、上っていく。
近くには開かずの扉がある。ノブのない両開きの扉。扉には、ノブがあった形跡すら見当たらない。最初からノブがなかったのかしら?それじゃ、ドアの意味がないと思うんだよね。
ここは噴水のある庭だ。見上げた空は、うっすら雲がかかっているせいか星は見えない。雲間からは時折、金色の月が顔を覗かせている。
南の扉をくぐると、回廊の入り口だ。
東の扉に行くと、相変わらず回廊は狭い。昔、ここはどんな場所だったんだろう。狭い通路、黒いベールを被って無言で歩く女たち。ただの想像でしかないのに、なぜかそんな光景が見えた。
廊下を進んで、奥の扉の部屋に行く。
「…………」
暗い部屋を隅々まで見回した。今日は誰も……何もいない……。試しに柵の扉を開けようとした。
「開かない……」
鍵がかかっているみたいだ。柵の奥にもう一つドアが見えるのに、ここが開かないんじゃ調べようがないわね……。
西の扉に行って、牢獄道へ向かう。並ぶ牢獄を一つ一つ確かめても、リズの姿はない。どこにいるの?
奥の扉へ行って通路を抜け、北の扉に入る。
ここは人柱の間。死体の柱が並んでいる。ベールを被った彼女たちは、まるで祈りを捧げているかのようだ。整然と同じポーズでくくりつけられたそれは、まさに彫刻だ。
「…………」
アーウィンは腕を掴み、居間へと引きずっていった。掴まれた腕が痛い。踏ん張ってみても、私の力じゃ敵うはずもなく床に引きづられていく。でも、彼は助け起こすことも離すこともしてくれない。そのまま、引っ張っていく。こんなの嘘!
アーウィンは厳しいところもあったが、基本的に過保護と言っていいくらい甘かった。こんな乱暴な扱いは、今まで一度だってされたことがない。何が起きているの?一体どうしちゃったの!?分からない!分かるのは、地下室へ近づいているということだけ。
「嫌!行きたくない!!私、そっちは嫌だ!!」
夢中でつかんだ電話台が倒れた。電話や花瓶がぶちまけられて、大きな音を立てる。
「静かになさい」
「何で!?アーウィン、一体どうしちゃったの!?」
私の質問には答えず、物置のドアを開けた。
「さあ、中へ」
「嫌!!お願い、離して!!」
必死に抵抗する私を彼は軽々と抱き上げると、地下道の扉を開く。湿った風と、微かに混じる血の臭い。ーー死の匂い。
パニックになって、アーウィンの肩にしがみついた。
「お願い!!私、もっと言うこと聞くから!!いい子でいるからやめて!!」
暴れる私の耳にそっと囁く。
「レナ。リズは一人でさぞかし心細いでしょうね?」
心臓が凍りついたかと思った。
「やっ……ぱり……」
声がガサガサと掠れる。
「やっぱり……夢じゃないのね!?リズはあそこに!!」
「自分で確かめなさい」
冷たく言って、私を地下へ突き落とした。短い階段を転げ落ちて、肩を強く打ち付ける。その痛みに追い打ちをかけるが如く、扉の閉じる音が響いた。
「!!」
駆け上がって、閉じた扉に縋り付く。
「アーウィン、開けて!お願い、開けて!!」
拳を打ちつけて叫んだ。
「お願い、開けて!!」
アーウィンが応えてくれることは無かった。扉は固く閉ざされたまま。
「どうして……?」
ドアにしがみついたまま、しゃっくりをあげる。
「どうしてアーウィンがこんなことするの?」
答える声はない。代わりにあの声が蘇った。
『リズは一人でさぞかし心細いでしょうね?』
「そうだ……リズ……」
ぐすっと鼻を啜り上げる。
「リズ……捜しに……行かなきゃ……」
リズは、私よりずっと怖い思いをしているはず。足だって怪我してる……。
ようやくドアから離れ、立ち上がった。固く閉ざされたドアを見上げた。どうしてアーウィンがこんなことを?一体どうしちゃったの?何が起こっているの……。
「…………」
ううん。今はそれより、リズのことを考えなくちゃ。きっと寂しい思いをしている。急いで捜さなきゃ……。
地下道が続いている。緩く下る坂道は、闇へ闇へと手招いているようだ……。そんな必要はないのに、なぜか息を潜めてしまう。
奥に進むと、死人門がある。どうしてだろう。恐ろしいのに、時折神々しいものにも見える。跨ぐと、この辺りは急に腐臭が濃くなった。だいぶ慣れたが、それでもやっぱり少し吐き気がする。地下道は緩やかに登り、井戸へ続いている。
井戸の底まできた。地上へのハシゴがあるので、上っていく。
近くには開かずの扉がある。ノブのない両開きの扉。扉には、ノブがあった形跡すら見当たらない。最初からノブがなかったのかしら?それじゃ、ドアの意味がないと思うんだよね。
ここは噴水のある庭だ。見上げた空は、うっすら雲がかかっているせいか星は見えない。雲間からは時折、金色の月が顔を覗かせている。
南の扉をくぐると、回廊の入り口だ。
東の扉に行くと、相変わらず回廊は狭い。昔、ここはどんな場所だったんだろう。狭い通路、黒いベールを被って無言で歩く女たち。ただの想像でしかないのに、なぜかそんな光景が見えた。
廊下を進んで、奥の扉の部屋に行く。
「…………」
暗い部屋を隅々まで見回した。今日は誰も……何もいない……。試しに柵の扉を開けようとした。
「開かない……」
鍵がかかっているみたいだ。柵の奥にもう一つドアが見えるのに、ここが開かないんじゃ調べようがないわね……。
西の扉に行って、牢獄道へ向かう。並ぶ牢獄を一つ一つ確かめても、リズの姿はない。どこにいるの?
奥の扉へ行って通路を抜け、北の扉に入る。
ここは人柱の間。死体の柱が並んでいる。ベールを被った彼女たちは、まるで祈りを捧げているかのようだ。整然と同じポーズでくくりつけられたそれは、まさに彫刻だ。
「…………」
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