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第三夜
六
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ハシゴを下りると、そこにはぽっかりと大きな穴が空いていた。ううん。部屋に穴が空いていると言うより、部屋自体が穴だった方が正しい。床がすこんと抜け落ちてしまったみたいだ。大きな穴の上には、吊り橋がかかっている。これ以上にないくらい、頼りげのない吊り橋だ。
恐る恐る穴を覗き込んだ。暗い穴に底は見えない。底、あるのかな。落ちたら、どこまでもどこまでも落ちていきそう。
部屋の両側の壁は、上の階から落ちている水で覆われていていた。水は壁を伝い、音もなく穴へ飲み込まれていく。橋の向こう、正面にドアが見える……。ここは奈落の間。奈落にかけられた吊り橋は、見た目よりしっかりしている。できれば吊り橋じゃなくて、もっとしっかりした橋にしてほしかった……。
扉をくぐると、階段と四角い大きな穴があった。大きな穴を通る。
「リズ……」
ようやく池の東側へ辿りついた。けれどそこには彼女の姿はない。ただ静かな池が微かに水面を揺らめかせ、出迎えた。当たり前か……。ここを出ていく姿を見たもの。ここに来るまでに、少し時間かかっちゃった……。きっとこの近くにいるわ。他の所を捜してみよう。
階段を上ると、一階の部屋には小さなポンプがあった。絶え間なく水が噴き出されている。水は金網の張られた床下に落ちて、更に部屋に巡る溝へ流れて込んだ。そこから階下へ流れ落ちている。この水は、中庭の噴水と違って水が澄んでいる。ここにも、リズはいない。
二階の扉に入る。
「わあ……!」
思わず声を上げた。
その部屋は本で埋め尽くされている。壁に作りつけられた本棚の上は通路になっていて、階段で上り下りできるようになっていた。そして、天井までぎっしりと本で埋め尽くされているのだ。なんてたくさんの本!全部読み終わるのに、どれくらいかかるのかしら!
その光景に圧倒されていると、背後から弱々しい声がした。
「……レナ?」
ハッとして振り返ると、本棚の影からボロボロのリズが姿を現す。
「リズ……!!」
彼女に飛びついた。
「レナ……会いたかった!」
リズは泣いている。泣いているの、初めて見た。私が泣かせた……。そう思ったら急に涙が溢れる。
「私も……!一人にしてごめんね、怖かったよね……」
「会いたくてたまらなかったの……」
涙声でため息の如く呟いた。
「ごめんね……でも無事で良かった」
ぐすと鼻を啜り上げる。
「そうだ……足は?怪我は大丈夫?」
足を見ようと体を離そうとしたら、それを遮りリズは抱きしめた。
「平気、もうちっとも痛くないわ」
「そう……?それならいいんだけど……」
「うん、でも本当に……会えて良かった」
突然彼女が悲鳴を上げて、私を突き飛ばす。
「リズ!?」
顔を押さえて、呻いていた。その側に軽やかな音を立てて、すすけたコインが転がる。
「ど、どうしたの。何……」
声はそこで凍りついた。リズ……舌……?それを確かめる間もなく、小さな背中が私の目の前に飛び降りてきた。
「下がって!」
「フレディ!?」
上の通路にいたのだろうか。私には何が起きたのか、わからない。何が……何が起きて……!状況が理解できない私の前で、彼が銃を構えた。
「!?……だ、だめっ!」
咄嗟に後ろからフレディのコートを強く引っ張る。がくんと体勢が崩れ、同時に発泡音が響いた。ぎゃあああっとリズが吠える。銃弾が彼女の肩を貫いた。その口から伸びるのは長い舌。わからない。わからない!わからない!!
リズはのたうち回って、背後のドアから飛び出していく。
「くそ……!」
追おうとした彼に、私はしがみついた。
「うわ!何っ……放せ!」
でも私は手を緩めない。フレディにしがみついたまま叫んだ。
「何で撃ったりしたの!?私の友達なのに!」
「姉ちゃん、あれは」
「ひどい!撃つなんてひどい!!」
「あのね、彼女は」
「やっと会えたのに!リズ、怪我してるのに!」
「ちょっと俺の話、聞いて……」
「ひどい、ひどい、ひどい、ひどい!!」
ぱちん。突然頬に痛みが走る。ほっぺに手を当てて、呆然と彼を見返していた。……叩かれた?痛みは大したことなかったけど、その音と叩かれた事実にびっくり。誰かに叩かれたのなんて、初めてだ。
「姉ちゃん、いい子だからちょっと俺の話聞いてね」
フレディは銃をベルトに戻しながら、ゆっくりと言った。相変わらず頬を押さえたまま、ぽかんと見る。
「彼女は入蝕されている」
恐る恐る穴を覗き込んだ。暗い穴に底は見えない。底、あるのかな。落ちたら、どこまでもどこまでも落ちていきそう。
部屋の両側の壁は、上の階から落ちている水で覆われていていた。水は壁を伝い、音もなく穴へ飲み込まれていく。橋の向こう、正面にドアが見える……。ここは奈落の間。奈落にかけられた吊り橋は、見た目よりしっかりしている。できれば吊り橋じゃなくて、もっとしっかりした橋にしてほしかった……。
扉をくぐると、階段と四角い大きな穴があった。大きな穴を通る。
「リズ……」
ようやく池の東側へ辿りついた。けれどそこには彼女の姿はない。ただ静かな池が微かに水面を揺らめかせ、出迎えた。当たり前か……。ここを出ていく姿を見たもの。ここに来るまでに、少し時間かかっちゃった……。きっとこの近くにいるわ。他の所を捜してみよう。
階段を上ると、一階の部屋には小さなポンプがあった。絶え間なく水が噴き出されている。水は金網の張られた床下に落ちて、更に部屋に巡る溝へ流れて込んだ。そこから階下へ流れ落ちている。この水は、中庭の噴水と違って水が澄んでいる。ここにも、リズはいない。
二階の扉に入る。
「わあ……!」
思わず声を上げた。
その部屋は本で埋め尽くされている。壁に作りつけられた本棚の上は通路になっていて、階段で上り下りできるようになっていた。そして、天井までぎっしりと本で埋め尽くされているのだ。なんてたくさんの本!全部読み終わるのに、どれくらいかかるのかしら!
その光景に圧倒されていると、背後から弱々しい声がした。
「……レナ?」
ハッとして振り返ると、本棚の影からボロボロのリズが姿を現す。
「リズ……!!」
彼女に飛びついた。
「レナ……会いたかった!」
リズは泣いている。泣いているの、初めて見た。私が泣かせた……。そう思ったら急に涙が溢れる。
「私も……!一人にしてごめんね、怖かったよね……」
「会いたくてたまらなかったの……」
涙声でため息の如く呟いた。
「ごめんね……でも無事で良かった」
ぐすと鼻を啜り上げる。
「そうだ……足は?怪我は大丈夫?」
足を見ようと体を離そうとしたら、それを遮りリズは抱きしめた。
「平気、もうちっとも痛くないわ」
「そう……?それならいいんだけど……」
「うん、でも本当に……会えて良かった」
突然彼女が悲鳴を上げて、私を突き飛ばす。
「リズ!?」
顔を押さえて、呻いていた。その側に軽やかな音を立てて、すすけたコインが転がる。
「ど、どうしたの。何……」
声はそこで凍りついた。リズ……舌……?それを確かめる間もなく、小さな背中が私の目の前に飛び降りてきた。
「下がって!」
「フレディ!?」
上の通路にいたのだろうか。私には何が起きたのか、わからない。何が……何が起きて……!状況が理解できない私の前で、彼が銃を構えた。
「!?……だ、だめっ!」
咄嗟に後ろからフレディのコートを強く引っ張る。がくんと体勢が崩れ、同時に発泡音が響いた。ぎゃあああっとリズが吠える。銃弾が彼女の肩を貫いた。その口から伸びるのは長い舌。わからない。わからない!わからない!!
リズはのたうち回って、背後のドアから飛び出していく。
「くそ……!」
追おうとした彼に、私はしがみついた。
「うわ!何っ……放せ!」
でも私は手を緩めない。フレディにしがみついたまま叫んだ。
「何で撃ったりしたの!?私の友達なのに!」
「姉ちゃん、あれは」
「ひどい!撃つなんてひどい!!」
「あのね、彼女は」
「やっと会えたのに!リズ、怪我してるのに!」
「ちょっと俺の話、聞いて……」
「ひどい、ひどい、ひどい、ひどい!!」
ぱちん。突然頬に痛みが走る。ほっぺに手を当てて、呆然と彼を見返していた。……叩かれた?痛みは大したことなかったけど、その音と叩かれた事実にびっくり。誰かに叩かれたのなんて、初めてだ。
「姉ちゃん、いい子だからちょっと俺の話聞いてね」
フレディは銃をベルトに戻しながら、ゆっくりと言った。相変わらず頬を押さえたまま、ぽかんと見る。
「彼女は入蝕されている」
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