47 / 68
最終夜
三
しおりを挟む
禊ぎの道を抜けると、洞窟に繋がっていた。かがり火が焚かれていて、揺れる光が岩肌を照らしている。さっきの池は清浄な水の匂いがしたが、ここは澱んだ水の臭いがした。かがり火の光はその周囲を照らすだけで、その光は奥の穴まで届かない。
「どこへ繋がっているんだろう……」
「…………」
「フレディ?」
呼びかけても返事がなかった。
さっきからフレディの口数が少ない。すごくしっかりしているけど、それでもやっぱり怖いのかもしれない。そうね。私の方がお姉さんなんだから、頼ってばかりじゃダメよね。こういう時くらい、しっかりしないと。
「フレディ」
はっきりと呼びかけると、我に返ったのか返事があった。
「えっ、ごめん、なに……」
「手、つなご。そうすれば怖くないよ」
「え……」
彼が断る前に手を伸ばす。私の手がフレディに触れた時ーーばしっと振り払われた。
「あっ……ご、ごめん!!」
「…………」
「ごめん、姉ちゃん。嫌とかそういうんじゃなくって!」
私はニコッとする。
「うん、そうね。男の子だもんね。ちょっと照れちゃうね」
彼がホッとしたのが空気で伝わってきた。
「行こ」
フレディの背中を追って歩き出す。一瞬触れたフレディの手は、冷たくて震えていた。とても強い子だから……私には緊張していること、バレたくないのかもしれない。それだけよね?
道は地の底へ誘うかの如く、ひたすら下がっている。凸凹している上に濡れているから、転ばないように気をつけなきゃ……。
這い上がってくる冷気に、私はぶるっと震えた。
「ちょっと寒くなってきたね……」
「…………」
やっぱり返事がない。
「ね、フレ……」
呼びかけようとして、前を行く少年の息遣いがおかしいことに気づいた。妙に呼吸が浅い。
「どうしたの……調子悪い?」
「……何でもないよ。気にしないで」
「…………」
穴には澱んだ水の臭いが溢れている。まるで湖を潜っていくよう……。
道は急勾配で下っている。どこまで潜っていくんだろう。不安になる……。
フレディの呼吸が大きく、荒々しくなっていた。さっきまでは必死に隠そうとしていたが、もう耳を澄まさなくても呼吸が乱れているのが分かる。
「ねえ、どうしたの?苦しい?少し休む?」
「いい」
私の提案は切り捨て、却下された。
「大丈夫、行こう」
荒い息の向こうから、フレディが短く言う。
「……うん……」
さっきから彼の足取りが不安定だ。
「フレディ……」
「…………」
前に行くフレディに声をかけてみても、返事は返ってこない……。私たちはひたすらに潜っていく。光の届かない、暗黒の世界へ。
突然前を行く彼の肩が大きく揺れた。
「フレディ!」
膝をついたフレディに駆け寄る。
「どうし……!?」
何気なく触れた手が氷のように冷たかった。慌てて頬を触り、確認する。冷たい!!あまりの冷たさに鳥肌が立った。
「だ、大丈夫!?」
どうしよう、なんで!?確かにこの場所は少し寒い。それなのに、この冷たさは普通じゃない。さっき手を繋ごうとした時は、こんなんじゃなかったのに。どうして?どうしたらいい!?
ああ!病気には慣れているはずなのに、それが何の役にも立たないなんて!私は一生懸命彼の体をさすった。
「へいき……」
私につかんで立ち上がろうとしたフレディは、バランスを崩してもう一度膝をついた。
「戻ろう!一度外に出て……」
「だ、めだ」
掠れた声が、私の提案を却下する。
「行こう……戻ってる暇はないよ」
「でも……!」
また彼は立ち上がって歩こうとする。でも全然歩けてなんか、いないじゃない。
「行くんだ……!」
震える声とは裏腹に、そこには強い意志があった。
「…………」
どうしても逆らえず、彼に肩を貸して立ち上がる。
「フレディ、しっかりして……!」
彼の様子も気になった。ただ肩を貸している体重のほとんどを支えているため、自分の足取りに気を配らなくちゃいけない。私が転んだら、フレディも一緒に転んじゃうわ……。
崩れ落ちそうな彼を抱えて、私は必死に道を下る。どうしよう、このままじゃ……。
「どこへ繋がっているんだろう……」
「…………」
「フレディ?」
呼びかけても返事がなかった。
さっきからフレディの口数が少ない。すごくしっかりしているけど、それでもやっぱり怖いのかもしれない。そうね。私の方がお姉さんなんだから、頼ってばかりじゃダメよね。こういう時くらい、しっかりしないと。
「フレディ」
はっきりと呼びかけると、我に返ったのか返事があった。
「えっ、ごめん、なに……」
「手、つなご。そうすれば怖くないよ」
「え……」
彼が断る前に手を伸ばす。私の手がフレディに触れた時ーーばしっと振り払われた。
「あっ……ご、ごめん!!」
「…………」
「ごめん、姉ちゃん。嫌とかそういうんじゃなくって!」
私はニコッとする。
「うん、そうね。男の子だもんね。ちょっと照れちゃうね」
彼がホッとしたのが空気で伝わってきた。
「行こ」
フレディの背中を追って歩き出す。一瞬触れたフレディの手は、冷たくて震えていた。とても強い子だから……私には緊張していること、バレたくないのかもしれない。それだけよね?
道は地の底へ誘うかの如く、ひたすら下がっている。凸凹している上に濡れているから、転ばないように気をつけなきゃ……。
這い上がってくる冷気に、私はぶるっと震えた。
「ちょっと寒くなってきたね……」
「…………」
やっぱり返事がない。
「ね、フレ……」
呼びかけようとして、前を行く少年の息遣いがおかしいことに気づいた。妙に呼吸が浅い。
「どうしたの……調子悪い?」
「……何でもないよ。気にしないで」
「…………」
穴には澱んだ水の臭いが溢れている。まるで湖を潜っていくよう……。
道は急勾配で下っている。どこまで潜っていくんだろう。不安になる……。
フレディの呼吸が大きく、荒々しくなっていた。さっきまでは必死に隠そうとしていたが、もう耳を澄まさなくても呼吸が乱れているのが分かる。
「ねえ、どうしたの?苦しい?少し休む?」
「いい」
私の提案は切り捨て、却下された。
「大丈夫、行こう」
荒い息の向こうから、フレディが短く言う。
「……うん……」
さっきから彼の足取りが不安定だ。
「フレディ……」
「…………」
前に行くフレディに声をかけてみても、返事は返ってこない……。私たちはひたすらに潜っていく。光の届かない、暗黒の世界へ。
突然前を行く彼の肩が大きく揺れた。
「フレディ!」
膝をついたフレディに駆け寄る。
「どうし……!?」
何気なく触れた手が氷のように冷たかった。慌てて頬を触り、確認する。冷たい!!あまりの冷たさに鳥肌が立った。
「だ、大丈夫!?」
どうしよう、なんで!?確かにこの場所は少し寒い。それなのに、この冷たさは普通じゃない。さっき手を繋ごうとした時は、こんなんじゃなかったのに。どうして?どうしたらいい!?
ああ!病気には慣れているはずなのに、それが何の役にも立たないなんて!私は一生懸命彼の体をさすった。
「へいき……」
私につかんで立ち上がろうとしたフレディは、バランスを崩してもう一度膝をついた。
「戻ろう!一度外に出て……」
「だ、めだ」
掠れた声が、私の提案を却下する。
「行こう……戻ってる暇はないよ」
「でも……!」
また彼は立ち上がって歩こうとする。でも全然歩けてなんか、いないじゃない。
「行くんだ……!」
震える声とは裏腹に、そこには強い意志があった。
「…………」
どうしても逆らえず、彼に肩を貸して立ち上がる。
「フレディ、しっかりして……!」
彼の様子も気になった。ただ肩を貸している体重のほとんどを支えているため、自分の足取りに気を配らなくちゃいけない。私が転んだら、フレディも一緒に転んじゃうわ……。
崩れ落ちそうな彼を抱えて、私は必死に道を下る。どうしよう、このままじゃ……。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる