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エピローグ
三
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流石に立場上、狩られるまではいかないと思う。それでも、非常に鬱陶しい監視や制約が発生するのは間違いない。恐らく現場にも立てなくなる。この歳で隠居だなんて、ちょっと勘弁してほしい。やりたいことも、やらなきゃいけないことも、まだ何もやってないのに!
唸るしかないフレディに、アーウィンは満足そうな表情を浮かべる。その後、「推論」に話を戻した。
「策の犯人を知ってレナがどう反応をしようと、アーシュラには大した問題でもないだろう?受け入れればよし、拒むならねじ伏せて血を頂けばいいだけだ。例えレナが怒り狂うと分かっていても、回避するほどの脅威じゃない」
「でも、結果は違うでしょ」
悔しかったので、仕返しにその反論を素っ気なく遮る。
「たぶん、アーシュラは油断してた。抵抗されることは予測済みでも、姉ちゃんが自分に牙を向くとまでは思ってなかったんだ。彼女はどれだけ姉ちゃんにとって友達の存在が大きいこと、まるで分かってなかった。姉ちゃん本来の性格も。分かってたら、アーシュラが油断して死んだはずない。だけど分かってなかったんなら、友達を犠牲にするのが効果的だなんて気づくはずない。そうやって考えると、矛盾するよね?てことはつまりーーやっぱりあんたの発案なんだよ。そんで、これはあんたのシナリオなんだ。大体思った通りなんじゃない?」
彼は興味なさげな顔で、窓の外に顔を向けた。
「でもさ、どうしても不思議なんだよねー」
答えが返ってこないことを確信しつつ、フレディは天井を仰ぐ。
「なんであんたはそこまでするわけ?」
冥使は普通人間よりも身体能力に優れ、個体差はあるものの霧化や催眠の能力などを備えている。しかし、央魔はそれらの能力を有しない。そのため強力な血を与え、呪縛することにより他の冥使を隷属化してその身を守ってもらう。それが守り役と呼ばれる、央魔の血に縛れた冥使だ。アーウィンの行動は守り役のそれに近い。
だが守り役は、あくまで央魔が血を与えてから生まれるものだ。ヒナを央魔にしようと画策する守り役などあり得ない。それにただ単にレナ個人を募っているのなら、彼女の無事や生存を一番に持ってくるだろう。
それしてはアーウィンの行動は、ひどく乱暴なところがあった。例えレナが傷ついてもーー最悪、死んだとしても構わないとでも言うような。央魔になること以外の選択肢を排除しているようにも見える。
どうしても央魔が欲しかった二人。それでも根本が違う。央魔なら誰でも良かったアーシュラに対し、アーウィンにとって央魔になるのはレナでなければならなかった。恐らく彼女のためではなく、自分のために。そこまでさせる「レナ」はいったいーー。
フレディは一番聞きたかったことをようやく口にする。
「姉ちゃんって……何者なの?」
「…………」
窓際にたたずむ背中は揺れない。
冥使は基本的にあらゆるものに対して、ひどく無関心だと言われる。冥使だからと言って、仲間意識を持つこともない。人間だからと言って、敵対意識を持つこともない。食物連鎖の関係上、人間とは敵対するがただそれだけ。そんな淡白な冥使が一人の少女にこだわっている。そこには必ず何かがある。レナに固執する理由が。そして、彼女が央魔でなくてはいけない理由がーー。
突然黒い背中が呟いた。
「別に、央魔が欲しかったわけじゃない……」
「……えっ?」
漆黒の瞳がこちらを振り返る。昼時だというのに、窓辺には深い闇があった。
「央魔になれるということは、一つの要素にしかすぎない。ただ、あれはそうであるべきだ。あれには、そのほうがふさわしい。あれは特別なのだから」
言葉に熱がこもり、フレディを見返す目が赤く変わる。
「お前は所詮、名を継いだだけ。だが彼女は違う。あれはーー」
身を思わず固くした。だがアーウィンはそこまで言うと、ふっと言葉を切る。同時に目の色が黒に戻った。
「こちらにも聞きたいことがある」
先程までの熱は消え失せる。どうやらそれ以上話す気はないらしい。
「なに?」
「次期大老師がなぜ、こんなところを一人で彷徨いている。護衛はどうした」
「あは、護衛なんて元々ついてないし」
「護衛がいなくても、その歳で単独行動は許されないはずだ。それともお前は特例なのか?」
「ホントによく知ってんねえ、"村"のこと」
驚きを隠して、にこやかに首をすくめた。
「ま、今回はいろいろあってさ。俺子供だし優秀だし、ちょっと権力あるしねえ……」
思わずため息混じりになってしまう。我ながら、煙たがられてる要素が見事に揃っていると思う。それでも実際には、それが原因で嫌な思いをすることはあまりない。
唸るしかないフレディに、アーウィンは満足そうな表情を浮かべる。その後、「推論」に話を戻した。
「策の犯人を知ってレナがどう反応をしようと、アーシュラには大した問題でもないだろう?受け入れればよし、拒むならねじ伏せて血を頂けばいいだけだ。例えレナが怒り狂うと分かっていても、回避するほどの脅威じゃない」
「でも、結果は違うでしょ」
悔しかったので、仕返しにその反論を素っ気なく遮る。
「たぶん、アーシュラは油断してた。抵抗されることは予測済みでも、姉ちゃんが自分に牙を向くとまでは思ってなかったんだ。彼女はどれだけ姉ちゃんにとって友達の存在が大きいこと、まるで分かってなかった。姉ちゃん本来の性格も。分かってたら、アーシュラが油断して死んだはずない。だけど分かってなかったんなら、友達を犠牲にするのが効果的だなんて気づくはずない。そうやって考えると、矛盾するよね?てことはつまりーーやっぱりあんたの発案なんだよ。そんで、これはあんたのシナリオなんだ。大体思った通りなんじゃない?」
彼は興味なさげな顔で、窓の外に顔を向けた。
「でもさ、どうしても不思議なんだよねー」
答えが返ってこないことを確信しつつ、フレディは天井を仰ぐ。
「なんであんたはそこまでするわけ?」
冥使は普通人間よりも身体能力に優れ、個体差はあるものの霧化や催眠の能力などを備えている。しかし、央魔はそれらの能力を有しない。そのため強力な血を与え、呪縛することにより他の冥使を隷属化してその身を守ってもらう。それが守り役と呼ばれる、央魔の血に縛れた冥使だ。アーウィンの行動は守り役のそれに近い。
だが守り役は、あくまで央魔が血を与えてから生まれるものだ。ヒナを央魔にしようと画策する守り役などあり得ない。それにただ単にレナ個人を募っているのなら、彼女の無事や生存を一番に持ってくるだろう。
それしてはアーウィンの行動は、ひどく乱暴なところがあった。例えレナが傷ついてもーー最悪、死んだとしても構わないとでも言うような。央魔になること以外の選択肢を排除しているようにも見える。
どうしても央魔が欲しかった二人。それでも根本が違う。央魔なら誰でも良かったアーシュラに対し、アーウィンにとって央魔になるのはレナでなければならなかった。恐らく彼女のためではなく、自分のために。そこまでさせる「レナ」はいったいーー。
フレディは一番聞きたかったことをようやく口にする。
「姉ちゃんって……何者なの?」
「…………」
窓際にたたずむ背中は揺れない。
冥使は基本的にあらゆるものに対して、ひどく無関心だと言われる。冥使だからと言って、仲間意識を持つこともない。人間だからと言って、敵対意識を持つこともない。食物連鎖の関係上、人間とは敵対するがただそれだけ。そんな淡白な冥使が一人の少女にこだわっている。そこには必ず何かがある。レナに固執する理由が。そして、彼女が央魔でなくてはいけない理由がーー。
突然黒い背中が呟いた。
「別に、央魔が欲しかったわけじゃない……」
「……えっ?」
漆黒の瞳がこちらを振り返る。昼時だというのに、窓辺には深い闇があった。
「央魔になれるということは、一つの要素にしかすぎない。ただ、あれはそうであるべきだ。あれには、そのほうがふさわしい。あれは特別なのだから」
言葉に熱がこもり、フレディを見返す目が赤く変わる。
「お前は所詮、名を継いだだけ。だが彼女は違う。あれはーー」
身を思わず固くした。だがアーウィンはそこまで言うと、ふっと言葉を切る。同時に目の色が黒に戻った。
「こちらにも聞きたいことがある」
先程までの熱は消え失せる。どうやらそれ以上話す気はないらしい。
「なに?」
「次期大老師がなぜ、こんなところを一人で彷徨いている。護衛はどうした」
「あは、護衛なんて元々ついてないし」
「護衛がいなくても、その歳で単独行動は許されないはずだ。それともお前は特例なのか?」
「ホントによく知ってんねえ、"村"のこと」
驚きを隠して、にこやかに首をすくめた。
「ま、今回はいろいろあってさ。俺子供だし優秀だし、ちょっと権力あるしねえ……」
思わずため息混じりになってしまう。我ながら、煙たがられてる要素が見事に揃っていると思う。それでも実際には、それが原因で嫌な思いをすることはあまりない。
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