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ginsui

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渇望

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 そのトンネルは、突然現れます。 
 そこにいる、ただ一人にしかトンネルは見えません。 どこにいようと、何をしていようと、彼、あるいは彼女は、他の人には見えない自分だけのトンネルに向き合うことになるのです。
  トンネルの姿は、見る人によってさまざまです。 
 褐色の煉瓦をきっちりと積み重ねたトンネルもあれば、坑道さながらに岩を穿っただけのトンネルもあります。露を含んだ美しい蔓薔薇のアーチトンネル、うち捨てられた鉄道の雑草に覆われた廃トンネル。
  ただ、どのトンネルも、向こう側の景色を見ることはできません。 暗いトンネルの出口には、光を帯びたような靄がかかっています。 靄の奥に、おぼろな形や、なにやら動いているものがあるのですが定かではなく、でも、のぞき込んでいると、そこに自分にとってかけがえのないすばらしいものが待っているような気がしてきます。
  繰り返す日々の中で、ふと自分の居る場所はここではなく、もっと別のどこかではないかと思うときがあるでしょう? 
 いまの生活に不満はないのだけれど、充たされるにはなにかが欠けているのです。
  愛、友情? 
 自由、夢? 
 なんにせよ、これまで押さえていた心の隙間がうずき、隙間は身もだえしながら広がります。 どうしようもない渇望です。 
 そして人は、トンネルの向こうに自分が求めてやまないものがあると確信するのです。 トンネルを抜けさえすれば、この渇いた思いが充たされるはずだと。 
 人は、いてもたってもいられずトンネルの中に足を踏み出します。 
 私は口を閉じ、咀嚼します。
  味わい、呑み下します。 
 私はトンネル。 そうやって長い年月、私は生きてきました。
  食べても食べても、私の飢えは収まることを知りません。 むしろ、いや増すばかりです。
  私が食べた人たちの充たされないまま残った思いは、行く場所もなくひしめいて、私の胃袋を押し広げているのでしょう。 
 私は世界を彷徨いつづけます。 
 こうして、際限もない空腹をかかえたままで。
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