ミキちゃんちのインキュバス! 

千両文士

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【ミキちゃんちのインキュバス!(第二十一話)】「ミキちゃん's カントリーロード 2 【後編】 白猫少女と怒れる女帝」

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 K県の海を見下ろす蒲洒な住宅街にある『守屋司法事務所』のオフィスも兼ねた一軒家。
 その2階にある日当たりのいい西向きの元ミキちゃんの部屋に置かれた大判座布団の上で身を寄せ合ってお昼寝している3匹の猫が居た。
「きぁぁん?(アラン様? ナベシマ姐さん?… …まだ寝ていらっしゃるんですね)」
 心地よいぬくさの中目覚めた白猫キアラは身を寄せ合ってお昼寝しているナベシマ姐さんと黒猫アランの横で気持ちよく前脚を伸ばしてお尻を上げて体をほぐす。
(もう目が覚めちゃったし……せっかくだからミキさんのお家を散歩してみよっ!)
 そう決めたキアラはキャットドアを押し開けて部屋から出て行く。

「にゃあああん……(うわぁ、広いなぁ!)」
 2匹の猫の前でジョイステーション1をプレイしてテレビバシバシさせるのに失敗した守屋パパは奥様と娘さんと共に夕食の買い出しと猫のおもてなしおもちゃの買い出しでY駅近くの大型総合スーパー・エブリデイに出発。
 そして守谷家最強の哺乳類・女帝ナベシマと猫アランがお昼寝中の今、キアラは一人でハウスツアーを楽しむ。
(テーブルってこんなに高いモノだったんだ! 猫の目線って面白いわ!)
 テーブルの上に素足で乗ると言う猫・人間関係なく怒られるであろうスリリングな行為をキアラが楽しんでいたその時だった。
(あっ、お手洗い! ええとこの家のトイレは…… !)
 テーブルを飛び降りた白猫キアラは人間の個室トイレに向かうが、猫にとっては高い位置にある丸ドアノブを上手く開けられず、飛び上がっては掴み損ねて滑り落ちるばかりだ。
(まずい、このままじゃ……あれっ?)
 守谷家滞在中、猫の姿を固定されるように魔力操作してしまった事をキアラが悔やんでいたその時、庭に出れる廊下窓のロックが下がって開いている事に気づく。
「きあぁぁぁぁぁ!!」
 キアラは迷うことなく窓を押し開け、庭に飛び出す。

(はぁ、助かったわ……ナベシマさんに後で聞いておかないと)
 美佐子ママのガーデニングエリアの草藪内で猫として用を足し終えたキアラが安堵のため息と共に守谷家内に戻ろうとしたその時だった。
「にゃあお? ごろにゃあぁん?」
 野太い声と共に柵の上から飛び降りて来たのは体の大きい茶トラ猫だ。
「きあっ、きあぁぁぁん?」
「にゃぉぉ? ごろごろぉぉん?」
 (あなたは誰ですか?)
 なれなれしくすり寄って来て全身を嗅ぎまわる茶トラ猫に猫語で意思疎通が図れないと分かった猫キアラは強めなテレパシーを送る。
(うおっ、何だこれ! 頭がっ……! って君の仕業かい、セニョリータ?)
 茶トラ猫はびっくりしつつもキアラにテレパシーで切り返す。
(そっ、そうよ。それより触らないで! セクハラよ!)
 キアラはくねくねと全身をすりよせて嗅ぎまわる見知らぬトラ猫にテレパシーで切り返しつつ家に逃げ込もうとする。
(おっと、そんな冷たくするなよ美しきハニー! 君ここの子? それとも野良ちゃん?
 俺ここらで一番強い猫なんだぜ! すごいだろ、なっ?)
(関係ないでしょ! なれなれしくしないで!)
 キアラが振り払って逃げようとするのを察したトラ猫は素早く回り込んで道を塞ぐ。
「きああああ! きああああ!(あなた、まさか……発情期なの?)」
「ぶにゃあお!(イエス、オフコース!!)」
 目の前でにやつく雄猫の目的に気づいたキアラはどうにか守屋家に逃げ込もうとするが、じりじりと追い詰められていく。
「しゃああああ! きああああ!(来るな、この変態野郎!!)
「にゃおおおおん!(俺の可愛いセクシーハニー! 今、天国をあじわ……)」
「あらぁぁぁぁん!」
 発情したトラ猫がキアラに飛び掛かって目的を果たそうとしたその時、守谷家から駆けだしてきた小柄な黒猫が顔面にダッシュタックルを食らわせる。

「にゃああ? にゃああん?(キアラ! 怪我はないか!?)」
「きあっ、きあああん!(アラン様、ありがとうございます!)」
「しゃああああ……しゃぁぁぁあん?(ちびすけ、俺のスイートハ― 卜を奪うたぁいい度胸じゃねぇか? 死にてぇのかぁ?)」
 アランのモフモフタックルを食らってキアラを奪われたボス猫は守谷家に逃げ込むルートを塞ぎつつ、黒猫アランと白猫キアラに対峙する。
(キアラ、もうすぐミキさん達が帰ってくる! それまで逃げ切ろう!)
(わかりましたわ、アラン様!)
 2人は今の状況で出来る最善手を模索するが、 ミキさんに助けてもらうまで逃げ切るしか策は無さそうだ。
(ごちゃごちゃうるせえぞ、ちびすけえ! ぶっ殺してやるヒャッハ―アア!!)

「ぶにゃあああ……? にゃおおおおん?」
 キアラを狙うトラ猫ボスが邪魔なアランを猫ナックルの一撃で葬ろうしたその時……背後から聞こえた不機嫌な低い唸り声に動きが止まる。
(全く何かと思えば……いつぞやの泣き虫チビのデバガメじゃないか?)
(まっ、ママさん! どうしてここに!?)
 守谷家の廊下から庭に降り立ち、ゆっくりとした動きでこちらに向かってくるナベシマに3匹の猫は恐怖のあまり金縛りになる。
(さてはおめぇ……アタシの可愛いインマ達に手ぇ出そうとしたんだな? そうだな、この色狂い野郎?)
 ナベシマの低い声にトラ猫ボスは黙って頷く。
(てめぇは昔からそうだ……カワイイ娘がいりゃあ見境なく襲いやがって。アタシの至福のお昼寝タイムを妨害するたあいい度胸じゃねぇか? 死ぬ覚悟は出来てるんだろうなぁ? デバガメぇ?)
 可愛い舎弟インマ猫達との幸せなポカポカお昼寝タイムを最悪の形で妨害され、不機嫌女帝オーラを全身に纏うナベシマ。その圧倒的女帝オーラは彼女が虎の如く巨体化したかのような幻覚さえ見せる。
(ひっ……ひええええ!!)
 恐怖のあまり小さくなってうずくまっていたトラ猫ボスは生存本能を最大出力化。
 決死の覚悟でジャンプして守谷家の塀に飛び超えて駆け去っていく。
(ちっ、逃げられたか……キアラにアラン、怪我はないかい?)
 野良猫デバガメに粛清寸前で逃げられたナベシマは舌打ちをしつつ2匹の淫魔猫に向き直り、猫なで声で尋ねる。
(はい、大丈夫です……)
(そうか、そいつは何よりだ。そこを閉めて三度寝としゃれこもうじゃないか)
 聞かぬが仏、沈黙は金。ナベシマの後から守谷家内に戻ったアランとキアラは女帝に言われたとおりに廊下窓を閉め、ナベシマ姐さんと共に畳の間に置かれた座布団の上で丸くなるのであった。

【完】
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