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第四章:『突然変異!? 聖魔王子VS巨大軟体魔物・ギガントスライム!』

【第30話】

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「……いや、いいよ」
「えっ?」
「どうせこのクエスト自体もリィナちゃんと半魔族の事を調べるための口実であって大したモンじゃないから失敗報告した所で冒険者たるアタシやクランには影響ほぼゼロ。
 それに軟体魔物が超巨大化して上級金冒険者のアタシを丸呑み捕食したなんて与太話……証拠も出せないのに信じてもらえると思うかい?」
 中身を出しすぎて干からび死んだブラッディスライムの残骸を見やりつつため息をつくギルティ。
「それもそうね、比較的頑丈なスライムコアはさておきあの巨体を持ち帰るのは無理だわ」
「でしょ? リーダーや周りにはアタシからうまいとこ言っておくからリィナちゃんは彼のパートナー冒険者として傍にいてあげた方がいい」
「分かったわ、ありがとう」
 旧友の真剣な目線に言わんとする事を察したリィナはそれに目を合わせつつ承諾するのであった。

 ……それから数日後、朝の冒険者ギルドハルメン支部。
「ようやく終わったわね……」
「そうですね……」
 ブラッデイスライムとギルテイの件で数日間に及ぶ大変な事後処理を終え、ようやく体む事が出来たローランとリィナは疲れ切った表情でギルドロビーにある冒険者食堂でため息をつく。
 
 討伐採取クエストの際にブラッデイスライムに丸呑みにされた際にビキニアーマーー式と武器を食い奪われて大自然の中で全裸にされてしまったギルティ。
 彫像の如き美しい筋肉美女とここが人里離れた森である事はさておき、一糸まとわぬこの姿では馬車や人間の行きかう平原や街道に出て町に帰る事は不可能なのは火を見るよりも明らか。
 
 軽装なリィナはもちろん『無限収納の奇跡』に大量の冒険者物資を入れているローランでさえも彼女の巨躯に収まる衣服を持っているわけがなく、最低限文明人として隠すべき場所に葉っぱを貼った原始人スタイルでの帰還も覚悟する事態となったが……たまたまローランが収納していた長い細布を見たギルティがそれを胸帯&ふんどし下着として用いる事を提案し解決。
 町に入る際に裸族ゴリラ女の盗賊一味が白昼堂々現れたと勘違いした町の衛兵と多少のトラブルはあったものの『元冒険者ギルドの支部長秘書官』のリィナの信用力で事なきを得たのである。
 
 ブラッディスライムの件は体内から魔石が発見できなかったが故に証拠の無い謎現象レベルでの報告とならぎるをえなかったが、平和な東の森でそのような事が起こったと聞かされたコルトーネギルド長
 冒険者ギルドとして現段階では無用な不安を煽らないために公表はしないが今後はハルメン東の森のスライムネストの調査と定期討伐のクエスト頻度を上げつつ再度確認でき次第公表する事を決定。
 クエストを放棄してまでハルメン支部所属の下級銅冒険者2人を守り、装備を溶かされて武器を壊されようとも裸一貫で未知の魔物に向かっていきぶっ倒した上級金冒険者ギルティの無事と武勇を讃えたのであった。

 最後まで巨乳筋肉女・ギルティの裸ネタになってしまうが、ローランの帯布で作って着用中の胸帯&ふんどしと言う簡易服以外の衣服を持ってこなかったギルティ。
 冒険者として王都内を闊歩する事を許されたビキニアーマー装備ではないそれで王都まで戻るわけにもいかないギルティはやむを得ずハルメンの町にある服屋に頼んで採寸してもらいスーパーラージサイズ服を注文。
 出来上がって王都への帰途につく二日間のお相手をする事になったリィナとローランは酒豪の彼女と交代で対応したものの、2人とも頭痛とゲログロの二日酔いになってしまったのであった。

「リィナさんにローランさん、お待たせしました!! 冒険者の朝食セットです!!」
 ……そんな前述の事情を知る冒険者食堂ウエイトレスのシェリーはあのゴリラ女の酒宴から生還して一日ぶりに食堂へ降りて来た2人の前にバタ付きパンとちょっとした肉とチーズ、温かいお茶を乗せたお盆を置く。
「ありがとう、シェリーさん」
「いつもありがとう」
「どういたしまして、ローランさん、良い一日を!!」
 銀髪のイケメンとクールなお姉さまに感謝されたウエイトレスのシェリーはキャー!!と黄色い声を上げたくなる衝動を抑えて一礼しつつ仕事に戻る。

「あの、リィナさん……今後もああいう人達が来る可能性はあるんでしょうか?」
 おばあさまの故郷たるこの世界の王都なる場所や冒険者クランと言うグループの概念はさておき、今回の件が少しトラウマ気味のローランは目の前で温かいお茶を飲むリィナ先輩に聞いてみる。
「さあどうだかねえ……このイノメ王国の王家公認クランは現状『狂戦士』以外1つだけだからギルティの対応いかんでは大丈夫だと思うけど。スパイ行為のリスクを冒してでも他の国の連中が来る可能性も否定は出来ないしねぇ……」
「1つだけ? 他の国?」
「ええ、王家公認クランは国家正規軍とは別でその国の財力と有事対応力を示す指標。
 ヴォロウ軍王帝国は特例としてもこの大陸にある三大王国たるイノメ王国、シィカー王国、バターチョ王国は王家関係者やそれに準ずる人物をクランリーダーと任命して全国組織たる冒険者ギルドとは別で名高い戦士を登用した王家公認クランをいくつか設立しているの」
 フォークに刺した肉を口に入れつつ世界観説明を続けるリィナ。
「男子禁制のアマゾネスや機械兵器のギーク、魔獣使いのビースト……まあ色々あるのよ」
「へえ、そうなんですね……」
 聖魔王子として生きて来た故郷でも様々な種族と勢力がいて一枚岩では無かったが、このおばあさまの故郷もそれと同じかそれ以上に一枚岩では無さそうだ。
 それにランベルト伯爵さまの友人の捜索におばあさまや家族の待つ異世界に帰る手段を探すのも忘れてはならない……ローランはこれからやるべき事を整理しつつチーズの旨味を噛み締める。
「さて、しばらく休んじゃったし今日こそは冒険者らしくクエストに挑まないとね!! 行きましょう、ローランさん」
「はい、 リィナさん!!」
 朝食の締めに温かいお茶を飲み終えた2人は同フロアに設けられたクエストボードに向かい、いいクエストが無いか探すのであった。

【第5章に続く】
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