池尻産婦人科

ユヅキ

文字の大きさ
上 下
10 / 13
十一話

反抗

しおりを挟む
そしてついに紗香は今までずっと隠していた苦悩をぶつける事に。『どうしたの紗香。急に私らの前にきて。』
『ねぇ••どうして私はこんな家に生まれたの?』
驚いた真由子は思わず口を開く。『いきなりどうした。』『なんでこんな寂しい思いを小さい頃からしなけりゃいけなかったの?』 私なんか小さい頃家族との良い思い出なんてひとつもない!お母さんも裕樹も亡くなって私、どれだけ寂しくて辛い思いを何回させるの?お父さんは私をおばさんをお母さんって呼んでるけど、私からみれば親じゃない。親戚同士の同居じゃない!
実年齢よりも若く見られるのがこんなにも辛いのか知らないのに••どうして?
こんな不幸な家••生まれるんじゃなかった。』
『紗香!』
岡本は彼女の方に来た。
『紗香。よく聞いてくれ。確かにお前は小さい頃お母さんと裕樹を亡くした。寂しい気持ちをしたのもわかる。でもそれは、お前に寂しい思いをさせたくないと思っておばさんを母親代わりに正式に家族になったんだ。
だからこの事は分かってほしい。な?』
『ほら、お父さんだって嘘ついてるじゃん。
やっぱりうちは嘘つき一家なんだ。こんな家に生まれるんじゃなかった。何が人間だ••何が生きるなの••?こんな私や周囲に対して嘘つかれるのが一番嫌!』すると紗香はカバンを取り出した。
『おい、何処行く?』『ほっといて。もうほっといてよ!もうこんな家には居たくない!』『紗香!』
彼女は家出してしまった••行き先のわからないまま••
その夜亜矢の家に一本の電話が。『もしもし。』『もしもし亜矢さん。うちの紗香こっちに来てない?』『着てないですけど••どうかしたんですか?』それは、紗香が行方不明になったという電話だった。『お母さん、ちょっと行ってくる。』『気をつけてね。』聞いた亜矢はすぐに佐久間•橘•そして警察を呼び捜索が始まった。
亜矢達は普段彼女が出入りしている施設の情報を入手し、周辺で捜索する事に。彼女の声が一斉に広がった。彼女を呼ぶ声がまた広がった。いつも紗香と遊んでいる友達に聞く事にした。
『あ~紗香ならいつも、帰り際よく駄菓子屋に世ぢでるのを見た事があるけど。』『本当?ありがとう。』真由子の情報収集が役に立った。数時間が経ち、一本の電話が。『もしもし••』それは通っている駄菓子屋の店主からの電話だった。『えっ!?そこにいる?』驚きを隠せなかった。
一方、駄菓子屋では店長のスミ子が優しく見守っていた。『おばあちゃん、私家族って本当に分からなくて••』『そう••あなたの心は本当に寂しそうだもの。作ってあげた角煮美味しかった?』『うん。おばあちゃんが家族だったら良いな••そしたら毎日笑って過ごせるもん!寂しい思いなんかしなくても良い!』和やかで静かな時間が流れた。
そこへ••
『紗香!』彼女を呼ぶ声が聞こえた。『えっ••?』
彼女の前の扉が開いた。そこには岡本と真由子の姿だった。驚きを隠せない彼女。『何でここにいるの••?』再び不機嫌そうな顔をし始めた。『お前を心配してずっと探していたからだ。』『皆あなたの事を探してたのよ。』二人は叱る様子もなく言葉を投げた。しかし彼女はまだ信じられなかった。『どうせ私に嘘つくくせに••!』すると岡本は全ての思いを紗香に伝えた。『お前を心配するのは••お前を愛しているから。』『えっ••』『今までお前は本当に寂しい思いを沢山させてしまった。家族との時間を取ろうとしてもなかなか取れなかったり••本当に申し訳ないと思う。でも、お父さんは紗香を見捨ててなんか無い。おばさんもお前に一生懸命愛情を注ごうとして、頑張ってきたんだ。だから今心配しているのは••お前も大切な家族だから。』その言葉を聞いた瞬間、目から涙が溢れてきた。
そして岡本と真由子の元へ駆け寄った。
『ごめんなさい••ごめんなさい••!』
『良いんだ。お前には罪はない。』
『おばさんも紗香の事が大好き。』家族と言う言葉に紗香は涙が溢れるほど嬉しかった。
『良かった。無事に見つかって。』
『紗香ちゃんも素直になれて良かった。』
亜矢と佐久間はホッとした表情で言った。
こうして岡本家は再び家族として再スタートする事にした。
しおりを挟む

処理中です...