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序章 初会

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「ごめんなさい。僕、そんなに持ってません」
俯きながらぼそぼそと答える。

「あぁ? なんだって? よく聞こえないんだけどっ」
ぼすっと鈍い音を立てて鳩尾に先輩の拳が直撃する。

「うぐっ・・・・・・」
僕は殴られた衝撃で2月末の冷たい地面に膝をついた。

先輩たちは僕がΩであることは知らないから意図してやっているわけではないだろうが、Ωの扱いとしては間違っていない。
理解も納得もしているからそれをどうこうは思わないけど、だからと言って別に誰彼構わず殴られるのが好きなわけじゃない。
殴られれば普通に痛いし、嫌だなとも逃げ出したいなとも思う。

その代わり、殴るだけじゃすまない日もある。
幸い先輩たちは薬を使うことはなかったから、Ωだとバレることもなかった。
それに向こうも面倒ごとは避けたかったのか、中に直接出されることもなかった。

そういう日は大概どこか建物に連れ込まれるから、今日はもう数回殴られれば先輩たちも帰っていくだろう。
そんなことをのんきに考えてる時だった。

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