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絡まる糸
しおりを挟む高校2年の3月のことだった。
学年末テストも終わり、春休み直前のある日の出来事。
この時期といえば、受験期を目前にして進路指導が始まったり、生徒間でも受験や就職など卒業後の進路が多く話題になっている。
この鷺盛高等学校でも進路調査票が配られてからというもの、昼休みや放課後に生徒が呼び出される度にみんなこの話題を口にしていた。
今日もまた昼休み、幼なじみ4人が進路の話をしていた。
「大和、進路調査票まだ出してないらしいな。流石にもう出さないといけないだろ」
最初に口を開いたのは雨宮 陽向。品行方正、文武両道とはこの男のためにあるような言葉で、現在の生徒会長でもある。
4人の中では一番のしっかりものということから、兄のような立ち位置だ。
お昼はこうして隣の教室まで来て4人で過ごすことが多い。
「んぁ~、そうだった。まだ出してないのオレだけって言われてたんだ」
指摘されてもなお呑気にパンを齧っているのは、榊原 大和。クラスにいればムードメーカー、体育祭が大好きで、未だに童心を持ち続けている。
勉強は得意ではなく、赤点さえ取らなければ大丈夫精神でいつも乗り越えている。
背が高くないことも相まって、4人の中では末っ子的な扱いをされることも多い。
「そういえばみんな進路どうするんだ?」
弁当も一足先に食べ終わって足を組みながらマイペースに会話に混ざってくるのは、瀬凪 湊。着崩した制服やピアス、うっすら茶色く染めた髪など、4人の中では一番チャラい。だがそんな見た目とは異なりマイペースなその性格も相まって、大和と同じく友達が多くよくいじられている。
陽向同様、お昼はこの教室まで3人に会いに来ている。
「え、みんなで大学行くんじゃないの⁉︎」
黒いストレートロングを指で遊ばせながら話を聞いていた安斎 胡乃華は紅一点である。
周りが男だらけな環境で育ったことから気の強いボーイッシュな性格だが、女子の友達が多く男子にもその美貌から言い寄られることも多い。
ただ一向に彼氏を作らないことから、陽向たち3人に告白されてるとかいないとか、実はその中に本命がいるとかいないとか、いろんな噂がある。
本人的には今の関係を壊したくない、とのことらしい。
「まあ中高じゃあるまいし、このままみんな一緒ってわけにはいかないだろうな」
「オレは就職にしようかなって思ってるし」
「確かに大和の学力じゃ大した大学いけないだろうしね。俺は短大かな」
「そっか、みんな結構ちゃんといろんなこと考えてるのね」
胡乃華はみんなに言ってる通り今のこの関係が大好きだった。
だからこれからもずっと一緒にこのままいられるものだと、なんの疑問もなく当たり前のように思っていた。
それがまさかそうじゃない可能性があることにショックを覚え、それでも持ち前の強さでその動揺を隠していた。
そんな時、窓際を一人の女子生徒が通りがかった。
「あ、彩花ちゃん。彩花ちゃんもこれから進路室?」
「瀬凪くん。はい、先生が色々調べてくれたみたいなので」
彼女は湊と同じクラスの成峯 彩花。
内気でおとなしい性格故に人付き合いが苦手だが、湊と仲良くなってからは胡乃華や陽向たちとも話すようになった。
メガネをかけており根が優しく穏やかなので、男子たちの間で守ってあげたくなる隠れ美人と密かに噂になっていたりもする。
「成峯さんは進路、決まってるの?」
「はい、専門学校にしようかと」
「彩花ちゃんも別か。あ、呼び止めちゃってごめんね。また後でね」
「・・・・・・はい、また」
進路室に行く途中だったことに気づいた湊が話を終わらせると、彩花は軽く会釈をしてその場を立ち去った。
その様子に胡乃華が違和感を感じて首を傾げる。
「あれ、なんか元気なかった? どうしたのかしら」
「湊が余計なこと言うからだろ」
「えっ、俺なんか変なこと言ったかな」
陽向の指摘に心あたりが全くない湊は彩花が歩いて行った先に目を向けながら、またぼんやり幼なじみたちの会話に耳を傾けたのだった。
その日の放課後、いつものように帰り支度をしていると湊が今日は用事があるから先に帰っててくれ、と言いに来た。
「陽向も今日は生徒会があるから帰っててって言ってた」
「私もちょっと職員室寄らなきゃいけないから、大和先に行ってて」
「おっけー」
今までにもそれぞれに用事があったりとバラバラに帰ることもあったが、基本4人で行動することが多いからこんなにみんながバラバラになることは珍しい光景だった。
珍しく一人で歩いている大和や湊に友人たちが声をかけてくるのに応えながら、それぞれ目的地へ向かう。
「ん? あれ、大和じゃん。こんなところで何してんの。胡乃華と帰ったんじゃなかったんだ」
「え、湊? なんでお前が来るんだよ」
湊が目的地に着くとそこにはさっき途中で分かれたはずの大和が、それこそ誰かを待っているかのように佇んでいた。
「俺は彩花ちゃんに放課後体育館裏に来てくれって・・・・・・」
「ああ、あれじゃないか」
大和の問いに湊が答えるのを遮って、湊の後ろを指差した。
そこには体育館の影からこっそりこちらを覗いている彩花がいた。
「彩花ちゃ~ん」
湊が振り向いて声をかけると、おずおずといった様子で影から出てきた。
「・・・・・・あ、えっと、お、お待たせしました・・・・・・あの、なんで榊原くんまで」
「ああ、そうだ。なんでお前までこんなところにいるんだ?」
「オレは胡乃華が・・・・・・って、オレのことはいいんだよ。それよりお前らこそこんなところで何するつもりだったんだよ」
あからさまに動揺して話を逸らした大和を不自然には思いつつも、早速本題に入ろうと彩花に声をかける湊。
「彩花ちゃんが俺に大事な話があるって、何の話?」
「・・・・・・」
しかし彩花は彩花であたふたしていて湊の声は届いていない様だった。
「彩花ちゃん?」
「えっ、あ、はい、何の話でしたっけ」
「俺に大事な話って何?」
「あ、それですか。・・・・・・いえ、今日はやめておきます。すみません、わざわざ来てもらったのに」
「そう? 本当にいいの?」
「はい。大丈夫です。じゃあ私は帰るので」
湊の言葉に今度は彩花までも何かを隠すような含みを持たせた言い方をしたことに、自分が知らない何かがあるのかもしれないと、二人を見やる湊。
そんな湊の様子には気づかない彩花が一人で帰ろうとするのを、今までチラチラ携帯を見ていた大和が呼び止めた。
「あ、ちょっと待って。オレたちも帰るから、一緒に帰ろ」
「あれ、お前の用事はいいのか。それに胡乃華は?」
「オレの用事もなくなったから。それに胡乃華は急用が出来たから先に帰るって」
「そういうことなら、駅まで」
「うん、じゃあ帰ろっか」
この日の不可解な遭遇譚は、3人が帰ったところで何事もなく幕を閉じた。
だが、その次の日から彼ら5人の違和感満載な日常がはじまった。
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