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「お、お待たせいたしました。
 私どもの店のモノが何かご不都合でもございましたか?」

「そうだねえ、まず、この店員が勝手に私たちの事を夜会に訪れる人間と勘違いしたことだねえ。
 これが本当のお忍びの貴族だったらタダじゃあ済まないね。」

 もし、本当のお忍びの貴族が激昂したら、この店は潰れること間違いなしだろう。
 お抱え商人に近い貴族は居る。
 擁護してくれる保証は一切ない。
 なんせ客の個人情報を流すと宣言しているようなモノだからだ。
 むしろ立場が悪化しかねない。

 貴族はメンツの塊。
 外面は絶対に隙を与えてはいけない政治家。

 隙を与えれば他の政治家に叩かれ辞任を余儀なくされる。
 令和の日本の政治家と違うところは企業との癒着がバレても問題ないところ。
 血統書がそれをカバーしてくれる。
 そもそも平民は政治にかかわる権利がほとんどない。
 貴族を支援している商人たちが政治家に近い存在となるだろう。

 消費者、商人たちの顧客が商品を買うことで投票を行い、商人たちが貴族に支援する。
 政治家の意味合いでは商人たちが近いかもしれない。
 陰で操っているのは商人たちなのだから。

 トカゲのしっぽとして切れる。
 いくらでも変わりは作れる。

「そ、それは。」

「トカゲのしっぽ切りをしてもいいけれど、現場監督の責任者はあなたが最終的に追うことになる。
 もし、そんなことをすれば二度と人が雇えなくなるように私が動くがいいのかい?」

「あ、あなた様一体、どこの家のお方なのでしょうか。」

「貴族名鑑には載っていない家は一つしかないでしょう。
 増してやそこから完全に独立した人物はご存知で?
 あなたの所属している商業ギルドのマスターも存じておりますよ。
 なにせ私の店の常連ですからね。」

 他人に頼る間でもなく潰せるだけの財力と権力は持っている。
 その人物は思い浮かぶ限り1人だけ。

「王家の落ちこぼれ。」

「懐かしいねえ。
 その名も、今は昔。」

「失礼しました。
 今は王家の名君とも呼ばれているあなたがこんな小売店に来るとは思いもよりませんでしたよ。
 応接室で案内してもよろしいでしょうか。」
 
「構わないけど、君の教育が悪いことには変わりない。
 改革をするのなら雇用契約解除が手っ取り早いが教育を受けさせないことには根本的な解決にはならない。
 効率とは長い目で見る時と短い目で見るとで変わるものだ。
 私は短期的なのは許さないと言っているがねえ。」

「教育者と言われるあなた様に言われると耳が痛い限りでございます。」
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