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第一章
2話 簪
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それから輝夜は毎日店に来るようになった。
今日もまた、店の扉が開く。
「あー寒い寒い」
そう言いながら入って来たのはいつもの彼だ。
「おはよ凛月」
「おはよ」
そしていつもの席に座る。
もう言われずとも、酒を出すようになった。
「あ、そうだ凛月。こっち来て」
と、彼がこちらを向いて、手招きした。
私は彼の元へ行く。
「目、瞑って」
一瞬驚くが、言われるままに目を瞑る。
すると、髪を触る感覚がした。
──なんだろ?
「はい、いいよ」
目を開けると、彼が満足げに笑っている。
「やっぱり似合うな」
私を見るなり彼は言った。
髪飾り…?
そう思い髪に触れる。
「よく似合ってる」
そう言って千夜香さんが鏡を貸してくれた。
鏡を覗き込むと、私の髪に美しい簪が挿してあった。簪など生まれて初めて挿した私は少し戸惑った。
「これ…」
彼の方を振り返る。
「凛月に似合うと思ったから」
私に──?
よく状況が飲み込めず戸惑っていると、彼が笑って言った。
「あげる、それ」
私は聞き返す。
「え、いいの?」
そんな私の言葉に彼は言った。
「俺がいいって言ってんだから受け取れ」
「──ありがとう」
私は微笑んだ。
輝夜はその瞬間、息を呑んだ。
──狼狽えるほど、美しい。
彼女が初めて見せたその笑顔は、驚く程に美しかった。
「──お、おう」
彼が帰った後、千夜香さんが話しかけてきた。
「綺麗だねえ、その簪」
隣を見ると、千夜香さんが私の頭を見ている。
「そうですね」
でも、と私は続ける。
「何者なんですかね、あの人」
なにか仕事をしているようにも見えない。朝から酒を飲んで、普通の人ならそんなことじゃ食べていけない。
「んー、なんだろうね」
「ちょっと怪しくないですか?」
私は眉を顰めた。
「どうだろうね。でもいい人っぽいよ、顔も良いし」
そう言って千夜香さんは悪戯に笑った。
「たしかに」
私は頷く。
「まあ私は色恋なんて縁ないですから。男っぽいし」
私は顔の前で手を振った。
「またまた~。凛月ちゃんは可愛いよ!もっと自信持ちな」
千夜香さんが私の頬をつん、とつついてきた。
「んなことないですよ」
私は苦笑した。
夜になり今日も仕事を終えた。
部屋に戻り、なんとなく窓辺に座る。窓を開けると、きりっと冷たく澄んだ夜空に満月が出ていた。
闇を眩しいくらいに照らすその月をぼんやり眺めて、私は髪に触れる。
簪を抜いて、手のひらに乗せた。
月明かりに照らされて、その簪は金色に輝いた。少しの間、その美しい簪に見惚れていた。
今日もまた、店の扉が開く。
「あー寒い寒い」
そう言いながら入って来たのはいつもの彼だ。
「おはよ凛月」
「おはよ」
そしていつもの席に座る。
もう言われずとも、酒を出すようになった。
「あ、そうだ凛月。こっち来て」
と、彼がこちらを向いて、手招きした。
私は彼の元へ行く。
「目、瞑って」
一瞬驚くが、言われるままに目を瞑る。
すると、髪を触る感覚がした。
──なんだろ?
「はい、いいよ」
目を開けると、彼が満足げに笑っている。
「やっぱり似合うな」
私を見るなり彼は言った。
髪飾り…?
そう思い髪に触れる。
「よく似合ってる」
そう言って千夜香さんが鏡を貸してくれた。
鏡を覗き込むと、私の髪に美しい簪が挿してあった。簪など生まれて初めて挿した私は少し戸惑った。
「これ…」
彼の方を振り返る。
「凛月に似合うと思ったから」
私に──?
よく状況が飲み込めず戸惑っていると、彼が笑って言った。
「あげる、それ」
私は聞き返す。
「え、いいの?」
そんな私の言葉に彼は言った。
「俺がいいって言ってんだから受け取れ」
「──ありがとう」
私は微笑んだ。
輝夜はその瞬間、息を呑んだ。
──狼狽えるほど、美しい。
彼女が初めて見せたその笑顔は、驚く程に美しかった。
「──お、おう」
彼が帰った後、千夜香さんが話しかけてきた。
「綺麗だねえ、その簪」
隣を見ると、千夜香さんが私の頭を見ている。
「そうですね」
でも、と私は続ける。
「何者なんですかね、あの人」
なにか仕事をしているようにも見えない。朝から酒を飲んで、普通の人ならそんなことじゃ食べていけない。
「んー、なんだろうね」
「ちょっと怪しくないですか?」
私は眉を顰めた。
「どうだろうね。でもいい人っぽいよ、顔も良いし」
そう言って千夜香さんは悪戯に笑った。
「たしかに」
私は頷く。
「まあ私は色恋なんて縁ないですから。男っぽいし」
私は顔の前で手を振った。
「またまた~。凛月ちゃんは可愛いよ!もっと自信持ちな」
千夜香さんが私の頬をつん、とつついてきた。
「んなことないですよ」
私は苦笑した。
夜になり今日も仕事を終えた。
部屋に戻り、なんとなく窓辺に座る。窓を開けると、きりっと冷たく澄んだ夜空に満月が出ていた。
闇を眩しいくらいに照らすその月をぼんやり眺めて、私は髪に触れる。
簪を抜いて、手のひらに乗せた。
月明かりに照らされて、その簪は金色に輝いた。少しの間、その美しい簪に見惚れていた。
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