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第45話:静かなる対峙
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小林の言葉が生み出した微かな波紋は、部室全体に静かに広がっていた。その場の空気が一変し、張り詰めた緊張感と僅かなざわめきが入り混じる。結衣たちは言葉を失い、小林の意図を測りかねたまま動けずにいた。
その静寂を破るように、遠藤が冷静に口を開いた。
「小林君…本当にそう思ってるの?」その言葉には冷ややかさが含まれていたが、同時に意外そうな響きも混じっていた。小林は一瞬遠藤に視線を向けたが、すぐに机上の原稿に視線を落とした。
「ああ、思ってるよ。僕は、この作品が面白いと感じた。ただ、それだけだ」小林は簡潔に答える。その冷静な態度に、遠藤の目が僅かに細まった。
「そう。…でも、面白いだけじゃ読者の心には残らない。読んだ人が何かを感じ取れる作品でなければ、基準を満たしたとは言えないわ」遠藤の言葉はきっぱりとしており、彼女の揺るがない信念が感じられた。
小林はその言葉を聞き流すように軽く肩をすくめ、「基準っていうのは人それぞれだろ。僕は、この作品にはみんなが懸命に作り上げた温かさがある。それは、読者に伝わると思う」と静かに返す。
「感情論だけで作品を評価するつもり?」遠藤は冷静さを保ちながらも、その声には微かな苛立ちが滲んでいた。
「感情も作品の一部だと思うが。それに、結局読者が評価するのは、心に響くかどうかじゃないか?」小林の反論に、結衣たちも思わず頷きかける。しかし、遠藤は一歩も引かなかった。
「だったら、人気勝負で決めましょう」遠藤は結衣たちをじっと見据えた後、冷静に口を開いた。
その瞬間、部室内の空気が凍りついたようだった。結衣たちは驚きに目を見開き、小林ですらわずかに反応を止めた。
「私たちの作品と、あなたたちの作品。どちらが多くの人に支持されるかで、どちらが優れているかを決めましょう。それが一番公平だと思うけど?」遠藤の視線は鋭く、冷静な言葉の中に挑発的な響きが含まれていた。
「いいよ、受けて立つよ!」河西が震える手を握りしめながら力強く答えた。その背後で、平山と結衣も大きく頷き、意志を固めている様子だった。
遠藤はその様子をじっと見つめ、冷静な声で静かに告げた。「私たちの作品が勝つのは決まっているけどね」淡々とした口調の中に、揺るぎない自信が感じられるその言葉に、結衣たちは改めて胸の内を引き締めた。
結衣たちは原稿を抱え、部室を後にした。その顔には不安の影はなく、代わりに強い決意が浮かんでいた。遠藤の自信満々の態度に対抗するかのように、河西は背筋を伸ばして歩き出す。平山もその後を追い、結衣はぐっと唇を結んだまま二人に続いた。冷たい風が頬を打つ中でも、その瞳には揺るぎない気迫が宿っていた。
その背後では、島倉がふと立ち止まり、小林に軽く礼をした。小林はそれを特に気に留める様子もなく、視線を原稿に落としたままだった。そのやり取りは、まるで互いに言葉を交わす必要すらないような自然なものだった。それに気づいた者は、結衣たちを含め誰もいなかった。
部室を出た後、冷たい風が頬を刺す中、結衣たちは足早に帰路についた。しばらく無言の時間が続いたが、やがて河西がふっと口を開いた。「ほんっと、遠藤さんってプライド高すぎだよね!あの態度、腹が立つ!」
河西の言葉に、平山もすぐに同調した。「本当にそうだよね。あれだけ頑張ったのに、あんな言い方されるなんて……ひどすぎるよ。あれが共同制作なんて、納得いかない!」彼女たちの声には、悔しさと怒りが込められていた。
しかし、結衣は少し黙ったまま、ゆっくりとした歩調で考え込んでいた。冬の夕暮れに沈む街並みを眺めながら、どこか言葉を選んでいるようだった。そして、ふと足を止め、静かに顔を上げた。
「でも、小林さんのこと、どう思いますか?」その問いかけは、冬の冷たい空気の中で静かに響いた。河西と平山は一瞬顔を見合わせ、視線を結衣に戻した。
「確かに……あいつ、一番反対してたよね。なのに、急にああいうことを言うなんて……なんか引っかかるよね」河西が眉をひそめながら呟く。
「うん。もしかして、何か裏があるのかな?」平山も考え込むように首を傾げた。
その時、それまで一言も話さず後ろを歩いていた島倉が、静かに足を止め、目を伏せたまま口を開いた。
「小林さん、文庫愛好会のこと、ずっと気にしてたみたいですよ」島倉が静かに切り出した。その言葉に、結衣たちは思わず足を止めて振り返る。
「気にしてたって、どういうこと?」河西が眉をひそめる。
「遠藤さんのやり方を気にして、『もし手伝えることがあれば協力してほしい』って僕に頼んできたんです」島倉は少し肩をすくめながら視線を落とした。
「えっ、小林さんが?」平山が驚いたように問い返す。
「はい、僕はずいぶん小林さんに頼りっぱなしでした。アイデアの出し方とか、小説の構成のこととか、いろいろ教えてもらいました。文庫愛好会がちゃんとやれるように、ずっと考えてくれてたんだと思います」島倉はポケットに手を突っ込み、どこか遠くを見つめるように呟いた。
「えっ、小林さんが!?」結衣が思わず大きな声を上げた。その目には驚きと信じられないという表情が浮かんでいる。
「嘘でしょ……本当に小林さんがそんなことを?」平山も目を大きく見開き、言葉を詰まらせたように問い返す。
河西は目を見開いたまま、「そんな話、初耳なんだけど……」と呟く。
島倉は少し笑いながら、静かに話し始めた。「まあ、秘密にしてたんですけど。でも、途中から文庫愛好会の雰囲気がなんか心地よくなってきて、それで気づいたら普通にいろいろ手伝うようになってたんです。あの合宿でみんなと過ごしたことで、前より気楽に動けるようになったのかもしれないですね」
島倉の言葉に、結衣たちは互いに顔を見合わせた。しばらく沈黙が続き、冷たい風だけが周囲を吹き抜けていく。
「そんなの……全然知らなかった」結衣が小さく呟くと、その声は風にかき消されそうなほど弱々しかった。
「でも、それを聞いても、まだ納得できないな」河西が腕を組みながら、少し不満そうに顔をしかめた。「本当に心配してたんなら、最初から協力してくれればよかったのに」
「それは確かにそうかもしれないけど、小林さんにも小林さんなりのプライドがあったんだと思います」島倉が穏やかに答えた。その口調には、小林への信頼がにじんでいた。
結衣は原稿を握りしめながら、島倉の言葉を反芻していた。小林が本当に文庫愛好会のことを心配してくれているのだとしたら――なぜ、もっと早くその気持ちを伝えてくれなかったのだろうか。もどかしさと疑問が入り混じる中、小さく呟く。「……小林さん、どうして?」
その時、不意に背後から声が聞こえた。
「僕の話をしてたのかな?」
振り返ると、小林が歩いてくるのが見えた。偶然通りかかったのだろうか、肩に鞄をかけた整った姿勢のまま、こちらに目を向けている。その表情には、冷静さと少しの鋭さが混じっていた。
その姿に河西が軽くため息をつきながら言った。「えっ、また帰り道で会うなんてね……なんかタイミング良すぎじゃない?」
小林は肩をすくめながら、「偶然だよ。そんなに驚くことでもないだろ?」と軽く笑った。
結衣はそのまま一歩前に出て、小林をじっと見つめながら問いかけた。「小林さん、私たちの作品を面白いって、本当に本気だったんですか?どういうつもりなんですか?」
小林は一瞬目を丸くした後、少し肩をすくめて視線を逸らした。「いや、別に深い意味はないよ。ただ、読んでそう感じたから言っただけだ。それ以上のことは……ないさ」と、どこか言葉を濁すように答えた。
「でも……」結衣がさらに言葉を続けようとしたその時、小林は時計をちらりと見て、歩き出しながら言った。「それじゃ、またな。島倉、行こうか」
「はい!」島倉が軽く頷き、小林に追いつくように歩き出した。その声には迷いのない落ち着きがあった。振り返ることなく二人が並んで歩いていく姿に、結衣たちはしばらくその背中を見つめていた。
やがて河西が肩をすくめながら軽く笑った。「ねえ、本当に島倉君の言ってたこと、信じていいのかな?」
平山は少し首を傾げて、「でもさ、なんかあの二人の感じ見てると、本当っぽくない?」と、少しおどけた口調で言った。
結衣はふっと笑いながら二人の背中を見つめた。「はい……でも、小林さんがそんなことしてたなんて、ちょっと予想外でしたね」
やがて河西が肩をすくめるようにため息をつき、小さな声で言った。「……でも、小林さんがそんなことしてたなんて、正直、まだ信じられないな」
その言葉の後、一瞬だけ沈黙が流れたが、河西はすぐに顔を上げ、拳を握りしめた。「でも、それならなおさら負けられない!とにかく、あの勝負に絶対勝とう!遠藤たちに文庫愛好会の実力を見せつけてやるんだから!」
その言葉に、平山も笑顔で応える。「うん、私たちが一緒に頑張って作ったんだもん。きっと大丈夫!」
結衣も頷きながら、ぎゅっと原稿を抱きしめた。「そうですね。私たちの物語、絶対に届けましょう。みんなの想いが詰まったこの作品なら勝てますよ!」
三人は冬の冷たい風の中でも前を向き、それぞれの瞳に決意の光を宿していた。歩く足取りも自然と力強くなり、夜の街に三人の気合いが満ちていくようだった。
数日後、新学期が始まり、いよいよ勝負の日がやってきた。教室には冬の名残を感じさせるひんやりとした空気が漂いながらも、窓から差し込む光が少しずつ近づく春の気配を告げている。その光景は、新たな始まりへの期待と緊張感を静かに彩っていた。
放課後、結衣は教室の隅に積まれた自分たちの小説の束をじっと見つめていた。表紙に触れる指先が少し震え、胸の中で様々な思いが交錯する。期待と不安が入り混じり、言葉にならない感情が込み上げてきた。
全員で力を合わせて完成させたこの物語が、本当に誰かに届くだろうか。考えれば考えるほど、心がざわつく。けれど、その不安を押し込めるように、大きく息を吸い込む。
原稿を抱え直しながら、これまでの努力の日々を思い返す。自分たちの全力を込めた物語であることに間違いはない。そう思うと、胸の奥に少しだけ確かな自信が芽生えた。
結衣は軽く頷き、原稿をしっかりと抱きしめた。その瞳には、前を見据える静かな決意の光が宿っていた。
その静寂を破るように、遠藤が冷静に口を開いた。
「小林君…本当にそう思ってるの?」その言葉には冷ややかさが含まれていたが、同時に意外そうな響きも混じっていた。小林は一瞬遠藤に視線を向けたが、すぐに机上の原稿に視線を落とした。
「ああ、思ってるよ。僕は、この作品が面白いと感じた。ただ、それだけだ」小林は簡潔に答える。その冷静な態度に、遠藤の目が僅かに細まった。
「そう。…でも、面白いだけじゃ読者の心には残らない。読んだ人が何かを感じ取れる作品でなければ、基準を満たしたとは言えないわ」遠藤の言葉はきっぱりとしており、彼女の揺るがない信念が感じられた。
小林はその言葉を聞き流すように軽く肩をすくめ、「基準っていうのは人それぞれだろ。僕は、この作品にはみんなが懸命に作り上げた温かさがある。それは、読者に伝わると思う」と静かに返す。
「感情論だけで作品を評価するつもり?」遠藤は冷静さを保ちながらも、その声には微かな苛立ちが滲んでいた。
「感情も作品の一部だと思うが。それに、結局読者が評価するのは、心に響くかどうかじゃないか?」小林の反論に、結衣たちも思わず頷きかける。しかし、遠藤は一歩も引かなかった。
「だったら、人気勝負で決めましょう」遠藤は結衣たちをじっと見据えた後、冷静に口を開いた。
その瞬間、部室内の空気が凍りついたようだった。結衣たちは驚きに目を見開き、小林ですらわずかに反応を止めた。
「私たちの作品と、あなたたちの作品。どちらが多くの人に支持されるかで、どちらが優れているかを決めましょう。それが一番公平だと思うけど?」遠藤の視線は鋭く、冷静な言葉の中に挑発的な響きが含まれていた。
「いいよ、受けて立つよ!」河西が震える手を握りしめながら力強く答えた。その背後で、平山と結衣も大きく頷き、意志を固めている様子だった。
遠藤はその様子をじっと見つめ、冷静な声で静かに告げた。「私たちの作品が勝つのは決まっているけどね」淡々とした口調の中に、揺るぎない自信が感じられるその言葉に、結衣たちは改めて胸の内を引き締めた。
結衣たちは原稿を抱え、部室を後にした。その顔には不安の影はなく、代わりに強い決意が浮かんでいた。遠藤の自信満々の態度に対抗するかのように、河西は背筋を伸ばして歩き出す。平山もその後を追い、結衣はぐっと唇を結んだまま二人に続いた。冷たい風が頬を打つ中でも、その瞳には揺るぎない気迫が宿っていた。
その背後では、島倉がふと立ち止まり、小林に軽く礼をした。小林はそれを特に気に留める様子もなく、視線を原稿に落としたままだった。そのやり取りは、まるで互いに言葉を交わす必要すらないような自然なものだった。それに気づいた者は、結衣たちを含め誰もいなかった。
部室を出た後、冷たい風が頬を刺す中、結衣たちは足早に帰路についた。しばらく無言の時間が続いたが、やがて河西がふっと口を開いた。「ほんっと、遠藤さんってプライド高すぎだよね!あの態度、腹が立つ!」
河西の言葉に、平山もすぐに同調した。「本当にそうだよね。あれだけ頑張ったのに、あんな言い方されるなんて……ひどすぎるよ。あれが共同制作なんて、納得いかない!」彼女たちの声には、悔しさと怒りが込められていた。
しかし、結衣は少し黙ったまま、ゆっくりとした歩調で考え込んでいた。冬の夕暮れに沈む街並みを眺めながら、どこか言葉を選んでいるようだった。そして、ふと足を止め、静かに顔を上げた。
「でも、小林さんのこと、どう思いますか?」その問いかけは、冬の冷たい空気の中で静かに響いた。河西と平山は一瞬顔を見合わせ、視線を結衣に戻した。
「確かに……あいつ、一番反対してたよね。なのに、急にああいうことを言うなんて……なんか引っかかるよね」河西が眉をひそめながら呟く。
「うん。もしかして、何か裏があるのかな?」平山も考え込むように首を傾げた。
その時、それまで一言も話さず後ろを歩いていた島倉が、静かに足を止め、目を伏せたまま口を開いた。
「小林さん、文庫愛好会のこと、ずっと気にしてたみたいですよ」島倉が静かに切り出した。その言葉に、結衣たちは思わず足を止めて振り返る。
「気にしてたって、どういうこと?」河西が眉をひそめる。
「遠藤さんのやり方を気にして、『もし手伝えることがあれば協力してほしい』って僕に頼んできたんです」島倉は少し肩をすくめながら視線を落とした。
「えっ、小林さんが?」平山が驚いたように問い返す。
「はい、僕はずいぶん小林さんに頼りっぱなしでした。アイデアの出し方とか、小説の構成のこととか、いろいろ教えてもらいました。文庫愛好会がちゃんとやれるように、ずっと考えてくれてたんだと思います」島倉はポケットに手を突っ込み、どこか遠くを見つめるように呟いた。
「えっ、小林さんが!?」結衣が思わず大きな声を上げた。その目には驚きと信じられないという表情が浮かんでいる。
「嘘でしょ……本当に小林さんがそんなことを?」平山も目を大きく見開き、言葉を詰まらせたように問い返す。
河西は目を見開いたまま、「そんな話、初耳なんだけど……」と呟く。
島倉は少し笑いながら、静かに話し始めた。「まあ、秘密にしてたんですけど。でも、途中から文庫愛好会の雰囲気がなんか心地よくなってきて、それで気づいたら普通にいろいろ手伝うようになってたんです。あの合宿でみんなと過ごしたことで、前より気楽に動けるようになったのかもしれないですね」
島倉の言葉に、結衣たちは互いに顔を見合わせた。しばらく沈黙が続き、冷たい風だけが周囲を吹き抜けていく。
「そんなの……全然知らなかった」結衣が小さく呟くと、その声は風にかき消されそうなほど弱々しかった。
「でも、それを聞いても、まだ納得できないな」河西が腕を組みながら、少し不満そうに顔をしかめた。「本当に心配してたんなら、最初から協力してくれればよかったのに」
「それは確かにそうかもしれないけど、小林さんにも小林さんなりのプライドがあったんだと思います」島倉が穏やかに答えた。その口調には、小林への信頼がにじんでいた。
結衣は原稿を握りしめながら、島倉の言葉を反芻していた。小林が本当に文庫愛好会のことを心配してくれているのだとしたら――なぜ、もっと早くその気持ちを伝えてくれなかったのだろうか。もどかしさと疑問が入り混じる中、小さく呟く。「……小林さん、どうして?」
その時、不意に背後から声が聞こえた。
「僕の話をしてたのかな?」
振り返ると、小林が歩いてくるのが見えた。偶然通りかかったのだろうか、肩に鞄をかけた整った姿勢のまま、こちらに目を向けている。その表情には、冷静さと少しの鋭さが混じっていた。
その姿に河西が軽くため息をつきながら言った。「えっ、また帰り道で会うなんてね……なんかタイミング良すぎじゃない?」
小林は肩をすくめながら、「偶然だよ。そんなに驚くことでもないだろ?」と軽く笑った。
結衣はそのまま一歩前に出て、小林をじっと見つめながら問いかけた。「小林さん、私たちの作品を面白いって、本当に本気だったんですか?どういうつもりなんですか?」
小林は一瞬目を丸くした後、少し肩をすくめて視線を逸らした。「いや、別に深い意味はないよ。ただ、読んでそう感じたから言っただけだ。それ以上のことは……ないさ」と、どこか言葉を濁すように答えた。
「でも……」結衣がさらに言葉を続けようとしたその時、小林は時計をちらりと見て、歩き出しながら言った。「それじゃ、またな。島倉、行こうか」
「はい!」島倉が軽く頷き、小林に追いつくように歩き出した。その声には迷いのない落ち着きがあった。振り返ることなく二人が並んで歩いていく姿に、結衣たちはしばらくその背中を見つめていた。
やがて河西が肩をすくめながら軽く笑った。「ねえ、本当に島倉君の言ってたこと、信じていいのかな?」
平山は少し首を傾げて、「でもさ、なんかあの二人の感じ見てると、本当っぽくない?」と、少しおどけた口調で言った。
結衣はふっと笑いながら二人の背中を見つめた。「はい……でも、小林さんがそんなことしてたなんて、ちょっと予想外でしたね」
やがて河西が肩をすくめるようにため息をつき、小さな声で言った。「……でも、小林さんがそんなことしてたなんて、正直、まだ信じられないな」
その言葉の後、一瞬だけ沈黙が流れたが、河西はすぐに顔を上げ、拳を握りしめた。「でも、それならなおさら負けられない!とにかく、あの勝負に絶対勝とう!遠藤たちに文庫愛好会の実力を見せつけてやるんだから!」
その言葉に、平山も笑顔で応える。「うん、私たちが一緒に頑張って作ったんだもん。きっと大丈夫!」
結衣も頷きながら、ぎゅっと原稿を抱きしめた。「そうですね。私たちの物語、絶対に届けましょう。みんなの想いが詰まったこの作品なら勝てますよ!」
三人は冬の冷たい風の中でも前を向き、それぞれの瞳に決意の光を宿していた。歩く足取りも自然と力強くなり、夜の街に三人の気合いが満ちていくようだった。
数日後、新学期が始まり、いよいよ勝負の日がやってきた。教室には冬の名残を感じさせるひんやりとした空気が漂いながらも、窓から差し込む光が少しずつ近づく春の気配を告げている。その光景は、新たな始まりへの期待と緊張感を静かに彩っていた。
放課後、結衣は教室の隅に積まれた自分たちの小説の束をじっと見つめていた。表紙に触れる指先が少し震え、胸の中で様々な思いが交錯する。期待と不安が入り混じり、言葉にならない感情が込み上げてきた。
全員で力を合わせて完成させたこの物語が、本当に誰かに届くだろうか。考えれば考えるほど、心がざわつく。けれど、その不安を押し込めるように、大きく息を吸い込む。
原稿を抱え直しながら、これまでの努力の日々を思い返す。自分たちの全力を込めた物語であることに間違いはない。そう思うと、胸の奥に少しだけ確かな自信が芽生えた。
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