重なる世界の物語

えんとま

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初めての依頼

才能開花

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『クライン君!何かおかしい!』

思わず体が跳ねる。いきなり聞こえてた声に驚くクライン。

「キース?どうしたんですか!?」

何やら様子が変だ。何かあったのだろうか。

『グルーとの共有が解けたんだ、おそらく何かにグルーはやられてしまった!周りを確認して見てくれな「キュオォオオォォォオ!』

キースが最後に何を言っていたのか、クラインには聞き取ることができなかった。辺りをつんざく鋭い咆哮が近づいてくる。

まずい!何か来る!!

とっさに思い切り横に飛び地面に伏せる。体の上を巨大な何かが通り抜けて行った。

ばっと顔を上げるクライン。そこには見たこともない生物が地に降り立つところだった。

『無事かクライン君!何があった!』

声を潜めてクラインは答える。

「キース…僕の目の前には巨大な魔物がいます。まるでワシのような顔に翼、ですが四足歩行です。馬…いや、あれは獅子の体か?」

『!?まずい、“グリフォン”だ!合成キメラ種だよ!一人で相手をする魔物じゃない!』

合成キメラ種だって!?Bランクの魔物じゃないか!

『すぐに向かう、なんとか堪えてくれ!』

・・・・・・・・
・・・・・
・・・


くそ!グリフォンがなんでこんなところに!完全に想定外の事態だ。

キースは装飾の施された杖を取りだす。

ᛗᚨᚾᚨ ᛋᛖᚨᚱᚲᚺ魔術探知

薄く魔力の波を広げていく。
ここから5kmほど先にクラインの魔力を感じた。

あそこか、まずいな、思いのほか距離がある!馬じゃ間に合わないな。

ᛋᚨᛗᛟᚾᚾサモン!」

地面に黒い影がぐるぐると渦巻き形を成していく。やがて馬ほどの大きな狼のような姿となった。

キースはその使い魔に飛び乗り、狼を走らせる。

クライン君、無事でいてくれ!

・・・・・・・・
・・・・・
・・・


バクバクと心臓が脈打つのを感じる。
目の前のそれは“死”そのものだ。これほどまでに死を身近に感じたことはない。

動かなくては…動かなくてはやられるだけだ!

だがクラインの足は動かない。まるで縫い付けられているようだ。

目の前のグリフォンは姿勢を低くする。

まずい!こちらに来る!

強靭な後ろ足を蹴り上げてグリフォンはクラインめがけて飛び上がる。

意識的に動かしたわけではない、ほぼ反射的に動いた足のおかげでかろうじて避ける!

「うぉおぉお!」

ブワァと体に風圧を感じる。想像以上の衝撃に数m吹き飛ばされる。

ズザァァアアァ
野に投げ出される。

「熱っ!?」

腕に熱を感じる。見るとかなり深い傷だ。どうやら避けたと思っていたが前足の鋭い爪でえぐられてしまったようだ。

ジンジンと痛みが広がっている。傷口がすごく熱い。
なんだろう、意識までクラクラしてきた…。グリフォンは…奴はどこへ

その時、クラインの周りに影ができる。
それはだんだん大きくなっていく。

まずい!上だ!

急いでゲートから槍を取り出し構えるが、少し遅かった。

「ぐっ!?」

グリフォンの勢いの乗った突進が炸裂する。鈍いドッという衝撃とともに吹き飛ばされ、もはや声すら出ない。

手も足も出ない。飛ばされながらクラインの中を巡っているのは絶望でも恐怖でもない。だった。

ここで、死んでしまうのだろうか。やはり僕なんかが田舎から出てくるべきではなかった。大都市アスクラン、そして猟犬の牙ファウンドファング、遥か高い壁だった。

猟犬の牙ハウンドファングにきて、アリスと戦って、ギルドに加入して、僕は壁を乗り越えてきた、そうでなくてもしがみついて、上り詰めていたと思い込んでいたんだ。

実際は違う。猟犬の牙ハウンドファングのみんなは桁違いに強い人ばかりで、僕の居ていい場所じゃなかった。田舎から出てくるべきではなかったのだ…。

クラインは地面に叩きつけられる。ぼやけるの視界の中、グリフォンがこちらに向き直るのが見える。それともう一つ、懐から転がってくる瓶がうっすらと見える。

あれは…
ディジーからもらったハイポーションだ。

よしてくれ、僕にもう立ち上がる気力はないんだ。

たまらず目を閉じる。暗闇の中、死んでしまったらどうなるのだろうかと考えるクライン。

ふと、つい数日前のことが思い起こされる。これは走馬灯という奴だろうか。

アスクランに来る途中にダンとあって、猟犬の牙ハウンドファングの扉をくぐり、アリスとの模擬戦を勝ち抜いたこと。

あの時は嬉しかった。僕は認められたのだと、自分の力で一歩目的へ前進したのだと、そう思った。

あの時決意したのだ。このギルドの中で、何があっても自身を曲げず目的のため前進すると。


…あれ?おかしくないか?

今のザマを見てみろ、地面にへばりついて、ハイポーション生き抜く可能性も捨て去って絶望に身を浸しているじゃないか。

あの時の決意ってなんだったんだ?アリスに勝って気分が高揚していただけか?僕の決意ってのはその程度だったのか。

いや、違う…。
違うだろ!

死んだらそこで終わりだ。生きるすべがあるならしがみつけ!僕はこんなところで終わるわけにはいかない、これまでこの魂を受け継いできた先人たちのためにも…

目を開き、目の前のハイポーションを掴んでフタを開ける。

ここで終わるわけにはいかない!


ハイポーションを口に含む。傷の痛みが引き、塞がっていく。意識もはっきりしてきた。足はもう震えていない。
恐ろしく効く薬だ。

クラインは立ち上がる。グリフォンは姿勢を低くし、飛び込んで来るつもりだ。

再び槍を掴む。刹那、グリフォンがこちらに向かって飛び込んで来る。
目の前を鋭い爪が襲う…紙一重でかわし切るクライン。

そうだ。僕は思い違いをしていたのだ。

クラインは自分の中の何かがバチバチと火花をあげるような感覚を覚える。

グリフォンは後ろ足で立ち上がり、両の前足でなんとかクラインを捉えようとするが、またすんでの所で避けられてしまう。
「キュオォオオォォォオ!!」
咆哮を上げ威嚇するが、今のクラインにはまるで効果がない。

猟犬の牙ハウンドファングのメンバーみんなが専属の、それも伝説級の装備を扱えると聞いて、僕が弱いのは武器のせいだと決めつけていたんだ。

クラインは槍でグリフォンの攻撃を受け止める。

「グァア!?」

槍をグリフォンはの胸元まで忍ばせると、持ち手を支点に背負い投げのように放り投げる!

信じられない光景だった。クラインの何倍もの大きさのグリフォンが浮き上がり…

ズドンッ!
「クァァァア!」

地面に叩き伏せた!

クライン君は例外よ、継承する魂マスターソウルそのものが伝説級だもの

あの時のシリエの言葉、あれこそが正解だったんだ。

達人は武器を選ばない。いかに安かろうと使い手で武器は変わる。
僕の武器はこの魂そのものだ!

今ならわかる。僕は魂に滲んだ経験に体を委ねていただけだったんだ。これが…

一際クラインの中の火花が大きくなるのを感じる。

これが…継承する魂マスターソウルを使うという感覚!

槍でグリフォンの足を貫き地面と縫い付ける。再びあたりに咆哮が響き渡った。

武器をナイフに持ち替えるクライン。
暴れるグリフォンが片方の残った前足を振りかざす。

一瞬閃光が走ったかと思えば、クラインはナイフを振り切った後だった。あの凶悪で丈夫なグリフォンの爪が切断されている。

「クァァァアァァァァ!」

クラインの手は止まらない。振り回されるグリフォンの手を紙一重でかわしながら足を、翼を、次々切り裂いていく。
 
「クァァァア!クゥウゥ…」

弱ったグリフォンから槍を引き抜く。

「僕は…」

「僕は猟犬の牙ハウンドファングのクライン、継承する魂の宿主マスターソウルホルダー、クライン・アスコートだ!」

クルンと槍を回しそのまま刃先をグリフォンの首めがけて振り下ろす。

サァァアとグリフォンが散っていった。あたりにはドロップアイテムが散らばっている。

よかった…倒したんだ。

急に目眩と寒気を覚える。クラインはその場に倒れこんでしまった。

遠くからキースの声が聞こえる。そうか来てくれたのか。なら僕は休ませてもらおう。

クラインの意識はそのまま闇の中へ沈んでいった。
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