クズとカモ

春花菜

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吾妻ルートBADEND『優しい恋人』

『優しい恋人』#1

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※吾妻ルートを!と、お声をいただきまして書きました。BADENDなので、思ってたんと違う…ってなりそうかな、と思いましたがBADENDを先に思いついてしまったので書いてしまいました。期待に添えなかったらごめんなさい。
なお、Twitterにマシュマロ設置しているので良ければそちらは匿名でリクエストを(この作品に関わらず)して下さったら嬉しいです。もちろん感想も大歓迎です。フォローしなくてもマシュマロは投稿できるので、お気軽にどうぞ。
↓注意書き↓
※本編終了後からの吾妻ルートです。
※死人が出ますし、サイコみ強めです。

✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


吾妻side


 出会いは単純で、衝撃的で運命的な出会いというシチュエーションとは程遠いものだった。
教室に並べられた机に、名前の順番で座らされた俺たち『甲斐田吾妻かいだあずま』と『鴨川良仁かもがわよしひと』は前後の席だった。
はじめましての接触は、特に印象的とは言えないもので、たぶん『よろしく』とかそんな感じのやり取りだったんじゃないかと思う。
根暗には見えないけど、派手ってわけじゃない。どちらかといえば地味な部類で、でも社交性がないわけじゃない普通のやつ。
それが第一印象。


 でも、それが大きな間違いだと気づいたのは割りとすぐだった。


 「なんで掃除してんの」


 「いや、頼まれたから」


 しれっと何でもない顔で俺に返事すると、鴨川は掃除を再開する。
何回目だよ…と、俺は心の中でツッコミながらため息をつく。
そう、この鴨川という男は、頼まれたら自分にできることなら文句も言わずにやる。
いかにも、いい人やってるって感じの押しつけがましい偽善者ではなく、いじめられて鬱々と仕方なくやっているような感じでもない。
ただ、頼まれたらできないことじゃない限りはやるらしく、前に調子にのって「今日も掃除頼むわ」と言っていた奴に「今日は用事あるから無理」と、できない時は普通に断ってた。
割りと自分の信念みたいなものがあるらしいそいつは、バカのつくほどのお人好し。本人は全くそのことに気づいていないところが正直すごいなって思う。


 「何やってんの甲斐田」


 「俺もやるよ」


 「え、なんで」


 「なんとなく」


 「ふ~ん」


 鴨川はそういうと「変なやつ」と言いながらも嬉しそうな顔をする。
変なやつって台詞はそっくりそのまま返したい。そう思いながら一緒に掃除した。


 そんなやつだから、気になったというか、目が離せないというか放っておけないというか……気づけば目で追っていた。
なんかたまにトラブルとか巻き込まれたりしてたし、なんか変なやつだけど話も合うし、結構仲良くなったりした俺達は、親友って呼んでいいんじゃないかってくらいつるむようになった。
だから大人になった今も俺は相変わらずコイツを見守っていた。


 ……見守っていた、はずだった。



✳✳✳✳✳✳✳✳


 『助けて…助けて、吾妻』


 電話越しにアイツの声がする。


 はじめのうちは、甲斐田と鴨川って苗字で呼び合っていたその名前も、いつしか下の名前で呼び合うようになっていた。


 いや、そんなことは今は正直どうでもいい。
良仁が葛とかいうヤバイ男に会うって言ってたから心配で、やり取りがわかるようにスマホを通話のままスピーカーにしておけと良仁に言っておいた。
スピーカーだから、ボソボソと会話らしきものや音が時折拾われるだけでやり取りが全部わかったわけじゃない。
でも、なんとなくヤバイんじゃないか?と、思っていたところで良仁の声がはっきりと聞き取れた。
自分の中で警鐘が鳴る。ドクドクと心臓が騒いで、妙な汗をかいた。



 『助けて』


 良仁は確かに助けてと俺の名前を呼んだ。
アイツが、はじめて俺に助けを、と何故だかゾクゾク…とした何かがこみ上げてくると同時に、スマホから不快な声で俺の名前を呼ばれてハッと我に返った。


 「テメェ、良仁に手ぇ出したら殺す」


 俺がそう言うと何が愉快なのかわからないが、ケラケラと笑いながらゴミクズのような台詞がスマホ越しに鼓膜を汚す。
俺は、怒りで全身が沸騰しそうだ。
くそ…っ、良仁の言葉なんか鵜呑みにしないで会社を早退していれば良かった。バカ良仁…っ、いや、バカは俺か。



 『聞かせてやるよ、俺たちのセックス。そんでそこで一人虚しくオナっとけ』


 葛の低い声が聞こえてから、良仁の喉が潰れるんじゃないかっていうくらいの痛々しい叫び声が聞こえる。
は?セックス?セックスって言ったか?
何だよそれ…意味わかんねえ…え、じゃあ何。良仁が今痛いってめっちゃ叫んでんのってそういうこと?は?はぁ??


 頭が混乱してうまく働かない。


 そんな何も考えられないような頭の中の片隅で耳に貼り付くように声が聞こえてくる。興奮するような気持ちの悪い男の声と泣き叫ぶように許しを乞う声。
警察、そうだ警察に言えば…!
スマホから聞こえてくる音を振り払うように、通話の赤い停止ボタンを震える指で押そうと親指をあげた瞬間、俺はピタッとその動きを止めた。



 『ひゃ…っ、ぁ、なん、なんで…!?や、やだやだやだ!あっあ、ぁ』


 ………は?


 『やぁ…っ、ぁ、んんっ、は、やめ…っ、ぁ』


 ………はぁ?


 『あっ、ぁ、やらぁ…!そこ、あっ、やっ、きもち、い…ちが…っ、ちが、う…ひゃっ!?あっあっぁ、あっ、からだ、やだ…なん、なんれぇ…ぁ、あ、あっあっあっ、むり、それっ、むり、むりぃいい…っ』


 誰、この声。


 考えつく答えは一つしかない。
この電話の向こう側には、クソゴミクズヤローと良仁しかいないはずだ。
いや、でもそんなはずはない。さっきまで涙でぐちゃぐちゃなんじゃねえかって思うくらいのひどい叫び声を出していた。
それが、こんな喘ぐような甘い声を出すわけがない。


 俺は通話を切らず、呆然としながら耳を傾ける。


 まるで女みたいに気持ちが良さそうに、繰り返し繰り返し甘い声が鼓膜を揺らす。


 シラナイ、シラナイ、コンナノシラナイ


 ざわざわと心が嫌な感じに騒ぐ。
知らない、知らない。こんな良仁は知らない。
ずっと一緒だった。知らないことなんてないってくらいアイツをわかっていると思った。


 「くっ……、はぁはぁ…ふぅ」


 壁に背中を預けると、荒くなった呼吸を整えるように大きく息を吐く。
俺の右手を見ると、白濁としたモノがべったりと手を汚していた。


 俺はそれを見てハッとして、思わずスマホの通話停止ボタンを押すと興奮するように熱を帯びていた体が、サーッと冷えていく。


 俺、何してた…?


 親友が強姦されている声を聞いて欲情した?興奮した?


 俺は俺自身の最低の行いに、心の底から絶望した。
死にたい。今すぐ死にたい。
飛び降りるか、それとも車に飛び込むか。
できれば今すぐにでも死ねる方法がいい。


 焦点の合わない目で、俺はぼんやりと足を引きずるように歩く。
しかし、フッと良仁が言ったひとことが頭に浮んで足を止めた。


 『助けて』


 どんな変なやつにからまれようが、困ったことになってようが今までアイツは一度も俺に自分から助けを求めることはしなかった。
それを無視して俺は死んでいいのか?


 俺は冷える頭で、スマホのアプリを起動する。良仁の居場所がわかるように、と俺がお互いのスマホにインストールしたアプリだ。
すると、良仁の職場からそう遠くない店に印のついた地図が表示された。


 死ぬのは後でいい。


 アイツを殺してから死のう。


 そう考えた瞬間体が軽くなった。
汚れた手を洗い、身だしなみを整えると、俺は微笑みを作りながら会社へと戻った。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳

 辺りはすっかりと暗闇に包まれて、ポツポツとある外灯のぼんやりとした光だけが駐車場を照らしていた。
そこに小さく赤い点のような光が見え、注視するとそれは車にもたれている人間であることがわかった。


 ……俺が探していたやつだ。



 スッと頭が冷える。
怖いくらいに冷静だ。
不安も怒りもない。ただ、今はどうすれば確実に成功するか考えている。まるで機械のようだ。
気配を消して近づく。大丈夫、うまくいく。何故かそう確信していた。


 迷いはない。


 車に乗り込もうとしたところを、首に縄をかけて背中を地面につけるように倒すと声を出されては面倒なのでタオルを口に突っ込んだ。
葛は俺の姿を見て目を見開いていたが、そんなことはどうでもいい。コイツがどう思おうがここで死ぬんだ。関係ない。
縄をしっかりと両手で握り、引きずるようにして歩く。
ザリガニ釣りができそうな水路に葛の体を蹴り落とし、紐だけをぎゅっと体重を後ろにかけるように持った。
成人男性がバタバタと暴れるわけだから、結構重い。だが、今はなんなくできた。火事場の馬鹿力とはこんな感じなんだろうか、と思いながら時間が経つのをぼんやりと待つ。
活きが良かったのもだんだんと無くなり、動かなくなったところでしばらく待ってから確実に死んだであろうと判断して引き上げた。


 うわ、なんか汚いな


 一度、二度と水路にざぶんざぶんとインスタントのティーパックをつけるようにしてからもう一度引き上げた。



 さっきよりマシか。


 そう思い、まあいいやとまた車まで引きずり歩いた。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


 車のヘッドライトをつけていても暗い車道を走らせ、木と崖しか見えない山の坂道を登る。
運転席で横たわっていた良仁を助手席に乗せ換えたが、良仁は起きなかった。
相当無理をさせられたんだろう。
手には結束バンドをつけられて、さらに腕は服をめくり上げたもので拘束されていた。
顔も体も何とも判断できない汁でぐちゃぐちゃで体中が鬱血していた。


 あ~、あんな殺し方じゃぬるかったか。
と、反省しながら黙々と運転した。



 山の中のどことも言い難いところに車を止めると、葛を車から放り出して車のエンジンルームの上に置き、葛の所持品を確認した。
携帯、財布、煙草にライター…あとは、ないな。
電源の入っていないスマホのバッテリーを足で踏みつけて壊して、車のドアを開けて運転席に体を滑りこませると、ガラス越しに葛がこちらを見ているように見えてげんなりした。予想以上に気持ちが悪い。
はあ、とため息をついてから車の中を確認した。良仁の荷物と、ローションが入っていたであろう空のボトル、それにビデオカメラ。


 ビデオカメラの中身は大体予想がつく。
SDカードを抜いて、ポケットにつっこむと「ん…」と、良仁の小さな声と体が動く音がした。


 「良仁」


 俺は覗きこむようにしながら声をかけると、ゆっくりと目が開いた。


 「あず、ま…?」


 掠れた声で俺の名前を呼ぶ良仁に、ようやくホッとして笑みがこぼれた。


 「遅くなってごめんな、良仁。助けにきた」


 「たすけ……?」


 頭がはっきりとしないのか、視線を漂わせる良仁を俺はぎゅっと抱きしめた。
一瞬間があいてから「ひっ!?」と、良仁は体を硬くしてガタガタと震え出した。


 「良仁?」


 どうしたんだろうと思い、体を離して良仁を見ると顔色が目に見えて悪い。
何かに怯えるように瞳孔を開いてから口元をおさえてから吐いた。
吐瀉物のほとんど白いものだった…そっか、アイツに無理矢理飲まされたんだな。可哀想に。


 「全部出すか」


 「んぐ!?う、んん…うぇっ、うっ」


 良仁の口に指を喉の奥にめがけて突っ込んで手伝ってやると、良仁は苦しげな声を上げたけど順調に吐くことができた。
助手席の足元はぐちゃぐちゃになったけど、おかげで良仁の中にあったいらないものが無くなった。良かった。


 服の袖で良仁の涙をぬぐってやってから鼻水と口元も綺麗にしてやった。


 「あ、あず…あずま…」


 「ん?まだ気持ち悪いか?」



 「ちが、違う…あ、あれ…」


 怯えるように震えながら前を指で示す。
指先を辿ると、フロントガラスにある目と目が合った。


 「ああ、アレか。もう大丈夫、死んでるから。ごめんな、目覚ます前に片付けるつもりだったんだ。気持ち悪いよな、ハハッ」


 「あず、ま…?なんで笑ってんの」


 「ん?別に意味もねえけど」


 「……吾妻がしたのか?」


 「なに?」


 「おにい…いや、葛さんを…その」


 「ああ、殺したってこと?」


 「…っ!お前…!!そんな軽々と!」


 「?当たり前のことしただけだろ」


 「当たり前!?人殺しがか!?」


 「つーかさぁ…」


 俺はスッと目を細めて頬を撫でると、良仁は小さく息を飲んだ。


 「なんで怒ってんの?アイツに生きてて欲しかった?絆された?好きになっちゃった?良仁、気持ち良くなってたみたいだもんな。声聞こえたよ、あんな声初めて聞いた」


 「な、に…言って…」


 「良仁」


 「なに…?」


 「アイツのこと好きになっちゃったんならさ、辛いだろうから俺を好きになったらいいよ」


 「は?」


 「だから同じ方法で俺を好きになろっか」


 「あ、ずま…お前、なに、言って…」


 「助けてやるよ、助けてって言ったの良仁だもんな。任しとけ、な」


 俺が微笑むと、良仁はそれ以上何も言わなかった。
大丈夫、優しく優しく抱いてやるから。
俺のことしか見えないように、俺を好きで好きでたまらなくして、アイツのことなんて死んでもいいどうでもいいやつにしてやるから。
大丈夫、助けてやる。
お前がはじめて助けてって言えたんだから、ちゃんとできるよ。
ずっと見守ってきたんだから、これからもお前を守るのは俺の役目。


 その日、俺は葛の死体に見せつけるように何度も何度も良仁を犯した愛し合った



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

すみません、この話続きます。
次は鴨川良仁くん視点になります。
近いうちに更新できるはずです。
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