キスまではいいですか?

春花菜

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小学生編

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 凜くんと衝撃的な出逢いをしてから3ヶ月が過ぎた。


 あの日、友達になると言ったのは方便ではなく、本気だったようでオレたちはなんとなく毎日他愛のない話をスマホでやりとりを繰り返している。


 しかも土曜や日曜になると、いつの間にやら遊ぶ約束をしてしまい、週に一度は必ず会っている。もちろん嫌だと思うことはなく、むしろ嬉しいと思ってしまうのだが、小学生と毎週遊んでいるおっさんという言葉だけを聞くとマジでヤバい感じがぷんぷんとすると思うのはオレだけだろうか…。


 「琥珀、今日は泊まっていく?」


 「…泊まりません」


 今日は、土曜日でいつも通り会う約束をしてしまい、凜くんと遊んでいた。
凜くんはオレのことを名前で呼ぶ。
オレも名前で呼んでいるが、なんとなく『君』付けしているが、凜くんはオレを呼び捨てだ。


 凜くんいわく、その方が距離が縮まるらしい。別に不快に思うこともないので、拒否することもなく思うがままに呼んでいただいている。


 そして、今凜くんのお家で遊んでいるのだが、凜くんのお家はオレの住処から割と近くてそこそこご近所だった。
あの日、夜だというのにランドセルを背負っていた凜くんをそのまま一人で帰らせるのは危ないと思い、送らせて欲しいと頼みこんだ。


 今思えば、会ったばかりの見ず知らずの大人に自宅を教えるという方が危ないということに気づいたのだが、あの時は冷静じゃなかったのだと思う。


 でも、そんなことにも凜くんは嫌な顔もせず若干遠慮しつつ(引いていたのではないかと後から思わなくもないが)


 『お兄さんが迷惑じゃなければ』


 と、了承してくれた。マジ天使、マジ女神。


 あの日は、学校の帰りそのままバスに乗っていとこの家で勉強を教えてもらっていたらしい。
いとこは三姉妹で、一番上のお姉さんはめちゃめちゃ有名な進学校の現役女子高生らしくそのお姉さんに勉強を教えてもらって、ついでに夕食を食べて帰ってきたらしい。
凜くんと血縁ということは、めちゃくちゃ美人で可愛い三姉妹なんじゃないか…と、ぽろっと口が滑ってしまったのだが、頼まれても絶対に会わせないと間髪入れずに即答された。


 さすがにそんなこと頼まないよ!!気にはなるけど、凜くんの中でオレはどんだけ変態おじさんになっているんだ…と、内心かなり落ち込んだ。


 そして、凜くんを送り届け、怪しい大人と二人きりで夜歩いていたというのは外聞が悪いだろうと、ご両親に挨拶させてもらうことにしたのだが、何故かお家に上がらせてもらうことになり、ご飯をごちそうになり、一人暮らしの独り身にはその温かさが心に染み、また泣いてしまい、励まされ、ご両親と酒を酌み交わし、ベロベロに酔って、そのまま寝てしまい、会った初日にお泊りという失態を犯してしまった。本当に情けない限りだ。
しかも、酔って色々ベラベラ話してしまった気がするが、正直あまり覚えていない。


 さすがに申し訳なくて、後日菓子折りを持って謝りに言ったが、非常に心優しい凜くんのご両親は、咎めることはせずにむしろ心配していただいて、またご飯をごちそうになってしまった。
さすが、天使を育てたご両親だ。ご両親もマジ天使である。いや、神なのかもしれない。



 初日にお泊りをしてしまったものの、それ以降はお泊りはしていない。
遊ぶ時は、たいてい凜くんのお家にお邪魔してゲームをしたり、話をしたり、だらだらと遊んでいる。
オレの家にも行きたいと言われたのたが、小さなテレビがあるくらいでゲームもなければただの狭い部屋なので、天使や女神に思える美少年を招くのは忍びないのでお断りしている。


 凜くんのお誘いのような言葉を丁重にお断りすると、少しムッとしたような拗ねるような顔をしてからクッションに顔をぽふっと埋めた。


 なにそれくっっっそ可愛いですけど!!!!!!!!!!!


 え、なに。オレが泊まらないって言ったから拗ねてんの???めっちゃ可愛い!!!
歴代彼女たちに同じことをされても、こんな悶えることはなかっただろう。
てか、推しにされてもこんなこと思わないかもしれない。
つーか、今オレの推しは凜くんなのだ!

 一瞬、あれ?オレ、実はこういう性癖というか趣味だったのか?ヤバいな。ロリコンやべえとかレベルじゃないぞ。同性の小学生だぞ!!!って、かなり混乱したこともあったが「僕推しになって。僕、琥珀が好きだよ」と、謎の抱擁力を見せつけられ、よくわからんままに納得して、オレは凜くん推しになった。


 ちなみに、ガチ恋ではないのでそこに恋心はない。


 そうなのだ。オレはあの日、推しという癒やしを失った。
絶望し、泣きまくった。


 だけど、凜くんと出逢ってからこの日まで絶望を引きずることはなかった。
凜くんとのやり取りは他愛のないことでも幸せだし、会えば癒やされるし、めちゃくちゃ充実している。


 ヲタ活している時よりも、幸せで楽しくて仕方ない。これが新しい推しがいる生活なのだろうか…


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「ない。お前、それはないわ~~~」


 オレが凜くん最高説を語ると、目の前でビールをぐいーっと一気飲みした腐れ縁の同期で、一緒にヲタ活していた玉井がジト目で言い放った。


 「は?なにが?」


 いきなり全否定され、オレは思わず不機嫌になった。
ただでさえ、凜くんとの癒やされる休日を潰して来ていると言うのに気分を害されて不快指数が上がる。


 ちなみに今日こうやって二人で飲み会をすることになったのは、推しが卒業引退したというのに落ち込むどころかめちゃくちゃ毎日楽しそうなのはどういうコトだコノヤロウ!!!と、キレられて引っ張って連れて来られたからである。


 まあ、3ヶ月ものらりくらりとこの話をかわしつづけていたからキレられたのもある意味仕方ないので、大人しくついてきたが。


 玉井が言うには、オレは箱推しではなく、単推しだったので、推しの卒業と共にヲタ卒という流れは予想していたそうだが、卒業発表直後の出勤して来た様子に驚いたらしい。


 会社を休むか、来ていても死んだ顔しているかの二択だろうと予想していたそうだが、玉井の予想を裏切ってオレがルンルンとむしろ機嫌良さそうに会社に居たことが衝撃だったらしい。


 ちなみに玉井はオレをドルヲタ沼に引きずりこんだ張本人だが、推しはかぶっていないので玉井の推しはまだ現役アイドルだ。
所謂ガチ恋勢に分類される玉井は、グループを布教するが推しの布教はしない。
同じ推しのファンは仲間ではなく敵。恋のライバル認定する厄介さんなのだ。
いつか恋人になるのを夢見ている、もしくはもう恋人のつもりなのかもしれない。本人にちゃんと聞いていないが、言葉の端々にそういうのを感じる。


 だからオレを握手会に連れていった時は、玉井の推しのレーンには行かず、握手会で対応が良いとされる卒業してしまったオレの推しだった彼女のところに連れて行った。
まあ、おかげで見事にハマったので玉井の判断は間違ってはないのだが、色々複雑な奴なのだ。


 「お前が新しい推しが出来たんだと思ったさ。まあ、違うグループかアイドルじゃない誰かとかさ~。でも、お前の言ってるその子は一般人だろ?それって恋じゃねーの?」


 「…はあ?」


 ガチ恋の玉井には言われたくない。


 それに凜くんに恋?
あの天使というか女神というか、神々しい存在に信仰以外のそんな生っぽい感情を向けるなんてありえない。


 「ないないないない。天界の住人に恋なんて恐れ多い」


 あははは、と言いながらオレがビールを一気に流し込んで追加を注文する。
玉井はそんなオレを少し悲しそうな奴を見るような目で見ながら、自分もついでとばかりに追加を頼んだ。


 「え、何。お前それ推しとかじゃなくて宗教…?」


 「あー、凜くんを崇める宗教があるなら改宗するわー」


 「お前、キモいの通り越してある意味尊敬するわ」


 ビールお待たせしましたーっと、ドンドンと音を立ててテーブルによく冷えたジョッキが置かれた。
オレがぐいーっと調子良く飲むと、玉井が慌てた様子で止めてきた。


 「おま…っ、一気に呑むなって弱いんだから…」


 「よわくないや~い」


 「うっわ、もう酔ってんじゃん。めんどくせー…」


 玉井は心底嫌そうな顔でオレを見る。
ふわふわする頭で、そんな顔するくらいなら呑みに誘うなっつーのと思うが、なんだか楽しくなってきてへらへらと笑う。


 「きょうだってさ~りんきゅんと…ヒクッ、あうよてい、らったのに~」


 空になったジョッキをドンと置いて、また追加を注文する。
気分はハイになってきているが、決して酔っていない。ちょっと喋りづらい気もするが楽しいので良しとする。


 「はあ…まあ、誘った俺が悪いか。んで、さっきからずっと気になってたんだけど、男なのか?お前の恋人」


 「ば~~か!おれみたいなヤツがこいびとになんてなれねーよ、てんしだぞ!?みゅーずだぞ!?でも、りんきゅんはおとこのこれす」


 凜くんの名前が自分の口から出てくることすらなんだか嬉しくてニヤニヤとしてしまう。
控えめに言って、今のオレは相当気持ち悪いだろう。
でも、嬉しいので仕方ない。


 「うっわ、なにそのデレデレの顔…好きすぎだろ…」


 「キモいってゆーなぁ」


 「いや言ってねーし。無自覚かよ…もう、早くくっついて迎えに来てもらえよ。危なっかしくてこれ以上ココに置いてけねえよ…」


 「りんきゅんにおむかえなんてたのめにゃい~りんきゅんは、しょーがくせーだもん」


 「はあ!?」


 「あいたいけどね~~~」


 凜くんのことを考えると、ふにゃんと顔がとろけてしまう。
その途端に、玉井にデコピンを入れられた。めっちゃ痛い。


 「その顔やめろ!周りを惑わす!てか、小学生なのか?つーか、さらりと惚気んじゃねえ!」


 ベシベシと更にデコピンを入れられる。
痛い痛い痛い痛い、めっちゃ痛い。


 「いたいからやめれ…」


 ちょっと涙が目尻に貯まる。
おでこを抑えながら、玉井を見ると玉井は「うっ」と、小さく唸った。
やめろよ、ここで吐くなよ?絶対吐くなよ?フリじゃねえからな!!!


 「…わかった。とりあえず送るからお前はもう帰れ。ほら、立てるか?」


 吐きそうだったのはお前じゃないのか?と、首を捻りながらも促されるままに立ち上がる。
ふわふわのよろよろだが、問題ない。
なんたって楽しいのだ。 


 玉井に肩を貸してもらいながら歩く。入り口の椅子に座らせてもらっている間に、玉井がスマートに会計を終わらせ、タクシーまで呼んでくれた。
こういうことがさらりと出来ちゃう玉井はかっこいいと思う。さすが、妄想で推しとデートを繰り返しているだけある。


 呼び寄せたタクシーに詰め込まれ、玉井も乗り込む。運転手にオレの自宅をきっちりと説明してくれるので、オレはただ身を任せて座っているだけ。


 「眠くても寝るなよ…肩ぐらい貸してやるけど」


 「んー…」


 玉井が手で自分の肩に引き寄せるように、オレの頭をコテンと導く。
正直眠い。てか、肩を枕にしちゃったらそれこそ寝ちゃうじゃんか…と、思うもののぐてんぐてんの役立たずな体はあらがうことができない。


 うとうとしそうになりながらもなんとか踏ん張って、寝ずに到着することが出来た。
マンションの前でバイバイして、眠い目を擦りながら一人ふらふらと自分の借りている部屋を目指して歩いていく。


 鍵を差し込んでガチャ、と開くといつもは暗い玄関がリビングの光でぼんやりと明るい。
電気消し忘れたのかな…とか、ぼーっとしながらリビングのドアを開けるとそこには思いもしない人物がソファに座っていた。


 「おかえり」


 「えと、ただいま?」


 「結構呑んだの?ふらふらしてる…ほら、座って。水入れるね」


 「あ、ありがとう凜くん」


 なんで?なんで天使がオレの家に居るんだ?
会う約束はしてないし、そもそもオレの家に来たことなかったはずだ。
てか、どうやって入ったんだ???


 凜くんから水をありがたく受け取ってゴクゴク飲みながら、アルコールのせいで回らない頭を全力で働かせる。
しかし、浮かぶのは疑問ばかりで全く解決できるような答えが出てこなかった。
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