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第二章~Re: start~
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──…カツン…カツン…。
微かに届いてきた耳障りな足音が来訪者を告げる。
石畳で出来た床の隅で膝を抱えるように眠っていた私は、反射的に意識を覚醒させた。
…この人の前で眠りこける事など、未来永劫出来はしないだろう。
「…おはよう、イーリス。今日はとてもいい天気ね?」
鉄格子の先に現れた貴婦人…ダリア・マクレーガンから微笑みが向けられる。
彼女は私のことをセドリックの私生児だと認識している人であり、私にこんな風に笑いかけるような人ではない。
牢屋番ですら鼻を覆うような場所なのに、顔色一つ変えることなく凛と立つ姿はまさに…高位貴族令嬢として育った彼女の矜恃の高さを表していた。
光の届かない地下牢に閉じ込められている私には、外の天気などわかるはずもないのだが…ご機嫌な様子で微笑むダリアを見て、彼女の機嫌を損ねない無難な挨拶を返すことにする。
私は僅かに残る眠気を払拭するように立ち上がるとスカートを摘んで淑女の礼をとる。
「…おはようございます、奥様。このような素敵な朝にこんな所までお越しになるなんて…いかがされたのですか?」
私の挨拶に満足そうに微笑むダリア。
「ふふ、今日はイーリスに嬉しいニュースを伝えに来たの」
「………」
「もうすぐ…セドリック様が帰ってくるそうよ」
「………」
下げた頭の陰で自然と口角が上がってしまう。
…あぁ、たしかにこれは嬉しいニュースだ。
長かった…私はこの日をずっと待っていたのだから。
震える瞼をそっと閉じて、あの頃の情景に想いを馳せる…。
それは、耳障りなあの嗤い声が支配している永遠に続く真っ暗な世界…。
多くの裏切りと亡くした命の重みが思い出され、胸に走る少しの痛みとわずかな息苦しさを覚える。
「………そうでしたか。それは喜ばしいニュースですね!母を埋葬してくれるという約束、忘れないでくださいね」
軽く息を吐いて感情を抑えると、にっこり微笑みながら顔を上げる。
この一ヶ月…胸の奥底に隠していた復讐の炎が再び燃え上がるのを感じて嬉しくなる。
「ええ、もちろんよ。あなたの言うとおり…セドリック様が私に土下座するならね」
…あの地獄のような未来を変えると心に決めた。
このどうしようもない現実から逃げ出す為の準備はできている。
さぁ、始めましょう…お養母様。
私と貴女の命を懸けて…
このくだらない因縁を終わらせる為にもう一度…。
微かに届いてきた耳障りな足音が来訪者を告げる。
石畳で出来た床の隅で膝を抱えるように眠っていた私は、反射的に意識を覚醒させた。
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「…おはよう、イーリス。今日はとてもいい天気ね?」
鉄格子の先に現れた貴婦人…ダリア・マクレーガンから微笑みが向けられる。
彼女は私のことをセドリックの私生児だと認識している人であり、私にこんな風に笑いかけるような人ではない。
牢屋番ですら鼻を覆うような場所なのに、顔色一つ変えることなく凛と立つ姿はまさに…高位貴族令嬢として育った彼女の矜恃の高さを表していた。
光の届かない地下牢に閉じ込められている私には、外の天気などわかるはずもないのだが…ご機嫌な様子で微笑むダリアを見て、彼女の機嫌を損ねない無難な挨拶を返すことにする。
私は僅かに残る眠気を払拭するように立ち上がるとスカートを摘んで淑女の礼をとる。
「…おはようございます、奥様。このような素敵な朝にこんな所までお越しになるなんて…いかがされたのですか?」
私の挨拶に満足そうに微笑むダリア。
「ふふ、今日はイーリスに嬉しいニュースを伝えに来たの」
「………」
「もうすぐ…セドリック様が帰ってくるそうよ」
「………」
下げた頭の陰で自然と口角が上がってしまう。
…あぁ、たしかにこれは嬉しいニュースだ。
長かった…私はこの日をずっと待っていたのだから。
震える瞼をそっと閉じて、あの頃の情景に想いを馳せる…。
それは、耳障りなあの嗤い声が支配している永遠に続く真っ暗な世界…。
多くの裏切りと亡くした命の重みが思い出され、胸に走る少しの痛みとわずかな息苦しさを覚える。
「………そうでしたか。それは喜ばしいニュースですね!母を埋葬してくれるという約束、忘れないでくださいね」
軽く息を吐いて感情を抑えると、にっこり微笑みながら顔を上げる。
この一ヶ月…胸の奥底に隠していた復讐の炎が再び燃え上がるのを感じて嬉しくなる。
「ええ、もちろんよ。あなたの言うとおり…セドリック様が私に土下座するならね」
…あの地獄のような未来を変えると心に決めた。
このどうしようもない現実から逃げ出す為の準備はできている。
さぁ、始めましょう…お養母様。
私と貴女の命を懸けて…
このくだらない因縁を終わらせる為にもう一度…。
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