169 / 180
第三章
第169話 衝撃の事実
しおりを挟む白い陶磁の器に注がれたお茶の香りがふわりと漂う。
前回、前々回とは微妙に香りが違うことに気がつく。
「この香り……以前のものより深みがありますね」
その言葉を聞いたヘレナさんが嬉しそうに笑みを浮かべて答える。
「あら、よく気がついたわね。この茶葉はね、新茶のみを扱った茶葉なの。量産していないからユーリちゃんに飲んでほしくてもなかなか手に入らなくて……ごめんなさいね」
新茶って一番茶ってこと?
あまりお茶に詳しいわけじゃないけど、一番茶は旨味が多いって誰かが言っていたような記憶が。
てことは高級品じゃないの!?
私のためにわざわざ用意してくれたことが嬉しくて、素直に感謝の言葉が出ていた。
「お気遣いいただきありがとうございます。とても美味しいです」
ヘレナさんは柔らかく目を細めて言った。
「うふふ。気に入っていただけたようで良かったわ。お茶に合う焼き菓子も用意したの。お口に合うと良いのだけど」
テーブルには様々な形をした焼き菓子が入った皿が並べられている。
ヘレナさんに勧められて、濃厚なバターの香りがする焼き菓子に手が伸びていた。
一口齧るとサクッとした食感と共に、バターの濃厚な香りが口腔内に広がる。
以前食べたホージ茶入りのクッキーとは違う味わいに、思わず心の声が漏れてしまう。
「っ!甘味が控えめなのに濃厚なバターが良いアクセントになっている。このサクッとした食感がクセになりそうです」
一応、この世界にも甘味はあるが、バターや砂糖は高級品という扱いなので、庶民にはなかなか手が届かないのだ。
分かり易く例えるなら、日本のスーパーで売っている値段の五倍以上だと言えばご理解いただけるだろうか。
それくらい向こうとこちらでは価値も価格も違うということだ。
……この焼き菓子一枚の値段が気になるが、せっかくヘレナさんが私のために用意してくれたのだから、ゆっくりと味わいたい。
もぐもぐと焼き菓子を味わっていると、メイスが鼻をふんふんと動かして興味深そうに言った。
『バターをふんだんに使っているのか。美味そうだな。俺にも一つくれ』
さすがメイス。
食べることに貪欲なメイスは、甘味にも興味を示したようだ。
尻尾をピンと立てて焼き菓子に鼻を近づけるその様子は、誰が見ても愛らしい猫の姿そのものに見える。
そんなメイスを微笑ましく見ていたヘレナさんが口を開く。
「まあまあ、なんて愛らしいのかしら。猫ちゃんも焼き菓子が食べたいのね?」
ヘレナさんは目を柔らかく細めると、焼き菓子が載った皿ごと私の前に差し出してきた。
メイスは私の返事を待たずにテーブルに飛び降りると、焼き菓子に嚙り付いた。
焼き菓子を口にしたメイスが、感心した様子で呟いた。
『ほぉ……これは美味いな。三百年前とは比べ物にならないくらい人間の食文化が発展したということか。実に興味深い』
確かに、以前メイスが用意してくれたお菓子の方が、種類も味も豊富だった。
もしかしたら、魔族の方が人間より文明が進んでいるのかもしれない。
いつか、メイスが治める国に行けたらいいな。
焼き菓子に噛り付くメイスを見ながらそんなことを考えていると、それまで静かにお茶を飲んでいたヘンリーさんが口を開いた。
「その従魔の黒猫は我々の従魔と違い知能が高そうですね。その見た目の愛らしさに惑わされてしまいますが、我々の言語をきちんと理解しているように見受けられます」
え?従魔契約を交わせば意思疎通出来るんじゃないの?
もっとも、メイスは従魔じゃなくて黒猫の姿に変身した魔族の王様だから、従魔ですらないのだけど。
そう思ってヘンリーさんに視線を向けていると、領主様が語り始めた。
「そうだな。それに、黒い毛並みの猫を初めて見たが、きっと希少種なのだろう。これほど綺麗な黒い毛並みの猫を目にしたのは生まれて初めてだ」
えぇっ!?
この世界には黒猫はメイスしか居ないってこと!?
いや、そもそもメイスの正体は魔族の王様で、今の黒猫の姿は仮初めなのだから存在しないことになる。
衝撃の事実を知った私は、驚愕の瞳で二人の会話を聞いていた。
30
あなたにおすすめの小説
異世界に来ちゃったよ!?
いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。
しかし、現在森の中。
「とにきゃく、こころこぉ?」
から始まる異世界ストーリー 。
主人公は可愛いです!
もふもふだってあります!!
語彙力は………………無いかもしれない…。
とにかく、異世界ファンタジー開幕です!
※不定期投稿です…本当に。
※誤字・脱字があればお知らせ下さい
(※印は鬱表現ありです)
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化!
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
元チート大賢者の転生幼女物語
こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。)
とある孤児院で私は暮らしていた。
ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。
そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。
「あれ?私って…」
そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。
魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。
ソラリアル
ファンタジー
※本作は改題・改稿をして場所を移動しました。
現在は
『従魔と異世界スローライフのはずが、魔王と噂されていく日々』
として連載中です。2026.1.31
どうして、魔獣と呼ばれる存在は悪者扱いされてしまうんだろう。
あんなに癒しをくれる、優しい子たちなのに。
そんな思いを抱いていた俺は、ある日突然、命を落とした――はずだった。
だけど、目を開けるとそこには女神さまがいて、俺は転生を勧められる。
そして与えられた力は、【嫌われ者とされる子たちを助けられる力】。
異世界で目覚めた俺は、頼りになる魔獣たちに囲まれて穏やかな暮らしを始めた。
畑を耕し、一緒にごはんを食べて、笑い合う日々。
……なのに、人々の噂はこうだ。
「森に魔王がいる」
「強大な魔物を従えている」
「街を襲う準備をしている」
――なんでそうなるの?
俺はただ、みんなと平和に暮らしたいだけなのに。
これは、嫌われ者と呼ばれるもふもふな魔獣たちと過ごす、
のんびり?ドタバタ?異世界スローライフの物語。
■小説家になろう、カクヨムでも同時連載中です■
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる