転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第一章 

第2話 鏡の中の少女

「はぁ……。いい加減、現実に目を向けなきゃ……」

 項垂れたまま床に両手をついていたが、どんなに否定したくても時間は過ぎていくだけで何も解決しない。
 ノロノロと立ち上がり、椅子に腰を下ろしてテーブルに肘をついて両手を組んだ。
 室内を見渡して思ったのは、最低限の家具は揃っているがどれも使い古した物ばかりで、どう見ても私のために用意されたようには見えなかったことだ。
 しかし、じっくりと見てみるとその家具一つ一つに細かい装飾が施されているのが分かる。
 以前はそれなりに裕福な家で使用されていたのかもしれない。
 どういった経緯でここにあるのか分からないし、もしかしたら最初からここに設置されていたのかもしれないが……。
 いずれにせよ、この状況下で考えるべきことは他にある。

「私、誰なの?で、ここはどこ?」

 細く筋張った手を眺めて考えた。
 声色と目線の低さから、大人ではないことくらい自分でも分かる。
 だが、それ以外の情報がないため、自分の姿を確認する方法がなくて視線を彷徨わせた。
 周囲を見渡して、部屋に備え付けられた家具に視線を向けて呟いた。

「あっ、引き出しに何かないかな?」

 僅かな期待を胸に引き出しに手を伸ばした。
 引き出しを開けて中を覗くと、ほこりを被った手鏡を見つけた。

「あっ、手鏡がある。とりあえず今の私がどんな感じか見てみよう」

 自分がどんな容姿なのか知らないため、興味が湧いて覗いてみた。

「ふぇっ?……これが私?」

 ひび割れた鏡に映っていたのは、明らかに日本人とは違う顔立ちの黒髪黒目の瘦せこけた少女だった。
 ジッと眺めていると、激しい頭痛に襲われて頭を抱えてうずくまる。
 あまりの痛みに目を閉じて息が荒くなる。
 痛みに耐えている間に脳内に大量の記憶が流れ込んできて、ますます動揺してしまった。

「う、うぅ……。な、なに?……この記憶は私の記憶?」

 大量の情報量に最初は動揺してしまったが、痛みが治まると共に落ち着きを取り戻した。
 
「……なるほど。私の名前はユリーシュカ・ロージスなのね。で、私の黒髪黒目のせいでお母様と離れに追いやられたってことか……」

 ユリーシュカとしてこの世に生を受けて九年。
 蘇った記憶を辿ってもお母様と二人離れで暮らした記憶はあるが、それ以外の人といえば、お母様が亡くなってからは食事を運んで来る使用人しかいなかった。
 その食事も、硬いパンとほとんど具材が入っていない冷めたスープだった。
 当然のことながら、そんな食事では栄養なんてしっかりと摂れるはずがない。
 筋張った腕を見て大きく息を吐き出した。

「は―。どうりで瘦せこけている訳だ。育ち盛りの子供にこんな仕打ちをするなんて、日本だったら幼児虐待で訴えられても文句は言えないレベルよ」

 ポツリと零した声は、自身の声とは思えないほどに弱々しかった。
 再び椅子に腰を下して腕を組んで考える。

 記憶にあるお母様は、いつもにこやかに微笑んでいた。
 物心つく頃には、私が困らないようにと読み書きを教えてくれた。
 どうやらその頃から物覚えが良かったようで、すぐに文字を覚えて一人で本を読めるまでになっていたようだ。
 そんな私をお母様は素直に喜んで褒めてくれた。

『まあ!わたくしの可愛いユリーシュカは天才なのね!お母様は嬉しいわ!』

 あの時のお母様の笑顔はまるで少女のように愛らしく見えた。
 その後、魔法に興味を持った私を困ったような表情をしながらも、基礎を丁寧に教えてくれたんだっけ。
 おかげで、魔法は問題無く使えそうだ。
 あの頃の私は、魔法が存在することに何の疑問も持っていなかった。
 しかし、前世の記憶が蘇ったことで、ここが地球とは違う次元に存在する世界なのだと気づかされた。
 私は椅子の背もたれに体を預けると、天井を仰ぎ見て呟いた。

「あ~。やっぱり異世界転生しちゃってたのかぁ……」

 どうして前世の記憶が蘇ったのか分からない。
 でも、細くて筋張った腕を見るからに、このままだとこの世とお別れする日もそう遠くないことだけは容易に想像出来た。
 もしかして、私を憐れんだ神様もしくは今は亡きお母様が助けてくれたのかもしれない。
 随分と都合の良い解釈だが、そうでも思わないと孤独と寂しさで心がおかしくなってしまいそうだ。

 ぐうぅぅぅ

 沈みかけていた気持ちを邪魔するように、お腹から盛大な音が聞こえて意識が浮上する。

「お腹空いた。先ずは食料の確保が最優先事項ね」

 せっかく与えられた第二の人生だ。
 何が何でも生き抜いてやる。
 空腹で足に力が入らないままふらりと立ち上がると、状況を確認するため窓に近づいた。

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