転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

文字の大きさ
27 / 180
第一章 

第27話 * 山越えと初めての魔物討伐 

しおりを挟む
 小一時間程歩いていたら、然程さほど高くはないが山が視界に入ってきた。

「あの山がビリーさんとカリーナさんが言っていた山かな」

 足を止めて呟くと、肩で目を閉じていたメイスが目を開けて答えた。

『たぶん、そうだろうな。……ふむ。魔物の気配はするが、どれも大した脅威にはならん小物ばかりだ。今のお前でも十分倒せるだろう』

 ――そう言えば、冒険者登録をしたものの、希少な草を摘んだだけで魔物の討伐はまだだった。
 私でも倒せるって言うけど、いきなり魔物と闘うのは勇気が要る。
 メイスの発言に、私の喉が大きく上下した。
 緊張した気配を察知したメイスが、艶のある黒い尻尾を器用に動かして首元を軽く叩いて言った。

『この俺がお前を鍛えたのだから、あの程度の魔物にやられる訳がないだろう。危険だと判断したら俺が加勢してやる。お前は気楽に構えていろ』

 確かに、散々メイスにしごかれて何度も挫けそうな思いをした。
 でも、そのおかげで筋力はついたし魔法も問題なく使いこなせるようになった。
 メイスが断言したのなら倒せるのだろうが……。
 平和ボケした日本で暮らしていた私が、魔物とは言え生き物の命を奪うのは抵抗がある。
 無言になった私に、メイスが語り始めた。

『いいか。人間にとって魔物は脅威だ。だが、脅威であるのと同時に生きる糧となっている。増えすぎた魔物は時として氾濫を起こす。冒険者はそんな魔物を一匹でも多く間引くのが仕事だ。魔物は、知能は低く見境なく襲う。食うか食われるか、ただそれだけだ。死にたくなければ殺すやるしかない。余計なことは考えるな』

 そうだ。
 ここは魔物が跋扈する世界。
 躊躇していたら殺さやられるのはこちらの方だ。
 今更ながら、改めてここが元の世界とは違うことを自覚させられた。
 安易な考えで冒険者になってしまったが、覚悟が足りていなかったと反省した。

「……うん。分かった。無暗に魔物を倒すつもりはないけど、襲いかかって来る魔物は全力で倒すよ」

 私は別に勇者とか英雄になりたい訳ではないし、なれるとも思っていない。
 死なない程度に強く、のんびりと旅が出来ればそれで良い。
 覚悟を口にしたら、ほんの少しだけ気持ちが落ち着いてきた。

『ああ、それで良い。では、そろそろ山越えをするぞ』

 メイスに促されて私達は山に向かって足を踏み出した。








 緩やかな坂道を黙々と上って行く。
 日中ということもあり、荷馬車や人が行き交う姿がちらほらと見えた。
 山の中腹で小休止を挟んだ後、麓を目指して再び歩き始めた。
 山の中腹から眺める景色は最高に良かったのだが、あまり長居はしていられない。
 黙々と歩き続けていると、左前方から異変を感じて足を止めた。
 私はメイスに視線を向けて念話で話しかけた。

『ねぇ、メイス。左前方に何かざわざわした不快な気配を感じるんだけど、もしかして魔物の気配?』

 不快感が全身を襲い、一刻も早くここから立ち去りたい気持ちが強くなる。
 一方、メイスは不快な気配を察知していても特に気にした様子もなく答えた。

『ほぉ、気がついたか。そうだ。その不快な気配が、魔物が発している気配だ。ここは魔法でさっさと仕留めて山を越えてしまおう』

 魔法なら何とかなるかな。
 ……それにしても、気がついていたなら教えてくれても良かったのに。
 心の中でメイスに文句を言いながらも、私は不快な気配がする方へそっと忍び寄った。
 足音を立てずに近寄って覗き見ると、猪のような大きな図体の魔物が居た。
 猪よりもひと回り以上大きく、額には赤黒い色のサイのような角が生えている。
 鑑定のスキルによると、ブラッディホーンボアと言うようだ。
 ブラッディホーンボアはこちらに背中を向けて佇んでいた。

 倒すなら今だ。

 足音を忍ばせて近寄ると、真横に移動して風魔法を発動させた。
 手をブラッディホーンボアに向けて翳すと、手のひらから威力を増した刃のような風が放たれた。
 刃のような風がブラッディホーンボアの首を目がけて飛んで行った瞬間、大きな胴体を残して首だけが飛んで行き地面に転がった。
 その数秒後、首を亡くした胴体から血しぶきを上げて、大きな音を立てながら地面に崩れ落ちた。
 ブラッディホーンボアの呆気ない最期に、私はドキドキと早鐘を打つ鼓動を聞きながら茫然と立ち尽くしていた。

 覚悟はしていたはずなのに、現実を突き付けられた私の頭は整理が追いつかずに、メイスに声をかけられるまで暫し思考を止めていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。) とある孤児院で私は暮らしていた。 ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。 そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。 「あれ?私って…」 そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル
ファンタジー
※本作は改題・改稿をして場所を移動しました。 現在は 『従魔と異世界スローライフのはずが、魔王と噂されていく日々』 として連載中です。2026.1.31 どうして、魔獣と呼ばれる存在は悪者扱いされてしまうんだろう。 あんなに癒しをくれる、優しい子たちなのに。 そんな思いを抱いていた俺は、ある日突然、命を落とした――はずだった。 だけど、目を開けるとそこには女神さまがいて、俺は転生を勧められる。 そして与えられた力は、【嫌われ者とされる子たちを助けられる力】。 異世界で目覚めた俺は、頼りになる魔獣たちに囲まれて穏やかな暮らしを始めた。 畑を耕し、一緒にごはんを食べて、笑い合う日々。 ……なのに、人々の噂はこうだ。 「森に魔王がいる」 「強大な魔物を従えている」 「街を襲う準備をしている」 ――なんでそうなるの? 俺はただ、みんなと平和に暮らしたいだけなのに。 これは、嫌われ者と呼ばれるもふもふな魔獣たちと過ごす、 のんびり?ドタバタ?異世界スローライフの物語。 ■小説家になろう、カクヨムでも同時連載中です■

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...