転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

文字の大きさ
44 / 180
第一章 

第44話 甘辛いタレとチョロいメイス

しおりを挟む
 メイスに不愉快な思いをさせずに話しを切り出したいが、上手い言葉が見つからない。
 どうしたものかと頭を悩ませながら、冒険者ギルドの扉を開けて通りに出る。
 しかし、何一つ思いつかないまま、冒険者ギルド近くの広場まで来てしまった。
 広場には数軒の露店が並んでおり、肉の焼ける芳しい香りが漂っていた。

「ねぇ、メイス。あそこからお肉の良い匂いがするね。食べてみない?」

 メイスもその匂いに気がついていたのか、即答した。

『ああ。さっきから肉の匂いが気になっていた。行ってみよう』

 ほんの少しメイスの機嫌が良くなったようだ。
 私は足早に露店に近寄り、肉を焼いている中年男性に声をかけた。

「こんにちは。美味しそうですね」

 声をかけられた中年男性は、肉を焼く手を止めずに顔を上げて笑みを浮かべた。

「いらっしゃい。うちはタレにこだわっているからね。一本どうだい?」

 中年男性の会話が終わるのと同時に、脳内にメイスが語りかけてきた。

『ユーリ、一本では足りない。四本にしろ』

 どうやら一本では足りないらしい。
 内心苦笑を漏らしながら、私は中年男性に話しかけた。

「四本ください」

「まいどあり!じゃあ、ちょっと待ってな。すぐに焼き上がるから」

 注文を受けた中年男性は、満面の笑みを浮かべて肉を焼いていく。
 手元は見えないが、その仕草から焼き加減を見ながらひっくり返しているのだろう。
 それから串を手に持つと、身を乗り出すようにして手渡してきた。

「お待たせ。熱いから気をつけてな。お代は銀貨一枚と銅貨二枚だ」

 斜め掛けのバッグから銀貨一枚と銅貨二枚を取り出して、中年男性に支払って串を受け取る。
 ずっしりとした感触とタレの濃厚な香りに、思わず頬が緩む。
 これは絶対に美味しいヤツだ!
 そう確信した私は、中年男性にお礼を伝えた。

「美味しそう!どうもありがとう!」

「ははっ!気に入ったらまた寄ってくれ。またな」

 中年男性の笑顔に見送られて、私達は広場のベンチに腰を下ろした。
 斜め掛けのバッグから皿を出して、串から外した肉を皿に盛りつけて私の隣に置く。
 肩から飛び降りたメイスは皿に盛りつけられた肉の匂いを嗅ぐと、もう我慢出来ないとばかりに肉にかじり付いた。

『むむ!?このタレとやらは肉の旨味を引き出しているのか?甘辛くていくらでも進むな』

 あまりにも美味しそうに食べるメイスの様子に、私も手に持っていた串を口に運んだ。
 
「むぐむぐ……。この味は……醬油と砂糖?噓、醬油があるの?はぁ……。懐かしい味。美味しい」

 頬に手をあててうっとりと目を細めた私に、メイスは顔を上げて問いかけた。

『……ユーリはこの味を知っているのか?なら、ショーユとやらがあれば同じように作れるのか?』

 同じようにという訳にはいかないにしても、醬油があれば料理に幅が出るのは言うまでもないだろう。
 私は醬油を使った料理を思い浮かべながら、メイスの問いに答えた。

「う~ん。同じかは分からないけど、醬油があればもっと料理に幅が出るだろうねぇ」

 贅沢を言えば、タレを作るには醬油や砂糖だけでなくみりんも欲しいところだが、存在するか分からない調味料を言ってもメイスには伝わらないだろう。

『ふむ。それは良いな。では、ショーユとやらを手に入れよう』

 メイスはタレを気に入ったのか、醬油を手に入れるつもりでいる。
 一体どこで手に入れるつもりなのか知らないが、そんな簡単に見つかるのだろうか。

 ここは異世界であって日本とは違う。
 料理は美味しかったが、はっきり言って味付けはもの足りなさを感じていた。
 だから、懐かしい味付けの串焼き肉を口にした時、単調な味でなかったことに感動してしまった。
 それに、タレを作るにしても材料が揃わなければ同じような味にはならない。
 私は念を押すようにメイスに確認した。

「……一応、さっきの店主に醬油を売っている店を聞いてみるけど、醬油以外の調味料も必要だよ?全部揃うか分からないけど、それで良い?」

『ああ、それで構わない。では、さっさとしょくしてショーユとやらを手に入れよう』

 すっかり機嫌が直ったメイスは楽しそうに肉にかじり付くと、皿についたタレまで綺麗に舐めとった。
 串焼き肉でご機嫌になるなんて、案外チョロいなと思ったのは内緒だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。) とある孤児院で私は暮らしていた。 ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。 そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。 「あれ?私って…」 そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル
ファンタジー
※本作は改題・改稿をして場所を移動しました。 現在は 『従魔と異世界スローライフのはずが、魔王と噂されていく日々』 として連載中です。2026.1.31 どうして、魔獣と呼ばれる存在は悪者扱いされてしまうんだろう。 あんなに癒しをくれる、優しい子たちなのに。 そんな思いを抱いていた俺は、ある日突然、命を落とした――はずだった。 だけど、目を開けるとそこには女神さまがいて、俺は転生を勧められる。 そして与えられた力は、【嫌われ者とされる子たちを助けられる力】。 異世界で目覚めた俺は、頼りになる魔獣たちに囲まれて穏やかな暮らしを始めた。 畑を耕し、一緒にごはんを食べて、笑い合う日々。 ……なのに、人々の噂はこうだ。 「森に魔王がいる」 「強大な魔物を従えている」 「街を襲う準備をしている」 ――なんでそうなるの? 俺はただ、みんなと平和に暮らしたいだけなのに。 これは、嫌われ者と呼ばれるもふもふな魔獣たちと過ごす、 のんびり?ドタバタ?異世界スローライフの物語。 ■小説家になろう、カクヨムでも同時連載中です■

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...