【完結】 あの頃と変わらない君へ

うみの渚

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第15話 イヴォンヌの末路


「大罪人、イヴォンヌ・バートリの身柄を研究の実験体として、魔導大国セラーム国に引き渡すことが決定した。禁忌を犯した大罪人ではあるが、シャルダン侯爵家から死罪に処するより、今後魅了で苦しむ者が二度と現れないようにしてほしいと頭を下げられた。すでに魅了の魔道具は壊れて無いが、念のため拘束具をつけさせる。其方たちは魔法耐性を上げる魔道具を身に付けておくように」

 王宮騎士団長と魔導士長と思しき二人が会議室に揃って現れたかと思うと、開口一番そう伝えてきた。
 それぞれの団を纏めている騎士と魔導士が互いに顔を見合わせて頷いた。

 前代未聞の事件ということもありイヴォンヌの名前は悪い意味で有名になり、貴族のみならず平民にも広く知れ渡っていた。
 それほどの大事件に騎士も魔導士も対応に追われ、万全を期すためにここ数日休む間もなく奔走していた。

「は。かしこまりました。セラーム国に引き渡すとのことですが、警護をするための人員はいかがなさるのでしょうか?」

 ある騎士が騎士団長に質問を投げかけた。
 問いかけられた騎士団長がその騎士に向かって説明をする。

「そのことなら問題ない。セラーム国の魔導士長が一刻も早く引き取りたいと申し出てくれた。転移魔法の許可が下りたらすぐにでも引き取りに来てくれるそうだ。それまでは大罪人の警戒を怠らないように」
「は!かしこまりました」

 禁忌の大罪を犯した者の扱いに戸惑っていた騎士の表情から、ほんの少しだけ緊張が和らいだのが見てとれた。

「このところ張りつめた緊張状態が続いて申し訳なく思う。大罪人の扱いに慎重を期さねばならない。…だが、後数日の辛抱だ。皆、心してかかってほしい」

 騎士団長の労いの言葉に、その場に居た皆の気持ちが一つに纏まった。







 それから四日後。
 セラーム国から魔導士長が数名の魔導士を引き連れて現れた。
 簡単に自己紹介を済ませた後、イヴォンヌが居る地下牢に向かう。

 イヴォンヌが収監されている地下牢は昼間でも薄暗く湿気が多い上にカビ臭い。
 下位とはいえ、貴族のしかも令嬢が収監されているのは非常に珍しく、監視役も暴れて騒ぎ立てるイヴォンヌに辟易していた。
 地下牢に響き渡る足音に気づいたイヴォンヌが鉄格子に手をかけ、そこから顔を覗かせるようにして声を荒げた。

「ちょっと!早くここから出して!ルークが待っているのよ!」

 黒いローブを頭から被った長身の男性が、鉄格子に近づきながら口を開いた。

「これはまた…。なんとも活きの良い実験体だな。反省もなしか。いっそ清々しいな。我々としても罪悪感を持たずに研究に勤しめるのは実にありがたい」
「はぁ!?実験体!?何言ってんの!そんなことより早くここから出してよ!ルークが待っているって言ってるじゃないの!」

 イヴォンヌは全ての罪が暴かれた後も、認めることも反省する素振りすら見せなかった。
 地下牢に収監されてからも口をついて出るのは、ここを出せとルークが待っていると言うのみで、謝罪の言葉すら未だにない。

「はぁ…。耳障りな声だ。アレの所有権はすでにこちらに移っている。騎士団長。アレの口を塞いでも構わないだろうか?耳が痛くて敵わん」

 黒いローブの男性は耳を押さえる仕草をしながら、屈強な体躯の男性に視線を移した。

「はい。もちろんでございます。大罪人の処遇は貴国に一任いたしました。すぐに死なせなければ我が国は一切関知いたしません。国の発展のために存分に研究をなさってください」

 二人は時候の挨拶を交わすような感覚で会話を淡々と続けていく。
 その様子を鉄格子の間から聞いていたイヴォンヌが、顔色を青くさせて喚き始めた。

「アレって私のこと!?口を塞ぐって…研究って…。一体何の話し――」

 指をぱちんと鳴らす音が聞こえた瞬間、地下牢に静寂が訪れた。
 イヴォンヌは口をぱくぱくさせているが、その口からは先ほどまでの金切り声は出てくることはなかった。

「お前に声はもう必要ないだろう。生かしてもらえるだけありがたいと思うんだな。お前は大罪人だ。大罪人に人権はないんだよ」

 目深に黒いローブを被った男性が、口の端を上げてニヤリと笑った。
 背筋が凍りつくような笑みに、イヴォンヌは鉄格子を握りしめガタガタと震えていた。



 どうしてこんな事になってしまったのか。
 ただ、ルークが欲しかった。
 ルークに愛してもらいたかった。
 邪魔者を排除すれば、ずっと一緒に居られると思った。
 ただ、それだけだった。



 イヴォンヌはセラーム国へ実験体として連れて行かれてからも、自分の行動を省みることはなかった。
 実験体として暮らすことを余儀なくされたイヴォンヌは、その大半を研究所で過ごし辛く苦しい日々は死の間際まで続いた。

 当然のことながら研究が進んだセラーム国は、魔導大国としてますます名を馳せていったのは言うまでもない。

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