29 / 36
男爵令嬢はただ平穏に生きたいだけ
第8話
しおりを挟む調査が終了したとのことで、学園を再開して数日が経った。
私は、先生に体調がまだ万全ではないからと言われて昨日まで休んでいた。
「アリッサ様、ごきげんよう」
「アリッサ嬢、次の授業の準備は済んだか?」
学園に復帰したばかりなのに、なぜかこうして声をかけられることが増えて戸惑ってしまう。
その中には、あのニコラウスの姿もあった。
困った。
小説の主要人物と関わらないようにと気をつけていたのに、これでは今までの努力が無駄になってしまう。
私はただ平穏に生きていきたいだけなのに……。
そんな私の気持ちを知らないニコラウスが、側近を引き連れて近づいてきた。
「アリッサ嬢。体調が優れずに休んでいると聞いて心配していた。健勝そうで安心した」
爽やかな笑みを浮かべるニコラウスの言葉に合わせて、側近までもが笑顔でうんうんと頷く。
私は頬を引きつらせながら無理矢理笑顔を作り、何とか声を絞り出す。
「ご心配をおかけしました。しっかりと休養を取りましたので大丈夫です。お気遣い痛み入ります」
ニコラウスに気づかれないようにそっと後退るが、ずいっと近寄られて身構える。
「アリッサ嬢は随分と謙虚なのだな。さすが光の女神に愛されているだけある。皆もそう思うだろう?」
後ろを振り返り、側近に同意を求めるニコラウス。
「はい。あの場に居た者の話によると、それはそれは神々しかったとか。私も一目見てみたかったです」
……は?
光の女神?
神々しい?
一体何のこと?
口をポカンと開けて固まっていると、ニコラウスが更に話を続けた。
「アリッサ嬢は悪霊に憑りつかれた男子生徒を光の魔法で払ったのだよ。覚えていないのかい?」
え!?
あの黒い靄が悪霊だったってこと!?
それよりも、私が光の魔法で悪霊を払ったって本当?
全く記憶に無いのだけど!?
どちらにせよ、この状況はかなりやばい。
明らかに顔色が悪くなった私に、心配そうな面持ちでニコラウスが声をかけてきた。
「……アリッサ嬢。顔色が優れないようだが大丈夫かい?」
私は咄嗟に、今がニコラウスから逃げるチャンスだと判断して具合が悪そうな演技をした。
「……申し訳ありません。少し具合が優れないようです。一人で行けますのでこれで失礼します」
「え……。それは大変だ。私が付き添おう」
一人で大丈夫だと伝えたのに、食い下がってくるニコラウスに私はもう一度告げた。
「いいえ。私のような者に付き添ってもらうなど畏れ多いことです。それでは失礼いたします」
言い終えるなりくるっと踵を返した私は、ポカンと口を開けているニコラウスたちを置いてさっさとその場を後にした。
3
あなたにおすすめの小説
【完結】シロツメ草の花冠
彩華(あやはな)
恋愛
夏休みを開けにあったミリアは別人となって「聖女」の隣に立っていた・・・。
彼女の身に何があったのか・・・。
*ミリア視点は最初のみ、主に聖女サシャ、婚約者アルト視点侍女マヤ視点で書かれています。
後半・・・切ない・・・。タオルまたはティッシュをご用意ください。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!
恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。
誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、
三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。
「キャ...ス...といっしょ?」
キャス……?
その名を知るはずのない我が子が、どうして?
胸騒ぎはやがて確信へと変わる。
夫が隠し続けていた“女の影”が、
じわりと家族の中に染み出していた。
だがそれは、いま目の前の裏切りではない。
学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。
その一夜の結果は、静かに、確実に、
フローレンスの家族を壊しはじめていた。
愛しているのに疑ってしまう。
信じたいのに、信じられない。
夫は嘘をつき続け、女は影のように
フローレンスの生活に忍び寄る。
──私は、この結婚を守れるの?
──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの?
秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。
真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!
皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]
風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが
王命により皇太子の元に嫁ぎ
無能と言われた夫を支えていた
ある日突然
皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を
第2夫人迎えたのだった
マルティナは初恋の人である
第2皇子であった彼を新皇帝にするべく
動き出したのだった
マルティナは時間をかけながら
じっくりと王家を牛耳り
自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け
理想の人生を作り上げていく
傷跡の聖女~武術皆無な公爵様が、私を世界で一番美しいと言ってくれます~
紅葉山参
恋愛
長きにわたる戦乱で、私は全てを捧げてきた。帝国最強と謳われた女傑、ルイジアナ。
しかし、私の身体には、その栄光の裏側にある凄惨な傷跡が残った。特に顔に残った大きな傷は、戦線の離脱を余儀なくさせ、私の心を深く閉ざした。もう誰も、私のような傷だらけの女を愛してなどくれないだろうと。
そんな私に与えられた新たな任務は、内政と魔術に優れる一方で、武術の才能だけがまるでダメなロキサーニ公爵の護衛だった。
優雅で気品のある彼は、私を見るたび、私の傷跡を恐れるどころか、まるで星屑のように尊いものだと語る。
「あなたの傷は、あなたが世界を救った証。私にとって、これほど美しいものは他にありません」
初めは信じられなかった。偽りの愛ではないかと疑い続けた。でも、公爵様の真摯な眼差し、不器用なほどの愛情、そして彼自身の秘められた孤独に触れるにつれて、私の凍てついた心は溶け始めていく。
これは、傷だらけの彼女と、武術とは無縁のあなたが織りなす、壮大な愛の物語。
真の強さと、真実の愛を見つける、異世界ロマンス。
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される
柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。
だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。
聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。
胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。
「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」
けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」
噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情――
一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる