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その令嬢危険物につき
第3話
しおりを挟む「お前はナディアという娘と別れたと言っていたではないか!この馬鹿息子が!」
「ひっ!ち、父上が投資に失敗しなければ俺は今頃ナディアと結婚していたのに、それはあんまりだ!」
「なんだと!」
私は娘マリアンヌと前侯爵が交わした誓約書を片手に、婚姻の無効の手続きを行うために前侯爵家に訪れていた。
前侯爵に呼び出されたダリウスは、この婚姻がどれだけ重要な意味を持っていたのか理解すらしていないのか喚き散らしている。
この男が現侯爵とは何とも嘆かわしいことだ。
未だに言い合いを続ける彼等の間に割って入る。
「おほん!お二人とも、言い合いはそれまでにしていただきたい。ドミニク前侯爵、以前娘と交わした条件を覚えておられておいでか?」
話を振られた前侯爵は、三年前に交わしたことを忘れたのか首を傾げた。
やはり覚えていなかったか。
私は誓約書を机に並べて置いたあと、前侯爵を見据えて告げた。
「こちらの誓約書は弁護士立会いの下に作成されたものです。もはやお忘れではございますまいな?」
机に置かれた誓約書を見た前侯爵はようやく思い出したのか、途端に焦りを滲ませて言い訳を口にした。
「わわ忘れてなどおらん!今、こうしてダリウスを説得しておるではないか!」
……説得には見えなかったのだが?
このままでは埒が明かないと判断した私は、隣に視線を移した。
その視線を受けた彼が静かに頷き口を開いた。
「ドミニク前侯爵。私は以前誓約書の作成に立ち会った弁護士です。今日が期限の三年となりました。フォルクス伯爵家とドミニク侯爵家との婚姻は、今を持ちまして無効となりました。速やかに婚姻無効の手続きを行います。このことは王家から承認をいただいておりますので、異議の申し立ては王家への不敬となります。尚、現侯爵家の領地はフォルクス伯爵家に譲渡されますので、そちらの手続きもお願いいたします」
淡々と話を進めていく弁護士に、前侯爵は顔色を青ざめさせて反論する。
「いくら何でも話が急すぎる!ダリウスはどうなるのだ!」
しかし、弁護士は顔色を変えずに淡々と告げた。
「誓約書を交わした段階でご理解していただいたものと思っておりましたが、前侯爵は不服だと仰るのですね?それは王家への不敬と見做されますが構いませんか?」
「っ!」
そう告げられた前侯爵はわなわなと体を震わせていたが、それ以上反論出来ずに諦めたように椅子に体を預けた。
一方、ダリウスは状況が理解出来ないまま、首を傾げて私達のやり取りを茫然と眺めていた。
断りきれなかったとはいえこんな男に嫁がせてしまったことを後悔したが、広大で肥沃な領地を手に入れられたことに私はほくそ笑んだ。
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