【完結】恋愛 短編集

うみの渚

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亡国の聖女 四百年越しの愛

第1話

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 むかしむかし、今はもうその国の名前も思い出せない程むかし。

 そこに人々が住んでいたことなどなかったかのように鬱蒼とした森が広がり、地面を一面の草花で覆われたその土地は、四百年程前までは活気あふれる緑豊かな強大な大国であった。
 そんな強大な国が一夜にして滅んだという。
 大地は見る見る砂塵と化し湖からは水が蒸発したという。
 農作物は育たず、家畜はやせ細り、民達は国を捨てるしかなかった。
 王族や高位貴族はなす術もなく、取る物も取らず命辛々周辺国に逃げ出したが、その後の消息は不明だ。

 一体何が起こったのか。
 国を捨てた一部の民達は、神の愛し子を蔑ろにしたから、神が怒ったのだと青冷めていたそうだ。

 神の愛し子。それはこの世界で唯一神に愛された者のことを指す。
 神の怒りを買い国が滅んでから百年間は、草木一本生えることはなかったという。
 その後、徐々に今の姿になっていったとは植物学者と歴史学者の出した見解だ。
 真実を知る者は今は誰もいない。
 だが、ただ一人その理由を知っている人物が現れた。

 広大な河を挟んだ隣国にその人物は暮らしていた。

 彼の名前はケイン。平民の彼にはファミリーネームはない。
 この国の端に彼の生まれ育った村がある。
 もの心つく頃から剣や魔術の腕を磨くその姿には鬼気迫るものがあった。
 一体何が彼をそこまで急き立てるのか、家族は困惑を隠しきれずにただ見守ることしか出来なかった。
 




 四年が経ち、成人を迎えた彼は冒険者になっていた。
 腕を上げ、経験を積み、時間を掛けて準備をして来た。
 いよいよ、今は名もなきあの地へ出発する時がきた。

 目の前には大河が流れている。
 対岸は遥か遠くに見えているが、流れは然程激しくない。
 ジッと見据えたあと目を閉じた。
 瞑想でもしているのか、微動だにしない。
 彼の身体を風が優しく撫でていく。

 瞬間、カッと目を見開いた彼の瞳には、強い決意が宿っていた。
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