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瀬野川奏
しおりを挟む「眠い……」
私は眠い目を擦りながら書類の沢山入った鞄を肩に掛けて職員用の昇降口を目指していた。今年の春から中学生の頃からの夢だった教師になった。本当は小学校の教師を目指していたのだけれど、さすがにそこまでは上手く行かない。とりあえず高校の教師になれただけでも万々歳だ。
学生だった頃と違い、社会人というものは本当に時間が無い。しかも教師という職業は忙しいと聞いてはいたけれど、まさかここまでとは思わなかった。授業の準備にテスト作り、しかも新人なので覚える事、勉強する事も多い。受け持ちの部活の事、クラスの事……、それは本当に目が回る程に忙しいのだ。ここの所彼氏の圭くんとゆっくり会う事もままならない。
「うー。やっぱり昨日は家に帰れば良かったかな?でも、調子悪そうだったし、あのまま残して帰るのも心配だというか……」
同じ県だと言っても圭くんは仙台市で仕事をしている。私が住んでいる場所からは車を使ってもかなりの距離がある。だから今日は4時起きだ。
大切な授業がある事はわかっていた。ずっと前から。だから本当は彼氏に会いに行っている場合じゃないという事も、自分は教師失格だと思う。けれども、少し無理をしてでも、一目でいいから圭くんの顔が見たかったのだ。だって、彼の笑った顔を見るだけで元気が出る。
でも、やっぱり無理しちゃったかな。でもでも、圭くん調子悪そうだったから行って良かったかもしれない。誰も居ないまま過ごすよりは心強いよね……?いや、反対に気を遣わせちゃったかな?
そんな事を思いながら目を擦る。
「さすがに眠たいな……」
そしてまた彼の事を考える。圭くん、良くなったのかなぁ?そんなことを思いながら昇降口へと着くと靴から上履きへと履き替えた。その時だった。私の横を背の高い少年が通り過ぎた。
「あ、涼くん……」
「おはようございます。瀬野川先生」
「おはよう」
「ちなみにその呼び方、やめた方がいいと思いますよ」
「あ、そうだね。小坂くん。早いね。朝練?」
「はい」
涼くんは私の言葉に淡々と受け答えをする。
「変わってないねー。北川高校バレー部」
「はぁ?そうですか?先生が居た時代とは全然違いますよ」
「……飛べない烏、北川でしょ?」
「知ってんじゃないですか」
「そうだけれど、違うよ。飛べないじゃない。飛ぶ機会が無いだけ。きっと北川高校はこれから大きく変わる。そんな気がする」
「何が解るんですか?しかも現国の先生ってポエマーなんですか?」
それだけ言うと小坂涼くんは私の方も見ず、すたすたと早足に歩いて行ってしまった。
「また余計な事言っちゃったかな……」
涼くんは私のお付き合いしている人、圭くんの弟だ。そして私の現国の授業の受け持ちの生徒。でも、何となく涼くんには嫌われている気がする。初めて会った時から凄い目で睨まれるのだ。私、涼くんに何かしたのだろうか?気になって圭くんに聞いた事があるのだけれど「涼は愛想ないから大丈夫」と笑われて終わった。
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