星屑のビキニアーマー

ぺんらば

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第2章 星屑のビキニアーマー

ほのかと雪見

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 兄がいなくなってしまったことに、妹のほのかだけが気付いていた。最初は両親がどうかなってしまったのだと思っていた。しかし、そうではないと気付くのにあまり時間はかからなかった。

 ほのかが異常を感じて間もなく、アルバムの写真からタケルの姿は消えた。そして、兄の部屋からは私物が全て無くなっていた。ほのかは思った。やがては自分の記憶からも兄が消えてしまうのではないかと。

 夕飯前、ほのかはこっそりタケルの高校まで行ってみた。しかし、タケルを知る者は一人もいなかった。小須藤タケルの名前は、在校生名簿にすら載っていなかったのである。

「あれ? ほのかちゃん?」

 立ち尽くすほのかに、笠原雪見が声をかけた。以前、兄が自慢げに家へ連れてきたガールフレンド。その顔を、ほのかはハッキリ覚えている。

「もしかして、タケルくんを探しに来たの?」

「⁉︎ 兄のこと、覚えてるんですか?」

「うん。覚えてるよ……」

 雪見はタケルがこうなった原因をケレンから聞いていた。

 ガーランドの魔法で消滅したかに見えたタケルだったが、理由から、異世界で生きているという結論に至ったのである。

 正規の移動方法を取らずに異世界へ飛んだタケルは、二つの異なる世界の間に大きな混乱を招いてしまった。タケルを失った世界は、その歪みを無かったことにするため、自らを再構築し始めた。それは誰にも止めることはできない。宇宙規模の力が働いているのだ。しかし、魔法学に詳しいケレンは、これを理由に、タケルの生存を確信することができたのである。

「兄に何があったのか、知ってることを教えてください」

 ほのかは頭を深く下げて懇願した。その小さな肩は、様々な想いが込み上げて震えている。

「えっと、あのね。タケルくんは……」

 ほのかの真っ直ぐな気持ちが伝わってくるからこそ、雪見は本当のことを話せずにいた。兄を想う少女に話すには、事実があまりに現実離れし過ぎているのだ。

「雪見よ。何を躊躇ためらっている。この不安そうな少女に、タケルが異世界に行ってしまったことを話してやれば良いだろう」

 雪見の背後からケレンがのそっと姿を現した。ほのかにしてみれば、いきなりコスプレイヤーが会話に参加してきたようなものである。驚いて目を丸くし、謎のコスプレ男を凝視する。

「兄の……友人なんですか?」

「そうとも。俺はタケルの友人だ。そんな俺から直に話してやろう。タケルの身に起きた衝撃の真実を!」

 ケレンは身振り手振りを交えながら、ほのかに経緯を説明した。

「──であるからして、ガーランドはタケルを時空魔法で異世界に飛ばしたわけで。俺は勇者だから、タケルを忘れることなく、こうして今も──」

 ケレンの熱弁にほのかは圧倒されていた。異世界や魔法といった言葉を、いい歳した大人が真顔で口にしているのだ。ほのかの警戒心は顔に出てしまっている。

「不安そうだな、少女よ。だが心配はいらない。タケルを異世界から連れて帰れば、全てが元に戻るんだ」

 ほのかはついに耐えられなくなり、ケレンから目を逸らした。

「そんな話を私に信じろと? からかわないで下さい。私は本気なのに……。最低です」

「むっ? 今の説明で分からなかったか? ならば視点を変えてもう一度話してやろう」

「ケレンさん待って! あとは私が……」

 雪見がすかさず二人の間に割って入った。

「ほのかちゃん。いきなりは信じられないと思うけど、ケレンさんが今話したことは全部本当なの。うーん……。あ、そうだ! 私の魔法を見てもらえれば、きっと信じてもらえるはずだよ」

 雪見はほのかの目の前で魔法を使ってみせた。青く輝く液体が、ほのかの顔を照らしだす。興味津々な表情に、雪見の顔にも笑みが漏れた。

「すごい……。魔法とか、本当にあるんだ……」

「うん。だから安心して。タケルくんは私たちが必ず連れ戻すから」

「笠原さん、私も一緒に行きたいです。どうやったら兄のいるところへ行けるんですか?」

「明日の夜、この学校の屋上に時空の扉が開くの。でも、一度に通れるのは二人だけ……。だから、ほのかちゃんを一緒に連れて行くことはできないの。ごめんね」

「そんな……」

 だが、これしきで諦めるようなほのかではない。

「嫌です……。私は行きたい。だって、みんな兄を忘れてしまったのに、私だけは覚えているんですよ。それって、とってもイレギュラーなことじゃないんですか? 私はきっと、兄のもとへ行かなきゃいけないんです」

「ほのかちゃんの記憶がそのままなのは確かに不思議だよね……。私たちは魔法の力で記憶を維持できてるようだけど」

 雪見は首を傾げた。兄妹愛などで簡単に片付けられる問題でもないだろうと思いつつ、ケレンにヘルプの視線を向ける。

「ケレンさんはどう思う?」

「そりゃきっと、兄妹愛だ。何にせよ、時空の扉を通るのは俺と雪見の二人で決まりなんだよ。どうしても行きたいのなら、俺たちが行った後、また扉が開くのを待てば良い。その時はそうだな……。あの真面目そうな生徒会長と一緒に来い。奴はなかなか筋が良さそうだからな」

 ほのかは悔しかった。確かに自分は異世界の知識も無ければ魔法も使えない。行くにふさわしいのは目の前の二人だと頭では分かっているのだ。

「扉は……そう何度も開くものなんですか?」

「さぁな。開かんかもしれん。だが、それは問題じゃない。タケルは俺たちが連れ戻す。そして、タケルをこんな目に遭わせ、妹を悲しませたガーランドを、このこぶしで一発殴ってきてやる」
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