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5 決意のブス
33 隠れんぼ
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「でーんーかー、晃瑛殿下ー。こんにちはー」
王太子殿下の殿舎の正面入口で、私は外から声を張り上げた。ここまで来て不在だったら勿体ない。この殿舎中に聞こえるよう、何回か大きな声で呼びかけていると、奥の方でガタガタと音がして、しばらくしてから黎が現れた。
「これはこれは青妃、よくぞお越しくださいました」
「突然ごめんなさい。もう長いことお越しいただけないものですから」
黎は微笑んで、快く中へ招き入れてくれた。
だが、殿下の姿はそこになかった。
「殿下はどちらに?」
「この建物内のどこかに。この間の処刑の日から、人に会うのが怖いようで」
「私が来たから逃げたってこと?」
「まぁまぁ、とりあえずお茶でもいかがですか。お菓子でも食べていたら、殿下もひょっこり出てくるかもしれません」
まるで珍獣扱いである。
ここで鬼ごっこをしても仕方ないかと、私は彼の提案に従うことにした。あまり話は聞かれたくなかったので、お供の宮女は別室にて休憩していて貰うことにした。
湯気を立ててとくとくと注がれるお茶から、懐かしい香りがする。
「この、お茶は……」
「東龍国からの輸入品です。青妃は確か、あちらの出身でしたね」
「このお菓子も。なかなか食べられない憧れの味だったの。嬉しいわ」
今日は何故か、祖国を思い出させるようなことが連続で起きる。あの国は、どうなっているだろうか。殺施王の噂は伝わっているだろうか。……いや、考えるのはよそう。今は目の前のことに向き合っていかなければならない。
「殿下は、お身体の具合が悪いというわけではないのね?」
「精神面以外は、至ってお元気でいらっしゃいます。ただ、先日の衝撃があまりにも大きかったようです」
それは確かに、ほとんどの人間にとっても同じだろう。私だって、数日はほとんど食べ物を食べられなかった。あんなに性的で残虐で卑劣な行為を直接目にしたのは、当然初めてだった。
「ねぇ黎、由貴妃は、あれ本当に人間なの? 妖魔が人間に化けてるんじゃないかしら」
「……人間だろうが妖魔だろうが、状況は変わらないのです」
「まぁ、そうね。考えても無駄だったわ」
しばらく黎と当たり障りない話をしていると、どこかでカサカサと布の擦れる音が聞こえた。
私は物音を立てないように立ち上がり、そおっと音の聞こえた衝立の裏へ回った。
「みーつけた」
私がそう言うと、王太子殿下はまるで雷に撃たれたようにビクッと身体を跳ねさせた。そしておそるおそる、怯えた顔をこちらに向ける。
「最初からこの部屋にいたんじゃない。一緒に食べましょ。今日のお茶菓子は、私もおすすめよ」
彼は観念したのか、視線を合わせないまま立ち上がり、同じ卓についた。黎が新たに淹れなおしてくれたお茶を飲んでから、私は話を切り出した。
「ねぇ晃瑛、あの日から私、色々考えていたんだけど……やらなければならないことが、二つあると思うの」
「……」
「二つ、とは?」
黙っている王太子殿下の代わりに、黎が問いかける。
「まずは、阿銅羅教の調査。市井で一体何が起きているのか、明らかにしないといけない」
私は一呼吸置いてから、続けた。
「そして、貴方を国王にすること。現国王と由貴妃を廃し、政権を取る」
王太子殿下の殿舎の正面入口で、私は外から声を張り上げた。ここまで来て不在だったら勿体ない。この殿舎中に聞こえるよう、何回か大きな声で呼びかけていると、奥の方でガタガタと音がして、しばらくしてから黎が現れた。
「これはこれは青妃、よくぞお越しくださいました」
「突然ごめんなさい。もう長いことお越しいただけないものですから」
黎は微笑んで、快く中へ招き入れてくれた。
だが、殿下の姿はそこになかった。
「殿下はどちらに?」
「この建物内のどこかに。この間の処刑の日から、人に会うのが怖いようで」
「私が来たから逃げたってこと?」
「まぁまぁ、とりあえずお茶でもいかがですか。お菓子でも食べていたら、殿下もひょっこり出てくるかもしれません」
まるで珍獣扱いである。
ここで鬼ごっこをしても仕方ないかと、私は彼の提案に従うことにした。あまり話は聞かれたくなかったので、お供の宮女は別室にて休憩していて貰うことにした。
湯気を立ててとくとくと注がれるお茶から、懐かしい香りがする。
「この、お茶は……」
「東龍国からの輸入品です。青妃は確か、あちらの出身でしたね」
「このお菓子も。なかなか食べられない憧れの味だったの。嬉しいわ」
今日は何故か、祖国を思い出させるようなことが連続で起きる。あの国は、どうなっているだろうか。殺施王の噂は伝わっているだろうか。……いや、考えるのはよそう。今は目の前のことに向き合っていかなければならない。
「殿下は、お身体の具合が悪いというわけではないのね?」
「精神面以外は、至ってお元気でいらっしゃいます。ただ、先日の衝撃があまりにも大きかったようです」
それは確かに、ほとんどの人間にとっても同じだろう。私だって、数日はほとんど食べ物を食べられなかった。あんなに性的で残虐で卑劣な行為を直接目にしたのは、当然初めてだった。
「ねぇ黎、由貴妃は、あれ本当に人間なの? 妖魔が人間に化けてるんじゃないかしら」
「……人間だろうが妖魔だろうが、状況は変わらないのです」
「まぁ、そうね。考えても無駄だったわ」
しばらく黎と当たり障りない話をしていると、どこかでカサカサと布の擦れる音が聞こえた。
私は物音を立てないように立ち上がり、そおっと音の聞こえた衝立の裏へ回った。
「みーつけた」
私がそう言うと、王太子殿下はまるで雷に撃たれたようにビクッと身体を跳ねさせた。そしておそるおそる、怯えた顔をこちらに向ける。
「最初からこの部屋にいたんじゃない。一緒に食べましょ。今日のお茶菓子は、私もおすすめよ」
彼は観念したのか、視線を合わせないまま立ち上がり、同じ卓についた。黎が新たに淹れなおしてくれたお茶を飲んでから、私は話を切り出した。
「ねぇ晃瑛、あの日から私、色々考えていたんだけど……やらなければならないことが、二つあると思うの」
「……」
「二つ、とは?」
黙っている王太子殿下の代わりに、黎が問いかける。
「まずは、阿銅羅教の調査。市井で一体何が起きているのか、明らかにしないといけない」
私は一呼吸置いてから、続けた。
「そして、貴方を国王にすること。現国王と由貴妃を廃し、政権を取る」
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