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7 街へ出るブス
55 そうだ寺院へ行こう
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転機は、突然訪れた。
あれからまた幾度めか教会を訪れた時のことだった。
=======================
*過去と他人は変えられない*
*自分は環境を選ぶことができる*
=======================
「貴方達は、今いる場から離れることができないと思い込んでいませんか。だから、そこの人間関係で悩んで苦しむ」
「だって離れたら職を失って路頭に迷ってしまうし家族に迷惑がかかります」
「もちろん、今の場に留まることを止めはしない。だが、違う選択肢もあるのだと頭に入れておくだけで、心の支えになるでしょう」
「違う選択肢とは?」
「阿銅羅教の寺院では、そのような人達を受け入れます。仲間は皆阿銅羅教を学んだ者たち。きっと理想の生活が送れるでしょう」
ーー寺院。
私たちが求めていた情報に、ついに辿り着いた。
さっそく寺院へ行く方法を尋ねようとすると、道士が続けた。
「ただし、寺院へ来る覚悟のある者は、元の場へは帰らないつもりで来ること。中途半端はいけません。本気の覚悟の上で、選択をするのです」
いつでも行ったり来たり都合良くは使えない、ということらしかった。ただ時々学びたい者は教会通いを続ければいい、ということだった。
大衆の中から質問が上がる。
「寺院では、どのように生活するのですか?」
「それぞれ仕事をしてもらいます。適性を見て与えたり、希望もできる限り考慮します」
仕事を自分に合わせて与えて貰える。そして希望を聞いてくれる。このことは、多くの者にとって斬新で魅力的に聞こえることだろう。
現に、私がうっかりそう思ってしまった。
「仕事」というものは自動的にどこかから勝手に与えられるものであり、個人に選択の余地などないのが一般的だからだ。多くの者は親の職業を継いだりして、そこに自分の意思を介入させることはあまりない。
種琳のように、自らの意思と希望によって仕事を作り出す者など、滅多にいるものではないのだ。
「三日後の今日と同じ時間。寺院へ行きたい者はここへ集まるように」
*
「一度行ったら戻れないのか……そこが怖いとこだよな」
「絶対ダメですよ殿下。貴方は王太子なんだから、帰れない場所へなんて行くことは許しません」
案の定、黎は即座に反対した。
さすがに王太子の立場で、一日単位のお忍び城下町探索までは許せても、それ以上を認めることはできないだろう。
彼の代わりはいないのだから。
「だとすると、違う方法を考えないといけないわね。結局ただ阿銅羅教の教会に通う信者っぽくなっただけだったわ」
黎の淹れてくれたお茶を味わいながら、振り出しに戻ってしまった無念さを感じていた。
この数回の外出で、殿下を危険に晒すことは結果的になくて安心していたところだ。だが、寺院まで行ってしまったら、それも保証できない。これ以上踏み込むことはできないのだと、きつく念を押された。
あれからまた幾度めか教会を訪れた時のことだった。
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*過去と他人は変えられない*
*自分は環境を選ぶことができる*
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「貴方達は、今いる場から離れることができないと思い込んでいませんか。だから、そこの人間関係で悩んで苦しむ」
「だって離れたら職を失って路頭に迷ってしまうし家族に迷惑がかかります」
「もちろん、今の場に留まることを止めはしない。だが、違う選択肢もあるのだと頭に入れておくだけで、心の支えになるでしょう」
「違う選択肢とは?」
「阿銅羅教の寺院では、そのような人達を受け入れます。仲間は皆阿銅羅教を学んだ者たち。きっと理想の生活が送れるでしょう」
ーー寺院。
私たちが求めていた情報に、ついに辿り着いた。
さっそく寺院へ行く方法を尋ねようとすると、道士が続けた。
「ただし、寺院へ来る覚悟のある者は、元の場へは帰らないつもりで来ること。中途半端はいけません。本気の覚悟の上で、選択をするのです」
いつでも行ったり来たり都合良くは使えない、ということらしかった。ただ時々学びたい者は教会通いを続ければいい、ということだった。
大衆の中から質問が上がる。
「寺院では、どのように生活するのですか?」
「それぞれ仕事をしてもらいます。適性を見て与えたり、希望もできる限り考慮します」
仕事を自分に合わせて与えて貰える。そして希望を聞いてくれる。このことは、多くの者にとって斬新で魅力的に聞こえることだろう。
現に、私がうっかりそう思ってしまった。
「仕事」というものは自動的にどこかから勝手に与えられるものであり、個人に選択の余地などないのが一般的だからだ。多くの者は親の職業を継いだりして、そこに自分の意思を介入させることはあまりない。
種琳のように、自らの意思と希望によって仕事を作り出す者など、滅多にいるものではないのだ。
「三日後の今日と同じ時間。寺院へ行きたい者はここへ集まるように」
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「一度行ったら戻れないのか……そこが怖いとこだよな」
「絶対ダメですよ殿下。貴方は王太子なんだから、帰れない場所へなんて行くことは許しません」
案の定、黎は即座に反対した。
さすがに王太子の立場で、一日単位のお忍び城下町探索までは許せても、それ以上を認めることはできないだろう。
彼の代わりはいないのだから。
「だとすると、違う方法を考えないといけないわね。結局ただ阿銅羅教の教会に通う信者っぽくなっただけだったわ」
黎の淹れてくれたお茶を味わいながら、振り出しに戻ってしまった無念さを感じていた。
この数回の外出で、殿下を危険に晒すことは結果的になくて安心していたところだ。だが、寺院まで行ってしまったら、それも保証できない。これ以上踏み込むことはできないのだと、きつく念を押された。
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