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7.現在:「およめさん」を夢見てた茉莉ちゃん
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彼と距離を置くことになった今、私は休日の時間を持て余していた。
一人暮らしをし始めた頃は家事だけでいっぱいいっぱいだったが、それも慣れきって午前中だけで家事を終えてしまう。
小学校の頃「およめさん」になりたいと語った、茉莉ちゃんのことをなぜか思い出す。なんとなくSNSの検索窓口に彼女の名前を入力して、ボタンを押した。漢字フルネームで入力したところ、一発でヒットしてしまった。"知らない苗字""元々の苗字""名前"という構成で書かれているところを見ると、念願叶って「およめさん」になったのだろう。
彼女のページへ飛ぶと、「最近はこっちに投稿することが多いです★」と別のSNSのリンクがご丁寧に貼ってある。顔写真に、漢字で旧姓と新姓の両方に、他のSNSページ……こんなに明け透けに晒してしまって大丈夫なのかな、とわざわざ検索した自分を棚に上げて少し心配になった。
写真投稿が中心のそのSNSは、割と想像通りだった。手作りの料理に子供のイベントなどが、パステルとスタンプで加工された写真で溢れている。肌も白く目も大きくしているだろうが、その中では彼女はまだ「おばさん」には見えなかった。
思わず私は、わざとらしく"偶然SNSを見付けた"体(てい)で茉莉ちゃんへメッセージを送った。
「結衣ちゃん、久しぶり~! ひゃあ、都会のキャリアウーマンはさすが綺麗だねぇ」
連休を利用して地元へ帰り、彼女と会うことになった。中学は別々のところへ通っていたから、会うのは小学校卒業以来だった。それなのに私のことを覚えていてくれて、なおかつ躊躇わずに会おうと言ってくれた彼女に感謝した。私だったら、そんなに長い期間離れていて友人と呼べるかも怪しい関係の人間から連絡が来たら、宗教かマルチの勧誘ではないかと怯えていたかもしれない。
「結衣ちゃん、大学から東京行っちゃってたんでしょ? 本当にひさしぶりだよね」
「うん、休み少なくて地元帰ってきても、実家と親戚の家だけで終わっちゃってたし、あんまりこっちの友達とも会ってなくて」
「仕事忙しいの? でも格好いいね、憧れちゃう。私バカだからなー」
嫌味ったらしくもなく、純粋そうな目で茉莉ちゃんが私に微笑んだ。
茉莉ちゃんは、地元の短大を出て二年程働き、結婚して専業主婦になっていた。
「茉莉ちゃん、小学校の時『およめさん』になりたいって言ってたでしょ。夢、叶ってよかったね」
「いや……実は、恥ずかしながら出来婚でさ。結婚式、挙げてないんだよねぇ」
意外だった。今子供は二人いるという彼女は、毎日家事に育児に精一杯で、自分がドレスを着ることに対する憧れは消えてしまった、と言った。ドレスを着るにはダイエットもしなくちゃいけないし、そのお金あったら子どもを遊園地に連れて行ったりできると考えると、たとえ数万円でももったいなく思っちゃって、と。
今日は親に子供を預けてきて、一人で街を歩くのが久々でウキウキしている、と言った。
「主婦になってさ、ほんと見た目に気を使わなくなってやばいよー。お店とかでも子どもが喚いたら怒鳴っちゃうしさぁ。独身の頃だったら、大声出すなんてはしたなくてできないって思ってたのに」
彼女の語る自己像は、私が忌避していた「おばさん」そのものだった。ただ、目の前にいる茉莉ちゃんは肌も綺麗だし服も整っているし、幼い頃見た「おばさん」とは違って見えた。
「結衣ちゃんと会うからちゃんと化粧してきたけど、いつもはスッピンだよー。服だって二年前くらに買ったの引っ張り出してきたし、全然」
そうやって笑う彼女は、喋り方も幼いように思えるのに、私よりも格段に大人に思えた。
――私は、他人のことを否定して、「なりたくない」ばっかり考えすぎてたのかな。
仮にあの時思った「おばさん」になったからと言って、必ずしも同じになるとも限らないのに。
一人暮らしをし始めた頃は家事だけでいっぱいいっぱいだったが、それも慣れきって午前中だけで家事を終えてしまう。
小学校の頃「およめさん」になりたいと語った、茉莉ちゃんのことをなぜか思い出す。なんとなくSNSの検索窓口に彼女の名前を入力して、ボタンを押した。漢字フルネームで入力したところ、一発でヒットしてしまった。"知らない苗字""元々の苗字""名前"という構成で書かれているところを見ると、念願叶って「およめさん」になったのだろう。
彼女のページへ飛ぶと、「最近はこっちに投稿することが多いです★」と別のSNSのリンクがご丁寧に貼ってある。顔写真に、漢字で旧姓と新姓の両方に、他のSNSページ……こんなに明け透けに晒してしまって大丈夫なのかな、とわざわざ検索した自分を棚に上げて少し心配になった。
写真投稿が中心のそのSNSは、割と想像通りだった。手作りの料理に子供のイベントなどが、パステルとスタンプで加工された写真で溢れている。肌も白く目も大きくしているだろうが、その中では彼女はまだ「おばさん」には見えなかった。
思わず私は、わざとらしく"偶然SNSを見付けた"体(てい)で茉莉ちゃんへメッセージを送った。
「結衣ちゃん、久しぶり~! ひゃあ、都会のキャリアウーマンはさすが綺麗だねぇ」
連休を利用して地元へ帰り、彼女と会うことになった。中学は別々のところへ通っていたから、会うのは小学校卒業以来だった。それなのに私のことを覚えていてくれて、なおかつ躊躇わずに会おうと言ってくれた彼女に感謝した。私だったら、そんなに長い期間離れていて友人と呼べるかも怪しい関係の人間から連絡が来たら、宗教かマルチの勧誘ではないかと怯えていたかもしれない。
「結衣ちゃん、大学から東京行っちゃってたんでしょ? 本当にひさしぶりだよね」
「うん、休み少なくて地元帰ってきても、実家と親戚の家だけで終わっちゃってたし、あんまりこっちの友達とも会ってなくて」
「仕事忙しいの? でも格好いいね、憧れちゃう。私バカだからなー」
嫌味ったらしくもなく、純粋そうな目で茉莉ちゃんが私に微笑んだ。
茉莉ちゃんは、地元の短大を出て二年程働き、結婚して専業主婦になっていた。
「茉莉ちゃん、小学校の時『およめさん』になりたいって言ってたでしょ。夢、叶ってよかったね」
「いや……実は、恥ずかしながら出来婚でさ。結婚式、挙げてないんだよねぇ」
意外だった。今子供は二人いるという彼女は、毎日家事に育児に精一杯で、自分がドレスを着ることに対する憧れは消えてしまった、と言った。ドレスを着るにはダイエットもしなくちゃいけないし、そのお金あったら子どもを遊園地に連れて行ったりできると考えると、たとえ数万円でももったいなく思っちゃって、と。
今日は親に子供を預けてきて、一人で街を歩くのが久々でウキウキしている、と言った。
「主婦になってさ、ほんと見た目に気を使わなくなってやばいよー。お店とかでも子どもが喚いたら怒鳴っちゃうしさぁ。独身の頃だったら、大声出すなんてはしたなくてできないって思ってたのに」
彼女の語る自己像は、私が忌避していた「おばさん」そのものだった。ただ、目の前にいる茉莉ちゃんは肌も綺麗だし服も整っているし、幼い頃見た「おばさん」とは違って見えた。
「結衣ちゃんと会うからちゃんと化粧してきたけど、いつもはスッピンだよー。服だって二年前くらに買ったの引っ張り出してきたし、全然」
そうやって笑う彼女は、喋り方も幼いように思えるのに、私よりも格段に大人に思えた。
――私は、他人のことを否定して、「なりたくない」ばっかり考えすぎてたのかな。
仮にあの時思った「おばさん」になったからと言って、必ずしも同じになるとも限らないのに。
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