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第1章 転生からの逃亡

第19話 女神の声

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 衛兵を一人生贄に捧げることで、予定を変更した理由を聞けることに。……長かった。

「あなたの他に上級の方が二人と、『七勇』の聖女様と似た職業だけど少し劣った【聖者】が、今回予定を変更された方々です」

「何故です?」

「……取引の材料です。一応の名目は下賜となっていますが」

「なるほど。下賜という名の売却ですか。勇者を下げ渡すほど優遇しているのだから、何かを寄こせとか便宜を図れという取引に使われたということですね?」

「……そうです」

「チッ。もしかして出発は今日ですか?」

「そうです。それも今すぐです」

 早くないか? 何かさせるために派遣するなら、しっかりと準備させた方が先方に対しても礼を尽くしている印象を与えられると思うのだが。
 それをさせないってことは……何かあったな。

「もしかして、誰か逃げました?」

「――っ!」

「なるほど。だから、逃げる暇を与えないように馬車に詰めて送り出すというわけですね」

「……はい」

「まぁ心配いりませんよ。僕の職業は中級の【魔獣学者】ですよ? 迷宮でもスライムが精一杯でしからね。護送を担当する優秀な兵士なら余裕でしょう」

「もちろん、道中の安全は保障されています。王国の特殊部隊が護衛につきますからね」

「なるほど。快適な旅になりそうですね」

 ありがた迷惑。
 こうなったら一度北部に行ってから、西に向かうしかないかな。面倒くさい。

「あちらの箱馬車になります」

「……頑丈そうですね」

「それだけじゃなく、乗り心地も良いですよ」

「……楽しみです」

「じゃあ早速乗り込んでみましょう」

 言われるまま棺桶馬車に乗り込む。
 黒塗りの箱馬車を鑑定してみると、王国で一番丈夫で耐火性が高い木材を使用した馬車と表示された。
 それにしても、逃亡した阿呆たちのせいで必要以上に厳しく警戒され、すごく居心地が悪い。

「それではいってらっしゃい」

「え? もう? 早っ!」

 俺が馬車の確認をしていた間に扉を閉められ、ゆっくりと馬車は動き出していた。
 小さな窓からテントの姿が徐々に見えなくなって行くことで、旅立ちの実感が湧いてくる。

 ――ご主人様、駄犬は成長して帰って来ます。もちろん、美味しいお酒を持って。
 そのときはまた一緒に、先輩のお腹で寝ましょうね。

「いってきます」

 そのとき、「うむ」と聞こえた気がした。


 ◆


 さて、逃亡前に三週間にも及ぶ修業の成果を確認しておこう。


【名 前】ソウマ・ハヤシダ
【年 齢】15歳
【性 別】男性
【種 族】上位人族
【職 業】魔獣学者
【レベル】22
【状 態】健康
【従 魔】

【元気量】680
【魔力量】680
【ギフト】筆
【スキル】
〈固 有〉観見の魔眼
     魔獣図鑑
     無詠唱
〈常 時〉頑強:5(+2)
     悪食:5(+新)
     「特殊耐性」
     精神耐性:6 (+2)
     苦痛耐性:7 (+2)
     飢餓耐性:3 (+新)
     疲労耐性:5 (+新)
     封印耐性:4 (+新)
     即死耐性:5 (+新)
     「環境耐性」
     不浄耐性:4 (+新)
     塵埃耐性:5 (+新)
     「異常耐性」
     毒耐性 :5 (+新)
     病気耐性:3 (+新)
     硬直耐性:4 (+新)
     魅了耐性:7 (+2)
     恐怖耐性:5 (+新)
     恐慌耐性:4 (+新)
     「物理耐性」
     打撃耐性:5 (+新)
     衝撃耐性:3 (+新)
     斬撃耐性:3 (+新)
     貫通耐性:3 (+新)
     「魔法耐性」
     火炎耐性:3 (+新)
     烈風耐性:3 (+新)
     水魔耐性:3 (+新)
     岩土耐性:3 (+新)
     閃光耐性:2 (+新)
     闇影耐性:2 (+新)
     鑑定妨害:7 (+2)
     無音歩行:─ (→歩法)
     身体制御:─ (→体術)
〈任 意〉魔力感知:10(+6)
     魔力操作:10(+5)
     闘気操作:1
     身体強化:3 (+1)
     気配遮断:4 (+1)
     気配察知:6 (+3)
     危機察知:4 (+新)
     魔力察知:3 (+新)
     気配感知:5 (+新)
     索敵:1  隠形:1
     筆術:3  呼吸:10(+6)
     合気:6  気功:─ (+新)
     幽歩:6  転歩:1 (+新)
     硬身:5  柔身:3 (+新)
     雷声:1  投擲:4 (+新)
     料理:3  裁縫:3 (+新)
     掃除:3  洗濯:1 (+新)
     速読:4  解析:4 (+3)
     暗記:3  鑑定:5 (+3)      
     偽装:4  観察:10(+7)
     テイム:1
     魔獣親和:2 (+1)
     火属性魔法:5(+4)
     風属性魔法:5(+4)
     水属性魔法:5(+4)
     土属性魔法:5(+4)
     光属性魔法:5(+4)
     闇属性魔法:5(+4)
     無属性魔法:5(+4)
【魔 法】
〈Lv1〉魔力撃 着火 送風 清水 
     掘削  光  闇  念動
〈Lv2〉魔力弾 加熱 警報 乾燥
     清潔  手当 無臭 念板
     小火弾 微風弾 滴水弾
     石礫弾 閃光弾 暗転弾
【称 号】異世界人  (隠蔽)
     生命神の加護(隠蔽)
 

「おぉーー。めちゃくちゃ増えてる」

 特に耐性系スキルの増加量がすごい。
 女神様の加護のおかげもあるだろうけど、耐性スキルが生えるほど過酷な環境だったのだろう。
 それでも頑張れたのは、一緒にいるご主人様が超絶美人だったから。

 たとえ男だと思っていたとしても、ほとばしる色気は隠せるようなものではなかった。
 俺は十分元気になれたよ。
 自分の性別を心配したほどにね。

「いくつかカンストしたスキルもあるみたいだ」

 ご主人様曰く、カンストしてからが本当のスタートらしい。
 多くの者はカンストした瞬間、超越者にでもなったかのような優越感や全能感を感じるそうだ。
 それも仕方あるまい。
 知識様によれば、カンストスキル所有者は英雄と呼ばれる一部の強者しかいないらしい。

 つまり、俺も強者として扱われる可能性があるわけだ。
 だがしかし、ご主人様は「道具の使い方を完全習得しただけだ。手段が増えたにすぎない」と、一刀両断していた。
 そのときは自分がカンストするとは思っていなかったから、「へー、そうなんですねー」って適当に返事していた気がする。

 もっとちゃんと話を聞いておけばと、今更ながらに後悔。

「耐性で一番気になるのは、【即死耐性】かな。俺、死んだっけ?」

 不思議に思って鑑定してみると、例の最終試験で二度気絶したことで取得したらしい。
 そりゃあ戦闘開始直後に気絶したら死ぬか。

 でも、これで謎が解けた。性別間違いのときに気絶できなかった理由だ。
 この耐性スキルは気絶耐性でもあり、その結果気絶を防いだと。

 まぁ……ありがたいか。

「あと、ややこしいと言えば感知、察知のところかな。【索敵】もあるしね」

 知識様と【鑑定】の結果によると、察知は情報や経験から動きを推し量ること。感知は直観的に心に感じて知ること。
 気配で例える場合、気流の動きや足音などから敵味方関係なく、対象の気配を辿ったり存在を確認したりできる。情報が揃えば、人物の特定などもできる。
 対して、直観的に対象を捉える感知は、ある程度の慣れが必要だが、大まかな気配を知ることができる。もちろん、熟練度次第では詳細に知ることも可能だ。

 自分の性格や能力によってどちらかに分かれるらしく、俺みたいに複数の知覚系スキルを持っている者は少ないらしい。
 これは有利な点ではないか?
 あらゆる視点から漏れなく調査が可能ということは、それだけ安全を確保できるということだ。

 ちなみに、【索敵】は敵の位置を把握スキルで、スキルにより不意討ちを防ぐことができる。
 ついでに、【気配遮断】と【隠形】の違いは、単純に息を潜めて気配を消すスキルと、魔力を用いて認識阻害の効果を発揮するスキル。これだけの違いだ。

 他にも気になるところは多々あるが、スキルの増加量の割にレベルの上がりが悪い気がするのは気のせいか?
 かなりのスライムを倒したはずだが……。
 おかげでおやつも持ち出せたしね。

「あと、この点滅している二箇所。押せってことだよね?」

 固有スキルの【魔獣図鑑】と称号の【異世界人】の部分が、ずっと点滅しているのだが、極力見ないようにしている。
 称号の方は死人のお知らせでしょ?
 個人的は知らない人だからどうでもいいのだけど、機能の確認はしておかないといけないと思ってはいる。
 どこかに抜け穴でもあれば、死を偽装できるかもしれないしさ。

 固有スキルの方は、監視がいる前で使いたくないからという理由が一番大きい。
 魔導具を使って盗聴や盗撮をしてても何ら不思議ではない。むしろ、何もしてない方が心配になるわ。

 どうしようかと思っていると、突然修業中に何度も感じたぞくりとした感覚が背中を伝う。

「これはご主人様のスライム投げ警報だ……」

 直後、爆発のような音が轟き、馬車が上下に跳ねる。

「うおっ! いったい何事っ!?」

「――襲撃だぁぁぁっ!」

「戦闘準備っ」

「「「はっ!」」」

 了解であります。
 駄犬、逃走準備に入ります。

 まさかの出来事だが、これは正しく天恵からの天啓。
 まるで「チャンスを与えるから逃げなさい」と、女神様が耳元で囁いているかのように逃走を決める。

「問題は……どこから出るか」

 馬車の扉は当然外鍵つき。
 急ごしらえの鍵であることは扉のガタつきから分かるが、俺の意志では開閉することはできないことは間違いない。

「……仕方がない」

 静かにこっそりと出ていくことは諦めよう。
 音が響くが、基本的な鍵破りで脱出しようではないか。
 今回は脱出する大義名分もあるわけだし。

 ――《小火弾ファイアショット

 三つの圧縮玉を空中に待機させておき、それぞれを《小火弾》に変化させる。

 目標、蝶番周辺の隙間。
 縦方向で三連射。

「ていっ」

 着弾した《小火弾》は小爆発した。
 当然扉は吹き飛び、一部残骸のみ鍵代わりの鎖に繋がっていた。

「さすが圧縮玉だね。苦労した甲斐があったわ」

 さて、逃げますか。


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