暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第三章 雑用、始めます

第八六話 精霊ニュース

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 子爵に詰め寄られているエイダンさんには申し訳ないが、少しの間子爵の相手をしていてもらおう。

「ナディアさん。どうなりました?」

 本来の目的である雑用依頼についての相談の進捗が気になり、ルイーサさんについて手続きの準備をするナディアさんの下へ来た。

「うん。概ね赤竜の解体時に話した内容通りになった。場所と時間は依頼書に記載ということになった」

「じゃあ帰りましょうか」

「その場合、あの熊さんはどうなるんだ?」

 あの熊さんとは、現在ニアも含む熊好き同好会のメンバーたちが愛でている巨デブ神官熊のことだろう。
 能面様の出現を食い止め、般若様を癒やし続けた立役者だ。お礼をしたいとは思うけど、きっと帰還することになると思う。

「多分、帰ります」

「やっぱりか」

「教皇は不人気ですね」

「近づけないだろ」

 まぁ俺でも近づきにくい雰囲気が出ているから、ニアたちが近づけないのは不思議でもないか。

「あぁ。そう言えば、モフモフ歓迎会をしようと思っていたのですよ。子爵閣下からも親交を深めたいと希望されていますし。そのときにヴァルに呼んでもらいましょう」

「そうか。それはいいな」

 ということで、ルイーサさんたちにはナディアさんが、エイダンさんには俺がそれぞれ伝えに行くことに。

「──だから、いつ帰って来るかなんて知らんって」

「それじゃあ困るんだっ」

 行きたくねぇ……。

「おぉっ。どうした?」

 子爵からの追及から逃れたいエイダンさんは、俺を見つけると小走りで近づいてきて話題を変えるようにアイコンタクトをしてきた。

「そろそろ帰ろうかと」

「それは良いっ。ダニエル、表を片付けて来い」

「一人ではキツいなぁ」

「どうせ外に衛兵がいるだろうから、手伝ってもらえよ」

「説明から始めるのが面倒くさい」

「そこは領主の一声で」

「うむ。まぁ約束だしな」

「そのとおり」

 子爵の体が孤児院の門に向かったところで急いで声をかける。

「少々お待ちください」

「んっ?」

「以前お話をしておりました食事会。近日行いたいと思っておりまして」

「いつっ!?」

「本当は明日と言いたいところですが、本日の問題でそうもいかないと思いますので──」

「いや。明日で良いっ。少し時間を空けると邪魔者が現れて楽しなくなるからな」

「「邪魔者?」」

 子爵の行動を妨害できる人物は領地内にいないから、近隣の高位貴族か遠方の王族とかかな。

「帝国の問題で公爵閣下が緊急対策本部がある国境砦に向かうそうだが、その途中でここ【ポット】によるそうだ」

「……お前さん、ここにいて良いのか?」

「もちろん」

「いつもの騎士に聞いても同じことを言うか?」

「彼にはしばらく会えないから聞くことはできない」

「どこかに行ったのか?」

「彼は諸々の準備をしている」

「「…………」」

 世間ではそれを丸投げと言う。

「戻ったら抜け出せないのではないか?」

「だから泊めてくれ」

 エイダンさんの肩を掴んで拝み倒す子爵。
 対するエイダンさんはものすごく嫌そうな顔で「それは……」と、断り文句を探している。

「そうだっ。知り合いの宿屋に空きがあるぞっ」

「よしっ。今から予約してくるっ」

 行動原理やフットワークの軽さはテオに似ている気がする。
 多分、テオのお父さんである辺境伯も同様だろう。
 そしてこれから来る公爵も。

「じゃあ帰って準備しましょうか」

「酒を買いに行かねばなっ」

 きっとたくさんのモフモフが来るはず。
 子虎ちゃん以外の友達もできると良いな。
 楽しみだ。


 ◆ ◆ ◆


 その日、二つの世界に衝撃が走った。
 一つは精霊界。
 世界が創造されてから一度も創造神の介入がなかった精霊界。
 神はあくまでも中立。
 精霊の姿を視認できるものを優遇しても、気まぐれで行動しても全て不問。自由こそ自然のらしさであり厳しさだと神自身が承認していた。
 にもかかわらず、この度の布告。
 一人の人間に対し、精霊との絶縁宣言をした。
 それも名指しで。

 しかも直後、宣告された人物と契約していたであろう精霊が強制送還されてきたときには、まるで吊し上げになった状態で説明するはめになったという。
 精霊に罪はないというのに。

 その後、連日連夜開かれた集会。
 話題はいつもディルのこと。

 ──【星将獣】を二体も契約している人間とは?
 ──それもともに血の契約だと?
 ──精霊樹の準備もあるそうだ。
 ──どうやって居着こうか。
 ──抜け駆けはやめろっ!

 などなど。
 毎日喧々諤々の様相を呈していた。
 結局決着はつかず、接触も契約も全て自由で早いもの勝ちという主張が最多であったため、賛成派がゴリ押す形で集会は散会となった。


 ◆


 衝撃が走った2つ目の世界。
 それは地上界だ。
 多くの者は知ることもできないことだが、精霊と契約している種族は別である。
 精霊界での騒動も原因も全て現在の契約者に知らせ、精霊契約をしているものを雇っている雇用主にも騒動の内容を報告し、それが原因で地上界にも騒動が起きることになった。

「──ふざけるなっ!」
 
 彼が憤慨した理由は、二つの世界を震撼させた事件に対してではない。
 ダークエルフである彼も当然精霊と契約しているし、契約精霊に騒動の詳細を聞いている。が、彼には気に留める余裕はない。

「ふざけてなどおりません。私も人を助けたいという気持ちから治癒師になりましたが、私も生きていかねばなりません」

「分かっている」

「であるならば、夫人の治療は終了させていただきたく存じます」

「何故だっ!? 金は払うと言っている」

「そうですね。確かにお金があれば解決しそうな問題ですが……」

「では問題あるまいっ」

「いえね、シルフォード商会には大変お世話になりましたよ。毎回気持ちよく支払いをしていただいて。亭主であるあなたが用立てるというのも可能なのでしょう。ですが……」

「はっきり言ってくれ」

「分かりました。夫人の治療はシルフォード商会との契約でございましょう? 創造神様に呪詛を贈られた者の仕事を引き続き受注するというのは、外聞も悪いですしね。夫人に罪がないというのは分かっておりますが、私を必要としてくれる方々を断ってまで契約し続ける必要はないかなと」

「──ふざけるなっ!」

 創造神の呪詛。
 この魔王すら嫌厭すると言われる最凶最悪な呪い。
 過去にこの呪詛を受けたものは、種族至上主義による非人道的な実験や戦争が百年単位で行われたときに、大陸ごと呪ったときだけ。
 人類に対し莫大な損害を与える魔物の王にも、大陸の半分を人外魔境に変えた熊に対しても罰を与えない創造神が、数人の人間に対して呪詛を与えたという。

 長命種の歴史書に記載されている上、精霊に聞いても正しい解答を得られるという精霊関係者の常識である。
 治癒師のエルフも当然知っており、絶縁したいと思わないはずはなく、今が人生の瀬戸際だとすら思っていることだろう。

 ただ、他人がしたことで被害を受ける彼には激怒する権利はある。
 治癒師の治療によって小康状態の夫人だ。治療がなくなれば悪化することは目に見えていた。

「あなたも関係者だったのですから、いつかこうなると予想して対処するべきだったのでは?」

「同じ言葉を貴殿に贈ろう。誰が予想できた? 創造神の呪詛を個人で受ける? あり得んだろうっ」

「実際起きてしまったのです」

「貴殿は過程の話をしたかったのではないのか? 結果の話をするなら、対処云々は関係あるまい」

「……私に文句があるなら仕方がありません。治療はここまでとしましょう」

「──貴殿に創造神の呪詛があらんことをっ」

「ちっ」

 治癒師のような対応をする者は他にもいた。
 布告を出した直後に契約精霊によって通知された内容に即応した者たちは、何れも精霊と契約した者たち。
 例えば、夫人の治療薬を用意していた薬師。それから、シルフォード商会及び従業員や家族が居住している建物の大家など。
 シルフォード商会という有名な商会に所属していたため、不幸なことに従業員の多くは顔が売れている。

 中でも治療を断られた彼は、とある理由から知らぬ者はいないほどの有名人だった。
 とある理由とは、シルフォード商会会長レイフの影武者というものだ。ゆえに、治癒師含む一部の人間以外からはレイフ本人として対応されている。

 ただし、表の顔は。

 彼は裏社会で【風雲老君】と呼ばれるほどの有名人。
 有名人であるが、変装の名人である彼の本当の顔は誰も知らない。
 ダークエルフで精霊契約者という共通点はあれど、実力は雲泥の差である。

 本来であれば受けていない仕事も、家族のために受けていた。
 であるのに、全てを失うかもしれないという瀬戸際に立たされている。

『どうした? ジェスター』

「どうしただと? クソ治癒師が一方的に契約解除しやがったんだ」

『良かったじゃねぇか』

「何だと?」

『だって結局治る目処も立たず、金だけ垂れ流すだけだろ?』

「本気で言ってるのか?」

『お前こそ、ずっと寝たままの姿を見ていたいのかっ!?』

「そんなわけなかろうっ」

『なら何で今までクソ野郎に任せて治しに行かなかったんだよっ?!』

「──治せる者がいるならとっくに動いているっ。いないからクソ野郎の治療に縋ったのだ。何故分からんっ!」

 武闘派であるジェスターの精霊は当然の如く高位精霊。
 姿を現すだけで周囲の魔力に変化が生じるほどの存在で、興奮させた状態での論争では言葉一つ一つに〈威圧〉の効果が付与されている。
 常人にはとても堪えられるものではない。
 その興奮状態の高位精霊に怒気まで加わったら、周囲の環境に変化が生じることもある。

『はぁ~!?』

 そして、闇の高位精霊がキレた。
 直後、周囲一帯が暗闇に包まれた。
 自分の手すらも見えないほどの深く暗い闇。

「やめろ」

『使えない耳目などいらんだろ。オレ言ったよな? 治せるヤツが現れたって。闇の上位精霊の契約者が治療されたって言ったよな?』

「それは……」

『で? 何でここにいるんだ?』

「……」

『確かに簡単に近づけないだろうとは言った。だが、近づく努力もしないか。近づかなかったせいでもっと厳しくなった。せっかくの機会が失われたんだ。これで手遅れなら、お前のせいだ』

「──【ポット】に向かう」

『遅いってんだ』

 闇に包まれていた屋敷は、屋敷ごと街から消え去った。
 口さがない者たちは創造神の呪詛を受けたから消されたんだとか、神隠しだとか噂をしたそうだ。

 退去命令を出していた大家は噂で退去報告を聞き確認に来たが、望んだ形とは違う退去に呆然としたらしい。
 嫌厭された土地ということもあり、数日経った後に屋敷跡地前で気絶しているところを発見されたらしい。運ばれた治癒院はジェスターたちを見捨てた治癒師の病院。
 新進気鋭の新病院には、間借りから専属契約になった裏切り薬師もいた。

 偶然にも一箇所に集められた裏切り者は、この偶然に対して神の思し召しだとし、恐怖とともに慈悲を感じる。
 神への感謝を忘れないようにと、彼らは屋敷跡地に大きな病院を建て貧しくても治療を受けられるように努めるのだった。

「「「創造神様に感謝を」」」


 ◆ ◆ ◆

 


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