35 / 106
第一章 居候、始めます
第三四話 邪竜降臨
しおりを挟む
目の前の【餓炎狼公】及び、その部下たちが俺を誘拐犯として断定し、衛兵隊が俺を追ってきたということはすでに人質として子爵と取引を済ませており、領兵が敵対したことを意味する。
本当は北部と東部の戦争準備ではないことは分かっている。
東方辺境伯が、辺境伯領で二番目に大きいダンジョン都市の統治筆頭家臣の子爵に任せており、その補佐役として派遣しているのが諜報部隊隊長の【餓炎狼公】だ。
彼は表裏でサポートをしている優秀な人材で、北部の侯爵が辺境伯に同盟を持ちかけたきっかけになった人物でもある。
度々東部への進出を狙っていた王弟の部隊をことごとく排除し続けていたおかげで、王弟も東部を諦めたという。
その際の資料を見ていたから東部の辺境領への移住を決めたし、ある程度の勢力図も理解していた。
資料の中では他の要注意人物についても記載されており、特に注意が必要なのは──。
「ちょっと邪魔するよ」
処刑の直前に窓を破って乱入してきた、目の前の化け物だ。
「本当に邪魔ですね。急いでいるんですけど?」
「おや、奇遇だね。あたしも急いでいるんだよ」
「寝る時間ですもんね」
「女性を年寄扱いとは……礼儀は習わなかったみたいだね」
「無作法に窓を破って入ってくる方に礼儀を問われたくはないですね」
「口の減らないガキだ」
「口数が多い方ですね」
見た目がおばさんだから、そのままババアと言おうとしたが、即死級の地雷のような気がしたから止める。
「いやぁ、たまには外に出ないと駄目だねぇ。まさかこんな辺境に【青獅子】がいるとは思わなかったよ」
「恐れ入ります」
「はぁ……。魔力や気配から先にこちらに来たが、失敗したねぇ。あちらには部下を派遣したけど、【青獅子】まで出てこられたら部下の手に余るよ」
「はははっ。どうせあなたが行ったとしても、直接介入できないでしょう?」
「──ガキにしては知りすぎているのは何でだろうね?」
「年齢を重ねている割りに、善悪をまともに把握できない大人が多いのは何故でしょうね?」
直後、膨大な魔力が部屋に充満する。
が、俺は【念動】を習得した際に獲得した技能と、【念動】のおかげで魔力自慢の生物に強い。
──【神字:理体】
──〈魔力掌握〉
──【念動】
俺を押さえつけようとする魔力を侵食し、俺の制御下に置く。
同時に【念動】で魔力を動かし、【餓炎狼公】たちに降り注ぐように逸らす。
「──何者だね?」
「そうですね。最近【双竜の楽園亭】の子供になった、邪竜ですかね?」
「そういう意味じゃないんだけどね」
「あなたのことは知っていますので大丈夫ですよ。ルークにも聞いていますしね」
「……あっちに部下を派遣したのは、正解だったみたいだね。ルイーサたちは友達だから、あんたよりは話を聞いてくれそうだ」
「それは攻撃をしなかったら、の場合ですね。攻撃をしたら、ルークが殲滅することになってます。僕やルークを止めたいならば、【餓炎狼公】たちの処刑を邪魔せず、衛兵隊を撤退させれば済む話でしょう? 話す必要もない。僕たちは家族を助けてくれたから、テオドールを助けた。それなのに、中央貴族の話を鵜呑みにして僕たちを捕らえようとしている。こいつらは、まだ五歳の女の子を誘拐しようとした連中の味方をしているんですよ? さて、孤児院の経営者の感想は?」
「吐き気がするクソ共だね。──でも、こんなクソでもスラムの安全は保つには役立っているんだよ。だから、ここはあたしの顔に免じて許してやって欲しい。この通り」
孤児院の院長は、魔力を消し去り深く頭を下げた。
「拒否した場合は?」
「どうもできないね。でもその中央貴族の思い通りになるんじゃないか?」
治安が悪化した結果、中央貴族の進出が容易になるってことか?
「こいつらの不手際で進出していた中央貴族なら、すでにこの世にはいない。それにスラムの治安が何だって? こいつらがいるのに、アジトの地下には拉致された違法奴隷がたくさんいたけど? こいつらや衛兵隊がすることは、濡れ衣を着せた平民家族を追い回すことじゃなくて、その囚われた人たちを助けることでは?」
「その通りだ」
「辺境伯は義理堅い人物だと聞いていた。だからこそ、平民や冒険者に人気があり、東部が危機に瀕した際に、誰もが辺境伯の下に集まり共に戦うのだと。しかし、実際はどうだ!? 中央貴族と何も変わらないっ! 貴族のためなら平民など死んでもいいのかっ!? それなら俺は、最後の一兵になろうとも全員殺してやるっ!」
──〈痛覚遮断〉
──〈身体強化〉
「──もういいのよ。ママが来たから。あなたは一人じゃないの。私はずっとあなたの味方よ。だから、一人で背負わなくていいの。みんな無事だから帰りましょう。ね?」
暗殺者時代を思い出し、死兵となる準備をしていると、突然後ろから抱きしめられた。
同時に数十分前に聞いていた声が聞こえる。
「シスター、あとのことは任せてもいいかしら? もちろん、タダじゃないわよ? 彼らの命は安くないんでしょ?」
「感謝する」
「いいのよ。それと、あなた達は子爵のところに報告しに行くのでしょう? 伝言を頼まれてくれるかしら? 契約について話し合いましょうって。意味は分かるわよね?」
「それは──」
「あなたちに拒否権はないのよ? 中央貴族と違うところを見せてくれないと、あなたたちの命に価値はないのよ? 違うから私がディルを止めて、生きるための機会をあげたの。理解したなら早く行動なさい。ルークが衛兵隊を全滅させちゃうわよ?」
「畏まりましたっ」
「ではまた会いましょう」
ルイーサさんが落とし所を作ったことで帰宅することになるのだが、どうにもすっきりせず足が動かなかった。
そんな俺を見たルイーサさんが、俺にとって魅力的な提案をしてくる。
「大人しく帰るなら、良い子の証明になるわね。折檻の期間を短縮してあげるわよ?」
「………………次はない」
それだけ言って帰宅を選択するのだった。
本当は北部と東部の戦争準備ではないことは分かっている。
東方辺境伯が、辺境伯領で二番目に大きいダンジョン都市の統治筆頭家臣の子爵に任せており、その補佐役として派遣しているのが諜報部隊隊長の【餓炎狼公】だ。
彼は表裏でサポートをしている優秀な人材で、北部の侯爵が辺境伯に同盟を持ちかけたきっかけになった人物でもある。
度々東部への進出を狙っていた王弟の部隊をことごとく排除し続けていたおかげで、王弟も東部を諦めたという。
その際の資料を見ていたから東部の辺境領への移住を決めたし、ある程度の勢力図も理解していた。
資料の中では他の要注意人物についても記載されており、特に注意が必要なのは──。
「ちょっと邪魔するよ」
処刑の直前に窓を破って乱入してきた、目の前の化け物だ。
「本当に邪魔ですね。急いでいるんですけど?」
「おや、奇遇だね。あたしも急いでいるんだよ」
「寝る時間ですもんね」
「女性を年寄扱いとは……礼儀は習わなかったみたいだね」
「無作法に窓を破って入ってくる方に礼儀を問われたくはないですね」
「口の減らないガキだ」
「口数が多い方ですね」
見た目がおばさんだから、そのままババアと言おうとしたが、即死級の地雷のような気がしたから止める。
「いやぁ、たまには外に出ないと駄目だねぇ。まさかこんな辺境に【青獅子】がいるとは思わなかったよ」
「恐れ入ります」
「はぁ……。魔力や気配から先にこちらに来たが、失敗したねぇ。あちらには部下を派遣したけど、【青獅子】まで出てこられたら部下の手に余るよ」
「はははっ。どうせあなたが行ったとしても、直接介入できないでしょう?」
「──ガキにしては知りすぎているのは何でだろうね?」
「年齢を重ねている割りに、善悪をまともに把握できない大人が多いのは何故でしょうね?」
直後、膨大な魔力が部屋に充満する。
が、俺は【念動】を習得した際に獲得した技能と、【念動】のおかげで魔力自慢の生物に強い。
──【神字:理体】
──〈魔力掌握〉
──【念動】
俺を押さえつけようとする魔力を侵食し、俺の制御下に置く。
同時に【念動】で魔力を動かし、【餓炎狼公】たちに降り注ぐように逸らす。
「──何者だね?」
「そうですね。最近【双竜の楽園亭】の子供になった、邪竜ですかね?」
「そういう意味じゃないんだけどね」
「あなたのことは知っていますので大丈夫ですよ。ルークにも聞いていますしね」
「……あっちに部下を派遣したのは、正解だったみたいだね。ルイーサたちは友達だから、あんたよりは話を聞いてくれそうだ」
「それは攻撃をしなかったら、の場合ですね。攻撃をしたら、ルークが殲滅することになってます。僕やルークを止めたいならば、【餓炎狼公】たちの処刑を邪魔せず、衛兵隊を撤退させれば済む話でしょう? 話す必要もない。僕たちは家族を助けてくれたから、テオドールを助けた。それなのに、中央貴族の話を鵜呑みにして僕たちを捕らえようとしている。こいつらは、まだ五歳の女の子を誘拐しようとした連中の味方をしているんですよ? さて、孤児院の経営者の感想は?」
「吐き気がするクソ共だね。──でも、こんなクソでもスラムの安全は保つには役立っているんだよ。だから、ここはあたしの顔に免じて許してやって欲しい。この通り」
孤児院の院長は、魔力を消し去り深く頭を下げた。
「拒否した場合は?」
「どうもできないね。でもその中央貴族の思い通りになるんじゃないか?」
治安が悪化した結果、中央貴族の進出が容易になるってことか?
「こいつらの不手際で進出していた中央貴族なら、すでにこの世にはいない。それにスラムの治安が何だって? こいつらがいるのに、アジトの地下には拉致された違法奴隷がたくさんいたけど? こいつらや衛兵隊がすることは、濡れ衣を着せた平民家族を追い回すことじゃなくて、その囚われた人たちを助けることでは?」
「その通りだ」
「辺境伯は義理堅い人物だと聞いていた。だからこそ、平民や冒険者に人気があり、東部が危機に瀕した際に、誰もが辺境伯の下に集まり共に戦うのだと。しかし、実際はどうだ!? 中央貴族と何も変わらないっ! 貴族のためなら平民など死んでもいいのかっ!? それなら俺は、最後の一兵になろうとも全員殺してやるっ!」
──〈痛覚遮断〉
──〈身体強化〉
「──もういいのよ。ママが来たから。あなたは一人じゃないの。私はずっとあなたの味方よ。だから、一人で背負わなくていいの。みんな無事だから帰りましょう。ね?」
暗殺者時代を思い出し、死兵となる準備をしていると、突然後ろから抱きしめられた。
同時に数十分前に聞いていた声が聞こえる。
「シスター、あとのことは任せてもいいかしら? もちろん、タダじゃないわよ? 彼らの命は安くないんでしょ?」
「感謝する」
「いいのよ。それと、あなた達は子爵のところに報告しに行くのでしょう? 伝言を頼まれてくれるかしら? 契約について話し合いましょうって。意味は分かるわよね?」
「それは──」
「あなたちに拒否権はないのよ? 中央貴族と違うところを見せてくれないと、あなたたちの命に価値はないのよ? 違うから私がディルを止めて、生きるための機会をあげたの。理解したなら早く行動なさい。ルークが衛兵隊を全滅させちゃうわよ?」
「畏まりましたっ」
「ではまた会いましょう」
ルイーサさんが落とし所を作ったことで帰宅することになるのだが、どうにもすっきりせず足が動かなかった。
そんな俺を見たルイーサさんが、俺にとって魅力的な提案をしてくる。
「大人しく帰るなら、良い子の証明になるわね。折檻の期間を短縮してあげるわよ?」
「………………次はない」
それだけ言って帰宅を選択するのだった。
45
あなたにおすすめの小説
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う
シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。
当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。
そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。
その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
社畜の異世界再出発
U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!?
ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。
前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。
けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる