暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第一章 居候、始めます

第三四話 邪竜降臨

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 目の前の【餓炎狼公】及び、その部下たちが俺を誘拐犯として断定し、衛兵隊が俺を追ってきたということはすでに人質として子爵と取引を済ませており、領兵が敵対したことを意味する。
 本当は北部と東部の戦争準備ではないことは分かっている。
 東方辺境伯が、辺境伯領で二番目に大きいダンジョン都市の統治筆頭家臣の子爵に任せており、その補佐役として派遣しているのが諜報部隊隊長の【餓炎狼公】だ。
 彼は表裏でサポートをしている優秀な人材で、北部の侯爵が辺境伯に同盟を持ちかけたきっかけになった人物でもある。

 度々東部への進出を狙っていた王弟の部隊をことごとく排除し続けていたおかげで、王弟も東部を諦めたという。
 その際の資料を見ていたから東部の辺境領への移住を決めたし、ある程度の勢力図も理解していた。

 資料の中では他の要注意人物についても記載されており、特に注意が必要なのは──。

「ちょっと邪魔するよ」

 処刑の直前に窓を破って乱入してきた、目の前の化け物だ。

「本当に邪魔ですね。急いでいるんですけど?」

「おや、奇遇だね。あたしも急いでいるんだよ」

「寝る時間ですもんね」

「女性を年寄扱いとは……礼儀は習わなかったみたいだね」

「無作法に窓を破って入ってくる方に礼儀を問われたくはないですね」

「口の減らないガキだ」

「口数が多い方ですね」

 見た目がおばさんだから、そのままババアと言おうとしたが、即死級の地雷のような気がしたから止める。

「いやぁ、たまには外に出ないと駄目だねぇ。まさかこんな辺境に【青獅子】がいるとは思わなかったよ」

「恐れ入ります」

「はぁ……。魔力や気配から先にこちらに来たが、失敗したねぇ。あちらには部下を派遣したけど、【青獅子】まで出てこられたら部下の手に余るよ」

「はははっ。どうせあなたが行ったとしても、直接介入できないでしょう?」

「──ガキにしては知りすぎているのは何でだろうね?」

「年齢を重ねている割りに、善悪をまともに把握できない大人が多いのは何故でしょうね?」

 直後、膨大な魔力が部屋に充満する。
 が、俺は【念動】を習得した際に獲得した技能と、【念動】のおかげで魔力自慢の生物に強い。

 ──【神字:理体】
 ──〈魔力掌握〉
 ──【念動】

 俺を押さえつけようとする魔力を侵食し、俺の制御下に置く。
 同時に【念動】で魔力を動かし、【餓炎狼公】たちに降り注ぐように逸らす。

「──何者だね?」

「そうですね。最近【双竜の楽園亭】の子供になった、邪竜ですかね?」

「そういう意味じゃないんだけどね」

「あなたのことは知っていますので大丈夫ですよ。ルークにも聞いていますしね」

「……あっちに部下を派遣したのは、正解だったみたいだね。ルイーサたちは友達だから、あんたよりは話を聞いてくれそうだ」

「それは攻撃をしなかったら、の場合ですね。攻撃をしたら、ルークが殲滅することになってます。僕やルークを止めたいならば、【餓炎狼公】たちの処刑を邪魔せず、衛兵隊を撤退させれば済む話でしょう? 話す必要もない。僕たちは家族を助けてくれたから、テオドールを助けた。それなのに、中央貴族の話を鵜呑みにして僕たちを捕らえようとしている。こいつらは、まだ五歳の女の子を誘拐しようとした連中の味方をしているんですよ? さて、孤児院の経営者の感想は?」

「吐き気がするクソ共だね。──でも、こんなクソでもスラムの安全は保つには役立っているんだよ。だから、ここはあたしの顔に免じて許してやって欲しい。この通り」

 孤児院の院長は、魔力を消し去り深く頭を下げた。

「拒否した場合は?」

「どうもできないね。でもその中央貴族の思い通りになるんじゃないか?」

 治安が悪化した結果、中央貴族の進出が容易になるってことか?

「こいつらの不手際で進出していた中央貴族なら、すでにこの世にはいない。それにスラムの治安が何だって? こいつらがいるのに、アジトの地下には拉致された違法奴隷がたくさんいたけど? こいつらや衛兵隊がすることは、濡れ衣を着せた平民家族を追い回すことじゃなくて、その囚われた人たちを助けることでは?」

「その通りだ」

「辺境伯は義理堅い人物だと聞いていた。だからこそ、平民や冒険者に人気があり、東部が危機に瀕した際に、誰もが辺境伯の下に集まり共に戦うのだと。しかし、実際はどうだ!? 中央貴族と何も変わらないっ! 貴族のためなら平民など死んでもいいのかっ!? それなら俺は、最後の一兵になろうとも全員殺してやるっ!」

 ──〈痛覚遮断〉
 ──〈身体強化〉

「──もういいのよ。ママが来たから。あなたは一人じゃないの。私はずっとあなたの味方よ。だから、一人で背負わなくていいの。みんな無事だから帰りましょう。ね?」

 暗殺者時代を思い出し、死兵となる準備をしていると、突然後ろから抱きしめられた。
 同時に数十分前に聞いていた声が聞こえる。

「シスター、あとのことは任せてもいいかしら? もちろん、タダじゃないわよ? 彼らの命は安くないんでしょ?」

「感謝する」

「いいのよ。それと、あなた達は子爵のところに報告しに行くのでしょう? 伝言を頼まれてくれるかしら? 契約について話し合いましょうって。意味は分かるわよね?」

「それは──」

「あなたちに拒否権はないのよ? 中央貴族と違うところを見せてくれないと、あなたたちの命に価値はないのよ? 違うから私がディルを止めて、生きるための機会をあげたの。理解したなら早く行動なさい。ルークが衛兵隊を全滅させちゃうわよ?」

「畏まりましたっ」

「ではまた会いましょう」

 ルイーサさんが落とし所を作ったことで帰宅することになるのだが、どうにもすっきりせず足が動かなかった。
 そんな俺を見たルイーサさんが、俺にとって魅力的な提案をしてくる。

「大人しく帰るなら、良い子の証明になるわね。折檻の期間を短縮してあげるわよ?」

「………………次はない」

 それだけ言って帰宅を選択するのだった。



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