暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第三章 雑用、始めます

第八〇話 熊神裁判

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 ディルが折檻デートに出発する頃、東部辺境伯領からもたらされた緊急連絡により東部各地の貴族家は上を下への大騒ぎで、緊急対策本部を設けるために派遣する人員の選抜が行われていた。
 当然、ポットからも派遣しなければいけない。
 基本的には当主が向かう。
 どうしても無理な場合のみ、権限を与えられた名代が当主代理として参加することになる。
 今回、東部公爵自ら参加されると事前に通達されているため、無理を押しても当主本人が参加することが貴族として当然の行動だろう。

 しかし、近々行われるであろう食事会にどうしても参加したい子爵は、長期間拘束されるであろう緊急対策本部などに参加したくなかった。絶対に。
 それゆえ、どうやって代理に擦り付けるかを考えていた。
 各地の情報を集め、それを精査している作業中もずっと。

「うーむ……」

「閣下、手が止まってます」

 ディルに対する事情聴取の場にいて子爵にメモを手渡していた騎士が、今日も今日とて監視兼補佐を務めていた。

「良くないか?」

「何がです?」

「敵国の『帝国で天変地異が起きた』。これのどこが問題なんだ? 天罰が下ったと思えば、全てすっきりすると思うが?」

「不謹慎ですよ」

「諜報員もいちいち連絡してこなくても……」

「彼らはそれが仕事です。それに原因が分からなければ、隣接している東部に被害が出る可能性もあるのですよ?」

「そのような可能性はない」

「何故です?」

「天罰が下るようなことはしていないからな」

「……最近、危うく更地になるところでしたけど?」

「…………私は徳を積んだ、とだけ言っておこう」


 一人天罰から脱しようとしている子爵にジト目を向ける騎士は、子爵の魂胆をしっかり把握している。
 夫人も把握しているため、子爵を一人にしない。
 出発予定日まで拘束し、必ず馬車に押し込もうと目を光らせている。

「──チッ」

 子爵も夫人や部下の魂胆を把握しているため、今回も変わらず睨み合いが続いている。

「どうされました?」

「インクが切れたようだ。少し席を外す」

「用意しておりますよ」

「…………気が利くな」

「恐れ入ります」

 隙を見て脱走するため、すでに書き置きを作成済みであるし、脱走セットも複数箇所に隠してある。
 このような行動は本来なら貴族としては処罰級の行動だが、東部の軍家当主はほとんどが似た者同士だ。処罰した瞬間、「お前もな」とカウンターパンチを食らうことが目に見えているゆえ誰も指摘しない。

 軍家当主たちも時と場を選んでおり、戦場は皆勤賞。それ以外は気分次第と、一応考えて行動している。
 欠席した諸侯に対しては「上手くやったな」と思う程度だ。

 今回もいつもと変わらず脱走合戦が行われることだろうと予想されていたが、公爵自ら出席されるという珍事によりほとんどの当主が参加せざるを得ない事態になった。
 しかも、公爵はポットに寄ると連絡してきたのだ。

「──面倒なことを」

 連絡を聞いた子爵は、親の仇かのように低い声で呟いた。
 それも怒りをにじませて。

「今回ばかりは閣下も逃げられませんね」

 代理で向かうことになるかもしれない部下の晴れ晴れとした台詞が、これまた子爵の機嫌を悪くする。

「うーむ……」

「どうしました?」

 明るい声色の部下に対し、敗色濃厚の子爵は「詰んだ……」と絶望していた。
 もちろん、諦められずに「奇跡よ、起きろっ」と切望し祈ってもいる。

 そして、そんな子爵の思いに応えるように奇跡が起こった。


「──徳は無駄ではなかったな」

「はぁ?」

 直後、膨大な魔力の渦が領主城を襲う。
 戦闘に長けた子爵だからこそ、いち早く異変に気づき行動に移すことができた。

 隣室に向かい、軽鎧を纏い両手斧を背負った後、三階にもかかわらず窓から飛び降りた。

「──閣下ぁぁぁぁっ!」

「あとは頼んだぁぁぁぁっ」

「嫌ですぅぅぅぅっ!」

 部下の拒否や罵詈雑言を聞き流し、家屋の屋根をひた走る。
 せっかちな領主のために、城から中心街まで直接屋根伝いに行けるよう一部家屋の屋根が補強されていた。
 脱走常習者の子爵は、その全てのルートを完璧に把握しており、今回も魔力の爆心地である孤児院に最短ルートで向かうことができた。

「──んっ? ここからは無理か」

 本来だったらスラムだった場所が、今は更地になっていて否が応でも屋根から降りなければならなかった。

「んー……キツイな……」

 魔力の爆心地の魔力濃度は、経験豊かな子爵にとっても意識を失いそうなほど濃く、子爵の物差しで測るならスタンピード発生直前の魔力溜まりのような濃さと同等で、思わずその場に膝をついてしまった。

「いったい何が……」


 ◆ ◆ ◆


 一方、孤児院では。

「「可愛いぃぃぃぃっ」」

 テオとニアが巨大な熊、その名も『教皇』を見て大はしゃぎしていた。

「もふもふだぁ」

 ニアはひっくり返るんじゃないかってくらい教皇を見上げ、特にタプタプしてそうな魅力的な顎をナディアさんにプレゼンしていた。
 対するテオはというと、興奮しすぎて気絶しそうになっていた。

「なぁ……天国にいるよな?」

「僕に聞いてる?」

 コクコクと頷くテオ。
 悪いけど、俺は天国に行ったことはない。
 それゆえ──。

「分からん」

「いてくださいっ」

 熊神様に切実に祈りを捧げ、極楽の天国ツアーにしようとするテオ。

「そんなことよりさぁ、錚々たる顔ぶれだね」

「そんなことじゃないっ! 何よりも大切なことだっ!」

 いやいや。
 最初見たときは「誰だよ」って思ったけど、よくよく一人ずつしっかり確認してみると「ヤバー」って言葉が無意識的に飛び出した。

 ヴァルが召喚した者たちのグループは、大まかに分けて三つ。

 一つ目、犯罪者グループ。
 囚人服とまでは言わないけど、みすぼらしい格好をした拘束具付きの人たち。

 二つ目、反逆者グループ。
 潜在的な犯罪者と言うのは言い過ぎだけど、放置していたら高確率で危害を加えてくることが予想される人たち。

 三つ目、従属者グループ。
 このグループだけ少し離れた場所に召喚され、さらに教皇が連れてきたであろう騎士たちに囲まれていない。

 そう、熊神裁判を受ける予定の者たちは現在進行形で重武装の熊騎士に囲まれ、ハルバードの矛先を向けられているのだ。
 いきなり召喚されただけでも混乱しているだろうに、グループごとに喉元に矛先を向けられる恐怖。脳みそが機能停止しても仕方がない。

「ねぇ、テオ様。あそこ見てみ?」

「あ? ──えっ!?」

「知ってる人だったでしょ?」

「あぁ……。どうしよう……」

 各々知り合いを見つけては「どうしよう」と呟き、必然的にヴァルに視線を向ける。

『お久しぶりですっ』

『うむ。息災で何より』

『有難きお言葉っ』

『此度も任せるぞ』

『はいっ。お任せあれっ!』

 教皇は教皇なりに片膝になって神託を賜っているらしいのだが、衣服のせいかあまり変化がない。
 ただただオーバーリアクションで「可愛い」という感想以外出てこない。

『では、熊神裁判を始める』

 教皇の開廷宣言を受け、熊騎士たちは矛先を空に向けて石突を地面に突き、三度足踏みとともに打ち鳴らした。

『判決を言い渡す』

 ──早っ!

『主文、被告人を死刑に処す』

 極端だな。
 執行まで犯罪奴隷とかになるのかな?

『閉廷。断頭台の用意を始めよ』

 は、はい?

「ちょっ、ちょっと待たない?」

 般若様の状態が続いたため、ずっと巨デブ神官熊に抱きしめられていたルイーサさんが思わず待ったをかけた。
 が、止まらぬ教皇と熊騎士たち。

 断頭台の設置と、鋒が丸くなった処刑剣を携えた処刑熊の登場で、処刑の現実味がさらに高まっている。
 同時に止めたい人たちの焦燥感も高まっていた。

「ヴァル、ちょっと待って欲しいの」

『うん? 何故だ?』

「知り合いがいるのよねぇ」

『我は知らぬ』

 でしょうね。
 昨夜来たばかりだからね。

『教皇、知ってるか?』

『知りませぬ』

 でしょうね。
 逆に知っていたら情状酌量の余地があったってことかな?

 ちなみ、ルイーサさんたちが焦っているのにはしっかりとした理由がある。

 まず、犯罪者グループに子爵家嫡男と家宰がいること。
 彼らはシェイドール商会に関する事情聴取が行われていると聞いていたけど、まさかの犯罪者枠という衝撃の事実。
 隣に孤児院を搾取していたゴミ虫共がいたから、俺達に対する悪意も高い方なのだろう。

 次に、反逆者グループ。
 こちらが相当驚いた。
 なんと現在までの諸問題の清算ができる人物が勢揃いしているのだ。

 第一に、我らが奴隷「狼公一家」から狼公と一部部下たち。
 第二に、執行猶予中の冒険者ギルドからギルマスと一部幹部たち。
 第三に、シルフォード商会会長のレイフ。
 第四に、シェイドール商会支店長フリード。他の商会員たちは何故か一人もいない。
 第五に、宮廷魔法士五人衆。公爵領に行っていたはずなのに、結界の範囲内に入っているのはどうしてだろう。いずれにせよ運の悪い奴らだ。

 主要人物たちを取り上げると、この五組が目立つだろう。
 それ以外の人物は何者かすら分からなかったが、教皇がヴァルに手渡した情報を横から覗いたところ、「なるほど」と納得できた。

 衛兵らしい集団は、冤罪被害の特にルークに半殺しにされた者たちで、自分たちのことを棚に上げて一方的に悪意を募らせているらしい。
 続いて、少しやつれている人たちが固まっている集団。彼らは元々スラムに住んでいた人たちで、再開発地区が私有地になったと布告を出した後も勝手に住み続けていた人たち。
 先日の解体工事で強制退去に遭い、屋根なし着の身着のまま状態で路上生活しているそうだ。

 申し訳ないと思うけど、彼らは潜在的な犯罪者になり得ると個人的に思ったから強制退去を行った。
 働く気があるなら、面倒見が良いエイダンさんやルイーサさんに頭を下げているはず。俺も二人から紹介されていれば、よほどのことがなければ断ることはしないだろう。

 つまり、こちらも衛兵と同じく他責思考なんだろう。

 最後に、この集団に関しては俺達のせいじゃない。
 この集団が巻き込まれた原因を挙げるなら、冒険者ギルドと領主家のせいだろう。
 発端は数日前に行われた事情聴取。
 ポットの大組織が兵士を連れて事情聴取を行った。
 これだけでも噂にならないわけがないのに、冒険者ギルドの幹部陣が納得できない旨の愚痴をギルドで話していたそうだ。
 冒険者が多いポットで、冒険者の耳に入った噂話がどうなるかなど馬鹿でも分かるだろう。

 そう、一瞬で広まったのだ。

 尾ヒレ胸ビレが付いた噂話が瞬く間に広がり、それを真に受けた阿呆共が目の前の彼らである。

「うーん……有罪っ!」





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